救世主、現れる。
よろしくお願いします。
「レディーになんてことをするんだ。」
店内に緊張感が走った。
わたしは、間一髪で彼の腕から逃げていたが、動きを止めて、声の主の方を見た。
声の主も30代のように見えるが、質屋の店の人の醸し出す雰囲気と全然違う。
私は直感した。
彼はかなりの偉い人だ。
人の上に立つ者、いわば人を従える雰囲気を持っていた。
「私は全てを聞いていた。
この帝国で、ダイヤモンドは1番価値の高い宝石だ。
お前は何を言っている?」
改めて、救世主はかなりのすごい人だと思った。彼の気配を今、わたしを助けるまで、わたしたち2人に気づかせないことも容易にしていたのだ。
声をかけられた質屋の店員はガタガタと震え、何も答えることができていなかった。
「そして、そこのレディーはこの宝石が間違いなくダイヤモンドであると証明できるのか?」
彼は質屋の店員の答えを諦めて、わたしに声を掛けてきた。
高圧的な雰囲気を持つ救世主に向かって、絶対、目は逸らさない。と思って、堂々と答えることを意識して返事をした。
「はい。できます。」
わたしは、転移前に本物のダイヤモンドの見極め方についてネットで確認して、このネックレスで実践しておいて良かった。とホッと胸を撫で下ろしながら、自分の行動に拍手した。
「では、試してみろ。」
「わかりました。ところで、水とガラスを借りることはできますか?」
「準備しろ。」
救世主は、もはや、質屋の店員を自分の家来のように扱った。
「かしこまりました。」
店員は、従順にその命令に従った。
そこから、私のプレゼンテーションが始まった。
「まず、一つ目の方法です。
ダイヤモンドは疎水性と言って水をはじく性質が高い物質です。
だから、ダイヤモンドに水をかけてみます。」
水をかけると、無事水を弾いて、一粒の滴が、キラリとダイヤモンドの上に残り、光り輝き、それが改めてネックレスを綺麗に魅せた。
彼らはその美しさに感嘆の声をあげた。
「二つ目の方法です。
ダイヤモンドはとても硬いので、ガラスで擦っても傷がつきません。お二方それぞれ、このガラスでダイヤモンドを擦ってみてください。」
そういうと、彼らは実践してくれた。
わたしがやるより、彼らがやってくれた方が本物という実感も強く湧いてくるだろう。という見込みからの提案だったが、上手くいったようだ。
救世主は
「傷がつかない。これは本物だな。」
と答え、店員はひたすら下を向き続けた。
さらに救世主は
「500万ゼッタ払うから、この品物を譲ってくれないか?」
とまで言った。私はその値段に恐れ慄いて、自分の考えていたことを述べてみた。
「わたしは、市場で仕入れた情報から150万ゼッタほどだと思っているのですが…」
「いいや、この精巧な技術はこの帝国にはなく、非常に価値のあるものだ。500万ゼッタを払ってでも欲しいと思う貴族はかなりいるだろう。」
改めて、わたしは考えてみた。
わたしは1人でこの世界を生き延びないといけないし、目的も達成しないといけない。
たくさんのお金をもらうより、こんなにすごい人とのコネを作ることのほうが重要ではないか。
そう鑑みて、わたしから提案をしてみた。
「250万ゼッタはどうですか?
残りの250万ゼッタ分はあなたから支援していただきたいのです。わたしが、困っていたら助けていただきたいのです。絶対に無茶なお願いはしないです。
どうでしょうか?」
救世主は、面白い提案だというふうにニヤリと笑い頷いた。
そして、
「私の名前はレーモンドだ。レイと呼んでくれ。」
と名前を教えてくれたので、私もエミリという名前を伝えた。
会ってすぐに愛称を教えてくれて嬉しかったし、彼の愛称は日本にもあったので、とても親近感がわいた。
質屋の店員のことを忘れていたが、改めて彼に声をかけた。
彼はかなりの目利きだと思ったし、彼には今後、全うなやり方で取引して欲しい。いつか、この質屋に行くかもしれないから。
「店員さん。わたしは、あなたにこのネックレスを売ろうと思っていました。
何か事情があったのかもしれません。
でも取引は不当に行なっていいとは思いません。
そして、あなたが不当な値段を言ったので、あなたはこのネックレスで得るはずだった利益を失ったと思います。
もちろん、人に手を出すことは絶対良くないことです。」
「はい。申し訳ないです。」
彼は静かに声を出した。
わたしはもう一つ伝えたいことが残っていたので、彼にさらに声をかけた。
「わたしは、あなたはかなりの目利きだと思います。
そして、いつか、わたしはこの店に換金をお願いするかもしれないです。
その時は正当な取引ができることを期待しています。
年下の小娘にこのようなことを言われるのは嫌だったかもしれませんが、いつか会う時はよろしくお願いします。」
彼は自分のした過ちと向き合って、涙を溜めて、頭を下げた。きっと、彼は悪い人ではないのだろうな。と直感的に感じた。
「本当に申し訳なかったです。エミリ様。」
慣れない様をつけられて、むず痒くなり、訂正することにした。
「エミリでいいですよ。あなたの名前は何ですか?」
「ジョンです。」
「ジョンさん。いつかまたわたしが質屋に来たときはよろしくお願いします。」
「はい。こちらこそ、もしまたここにお越し頂けるのならよろしくお願いします。そして、私も、"さん"は付けないでください。」
ジョンは、レイを恐れてか終始ビクビクしながら会話をしていた。
そして、わたしとレイは質屋を出た。
レイは、わたしがバックも何も持っていない様子から、家の近くでお金を渡そう。と提案してきた。
流石に現金を手持ちしていたら、誰に狙われるのかわからないので、わたしもその提案を有り難く了承した。
帰る途中に、服屋に行って、今後着ることができる服(もちろんバラの刺繍はない)そして、畑仕事や色々な作業ができるこの世界の作業着(あまり作業着には見えない可愛らしい服)をケイに選んでもらった。
最後は八百屋で、野菜の種、さらに、ジャガイモ(ジャガイモはかなり育てやすいらしいため)を10個は買った。
総額1万ゼッタの買い物だったが、全てケイが前払いをしてくれた。
あとで、250万ゼッタから1万ゼッタ引いてもらおう。
レイとは、買い物をしている間でかなり仲良くなることができた。レイは買い物の最中、わたしに対しても、庶民のふりをしていたけど、あまりにも彼を包むオーラが庶民っぽくなかったので、なんだかおもしろかった。
家に帰る途中も楽しく話すことができた。
レイには、家にあがってもらって感謝を伝えたい。と思ったが、アリスの家は、アリスが貴重品を十分に管理していたり、結界を張っていたので、まだ何があるかわからない状態だった。
(どんな物が家にあるかわからない以上、適切な対応ができないし、家の中で恩人のケイが危険な目にあう可能性も否めない。)
家の中を確認して、次の機会に招待した方が無難だと思って、レイに家の中にあがってもらうのは次回の機会とした。
そう考えているうちにアリスの家の前についたようだった。
わたしはレイに
「着きました。」
と言うと、
「やっぱりな。」
レイがそう答えたのが聞こえた気がした。しかし彼はその言葉をかき消して、
「取引をしよう。」
と言って250万ゼッタを渡してきた。
わたしは
「1万ゼッタを先程いただいたので249万ゼッタでいいです。」
といってネックレスを渡した。
レイは
「1万ゼッタは気にしなくていい。
ありがとうと笑って言ってくれた方が、こちらからしたら嬉しいんだが…」
と言ってきた。
なんて、紳士的な言い方なんだろう。
こういうところが、庶民っぽくないんですよ。ケイ。
そして、言い回しがかっこよすぎて断れないです。
「ありがとうございます。」
そう言って頭を下げると、驚くものを見つけた。
彼の皮の靴に目立たないほど小さな、少し青みがかかったバラの刺繍があったのだ。
観察力のあるジョンは、これにきっと気づいて、王家の方だと悟ったのだろう。そして、わたしのバラの服を見た時は、常識知らずの少女だと判断しての対応だったのだろう。
わたしとレイでは纏っている雰囲気が全く違うから、これはしょうがないなあ。
わたしはレイの身分を知って驚いたが、レイは自分が王家の者であることに関して、隠したいのだろう。
だから、わたしは大事なことをひとつだけ言って、レイの身分のことには触れなかった。
「わたしは旅人でバラの花の意味を知らなかったんです。どうか、この服のことは見逃してください。」
そういうと、レイは少し驚いた顔をしたが、すぐにふっと笑って
「ああ。大丈夫だ。
何かあったらここを訪ねて来い。」
と言って、親切なことに、彼が住んでいるところを地図にして教えてくれた。
「わかりました。ありがとうございます。
何かあったらそこを訪ねます。」
「あと、その姿で色々なところに行かないほうがいい。
今は市場だけにしておけ。
私が対策を講じてから色々な所に行ってくれ。」
「??わかりました?」
その姿とは??バラの服のことかな。もうバラの服は着ないと決めたんだけど…
新しい服も買ったし、対策ってなんなんだろう?
彼の言っていることはよくわからなかったが、これ以上聞いては行けない雰囲気だったので、流すことにした。
何にしろ、彼は、わたしのために対策まで講じてくれるらしいのだ。
ほんとうにレイは優しい。
わたしは、彼と出会えたことが今日1番の収穫だと思いながら、無事、家に入った。
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