エミリ、弟ができる。
よろしくお願いします。
わたしがこの世界に来て4日目の朝に彼は目を覚ました。
彼の回復力には惚れ惚れした。
あんなに怪我と高熱で苦しんでいたのに、熱は引いて、1日半程で目覚めたことにはビックリした。
少年は、目を覚ますと、
「本当に昨日は失礼な行動をしてごめん。
看病をしてくれてありがとう。
おれの名はルイスだ。……家名は失った。」
小さい声だったが、たしかにそう言った。
ルイスがその事で、辛い思いをしたのは間違いない。
この話は、ルイスがいつか話したくなった時に聞こうと思ったので、敢えて触れないでおいた。
「ううん。大丈夫よ。
わたしはエミリ。庶民だから、家名はないよ。
これから、よろしくね。」
「たくさんの貴重な薬を使ってくれて本当にありがとう。こんな薬は初めて見た。」
ルイスは、昨日より落ち着いていた。
わたしが彼に害を与えないということが伝わったのだろう。
「大丈夫だよ。わたしは旅人だから他国の薬をたまたま持っていただけなんだよ。
これは伝えたかったんだけど、ルイスはまだまだ、周りに甘えていいと思うの。
わたしも、あなたを助けたくてやったことだし、気にしなくていいの。」
ルイスに安心してもらうために、言葉には細心の注意を払った。だから、ルイスは幼いということは言われたくないかもしれない。と思い、言わないでおいた。
「あ、ありがとう。」
ルイスは反応に困っていた。
(かわいい。。。なんだか、失礼かもしれないけどど、警戒心の強い野良猫が少し警戒を解いてくれた感じがする。やっぱり、言葉に細心の注意を払うことは大事なんだね。)
ルイスと話していくうちに、改めて,ルイスが不器用な可愛い少年に思えてきた。
「エミリ、さん、は、何歳なんだ?」
「18歳よ。あと、なんなら、エミリ姉さんと呼んでいいのよ。」
ルイスがわたしの年齢を復唱して、何かを言っていたような気がする。
この時しっかり聞いておくべきだったと後悔する未来も、そう遠くはないのだが……
その時の、呑気なわたしは一世一代の憧れの"姉さん"(しかも美少年に)と呼ばれるチャンスが舞い降りてきたと思い、それどころではなかった。
そして、図々しくも自分の願いを叶えるために、押せ押せ根性を発動していた。
「ほら、エミリ姉さんよ。」
いやいや。これは完全にウザいやつだ。
でも、目的のためだ、しょ、しょうがない。。。のかな。うん。しょうがないということにしておこう。
また、1人心の中でわたしは議論を行い、この機会は逃してはいけないと結論づけた。
ルイスはわたしの、姉さんと呼んでほしいという圧に負けたようだった。
「エ、エミリ、ね、え、さ、ん」
わたしは、本当に嬉しくて破顔した。
でも、もうこれ以上は、ルイスに無理はさせたくないと思った。遅いもしれないが……
一度は、確かに、欲に負けた。だけど、やっぱりルイスには、この家は居心地が良いと思って欲しかったので、わたしは提案した。
「姉さんって呼んでくれてありがとう。
姉さん呼びにすごい憧れがあったからすごい嬉しい!
呼び方は、エミリさんでも、エミリでも、ルイスの好きに呼んでいいよ。
あ、今更だけど、ルイスって呼んで大丈夫かな?」
「ああ。ルイスでいい。
じゃあ、エミリと呼んでもいいか?」
「うん、”エミリさん”より親しい感じがして嬉しい。あ。そういえば、ちょっと待ってて。」
そう言って、わたしは、彼に、付いていた血を綺麗に落として別室で保管していた剣を取りに行った。
「あの時、剣を落としていたから、保管しておいたんだ〜。」
「本当にありがとう。大切なものなんだ。」
彼は、悲しそうに、でも本当に大切そうにその剣を受け取り、改めてどこかホッと落ち着いた雰囲気が見受けられた。
「それなら良かった。
じゃあ、朝ご飯を食べようか。」
「ああ。ありがとう。」
わたしは、おかゆを作ったあの日以来、ご飯を作っていない。
ご飯を作るのは、実は得意でも好きでもない(どちらかというと認めたくないが、まあ苦手である。昔、凌空と料理をしたことがあるが散々だったので、あれ以来、基本は凌空や凌空ママが作ったご飯を頂いていた)上に、看病に付きっきりだった為、家にあった保存食で済ませていた。
今は、コーンフレークもどきを食べている。
ルイスは成長期だし、怪我を治す為にも、ルイスがいる間はご飯を作ることを頑張ろうと反省した。
もちろん、食料がなくなっているので、ルイスと市場に行けるようになるまでは、広い庭から食料調達と、野菜を育てることも頑張ろう。まずは、ルイスの安全が大切だからね。
そう思って、ルイスに話しかけた。
「ご飯、作れなくてごめんね。
次は、ルイスの栄養も考えて作るね。」
「いや、あんなにずっと看病もして、食事ももらえて感謝しかない。食べられるものがあるだけでありがたい。」
その言葉を聞いて、ルイスが置かれていた現状に恐ろしくなった。
少し、暗い雰囲気を無くすために他愛ない話をしようと思ったけど、思いつかなかったので、好きなものを聞く質問系にしようと思った。
「好きな色は?」
「ない。」
「好きな動物は?」
「ない。」
彼は好きなものは無いようだった。
ちょっと悲しくなったので、
「じゃあ、わたしの家にいる間に、一緒に好きなものを見つけよう!ルイスの人生はまだまだ長いし、世界は色々なものがあるから、きっとルイスの好きなものが見つかるよ。」
ルイスは、意表を突かれたような顔をして、でも微かに表情を変えて頷いた。
今度は、得意なものを聞くと、”剣術”だと言っていたので、
魔法も使えない自分が、自分を守り、将来できるかもしれない仲間を守る手段はこれだ!
と閃いたので、ルイスの痛々しい傷も治ったら、ルイスに剣術を教えてもらえるか頼んでみよう。と考えたのだった。
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