↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
15/17

第十四章 直球の告白

翌朝、玲とジーナは旅外套を深く羽織り、村の小高い丘の上に建つローウェル男爵の屋敷へと向かった。


「城」と呼ぶにはあまりにも慎ましく、随所に木材での補修跡が見えるその屋敷には、門番の騎士すら立っていなかった。代わりに、庭木の手入れをしていた近所の老人が「アレン様なら奥の執務室にいらっしゃるよ」と、朗らかな笑顔で案内してくれた。警備の概念が文字通り存在しない、平和すぎる場所だった。


「どうぞ、入ってください。遠方からの旅人の方とお聞きしました。大したおもてなしはできませんが」


執務室の古い扉を開けると、そこには継ぎ当てだらけの上着を着た若い男爵、アレン・ローウェルが立っていた。

アレンは二人を警戒するどころか、自ら進んで木製の椅子を引き、年季の入った陶器の器に薄いハーブティーを淹れて差し出してくれた。


「山を越えるのは大変だったでしょう。この領地は見ての通り何もありませんが、水と空気だけは美味しいんです」


アレンの屈託のない笑顔と、その澄んだ瞳。

目の前の青年から溢れ出る圧倒的な「善人オーラ」に、百戦錬磨のゲリラであるジーナさえも、調子を狂わされたように苦笑いを浮かべた。



「……丁寧な歓迎、感謝する。男爵」


玲はハーブティーを一口すすり、静かに器を置いた。世間話はここまでだ。彼は本題に入るべく、意識して背筋を伸ばし、旅人の皮を脱ぎ捨てた。


「ここへ来る途中、村の連中からあんたの評判を聞いた。借金まみれになりながらも、民に飯を食わせ、薬を買い与えているそうだな。貴族の風上にも置けないほど、いい領主だ」


「はは、恥ずかしいな。父の遺言を守っているだけですよ。僕の代でローウェル家が潰れなければいいのですが……」


アレンは照れくさそうに頭を掻いた。そんな青年に向かって、玲は極めて低い、戦場の温度を宿した声で告げた。


「ところで、男爵。最近、中央や他領を騒がせている噂を聞いたか? 飛竜の群れを墜とし、あのグラハム伯爵の二千の軍勢を一日で踏み潰して『バルトロ解放区』を作った、使い魔の反逆者の話を」


アレンの動きが、ピタリと止まった。


「ええ……もちろん知っています。王国を揺るがしている『鋼の悪魔』、神崎玲という恐ろしい反逆者のことですよね? 遠い世界の話ですが、僕のような弱小貴族の間でも、その噂でもちきりです」


「そうか。――そいつが、俺だ」


玲は外套のフードを外し、アレンの目をまっすぐに見据えた。

隣でジーナが、懐からバルトロ城の印章が入った高級な羊皮紙を取り出し、机の上に静かに提示する。


「な……え……っ!?」


アレンの顔から、一瞬で血の気が引いた。額から一筋の冷や汗が流れ落ちる。

目の前にいる冴えない旅人が、国中を恐怖と熱狂に陥れている、あの「鋼の頭目」本人。信じがたい現実に、アレンの身体はガタガタと震え始めた。



「お、お願いです、命だけは……っ!」


アレンは椅子から転げ落ちるようにして後ずさり、両手を差し出した。


「うちの領地には、あなた方が奪えるような金目のものは何一つありません! 領民たちも飢えを凌ぐのが精一杯です! 僕の首ならいくらでも差し出します、だから、どうか民には手を出さないでくれ……!」


恐怖に怯えながらも、真っ先に「民の安全」を乞う男。

その姿を見て、玲の確信はより強固なものになった。


「勘違いするな、男爵。あんたの命を奪いに来たわけじゃない。むしろ逆だ」


玲は椅子から立ち上がり、床に膝をつきかけているアレンの前に歩み寄った。そして、一切の躊躇なく、極めて直球の言葉を突きつけた。


「アレン・ローウェル。あんたを、この王国の『まことの王』として、俺たちの神輿に担ぎたい」


「……は?」


アレンは鳩が豆鉄砲を食ったような顔になり、涙目のまま固まった。


「現在の王家や中央の公爵どもは、三百年前の政変で直系を簒奪した偽物の娘筋だ。お前たちローウェル家こそが、歴史の闇に追いやられた本来の『長男筋』、正統な王位継承者なんだよ。俺たち革命軍千二百人、そして十一機の鋼鉄の巨人は、あんたを本物の玉座へ押し上げるために動く。民のため、この歪んだ国家をぶっ壊すために、俺たちの旗印になってくれ」


嵐のような玲の言葉。

あまりにもスケールが大きすぎる、そして突拍子もない告白を前に、アレンはただただ口を開けたまま立ち尽くした。


「あの……ええと……王? 僕が……?」


アレンは自分の継ぎ当てだらけの服を見下ろし、それから玲とジーナの顔を交互に見た。


「すみません、おっしゃっていることの意味が、さっぱり分かりません。 僕はただの、貧乏男爵ですが……?」


世界の命運を握る「革命の頭目」と、何も知らぬ「辺境の聖者」。

対極にいる二人の奇妙な交渉が、このボロ屋敷の片隅で、本格的に幕を開けようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。