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たった、ひとこと  作者: 雪野おと
第一章
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見知らぬ土地―9

前の作品ではルイの心の内を書く機会がございませんでしたので、ちょっと雰囲気違うな、と思う方もいるやもしれません……内心こんな事考えてる子だったのか!と見ていただけますと幸いです。

「急げ! 王女の護衛は!?」 

「ライト様が戻られている! 王は無事か!」


 ばたばたと大きな城の前の門で、鎧に身を包んだ兵士達が慌しく出入りし走り回っている。見た感じ、会話の内容からしても、どうやらこれがやはり城らしいと納得した私は、その様子に首を傾げた。

 様子はどう見ても、一言でいうなら『大混乱』だ。

 街を歩いている時に感じた違和感は、城に近づくにつれ確信に変わっていた。……何かよくない事があったらしい。

「……カイトさん、何か、あったんですか?」

「大丈夫ですから、安心して下さい。あなたは私から離れないで下さいね。母は城で待っているそうですから、中に入りましょう」

 城で待つって、ものすごくすごい人なのだろうか。すたすたと門を通り過ぎるカイトさんに連れられて城に足を踏み入れてしまった私は、その内装にぎょっとした。

 赤い絨毯、大きな階段。シャンデリアと煌びやかな内装は、どこから見ても日本には存在しない洋風の城そのものだ。

 やばい、自分は場違いだ。そう思うのに、先ほどからばたばたと走る兵士は、カイトさんを見て礼をするものはいるが私を気にしている感じはない。

 もしかして、カイトさんはものすごい立場の人なのだろうか。城にもあっさりと入ることができたのだし……と考えてしまうと、私の身体は緊張で少しぎこちない動きになる。

「……ルイさん? 大丈夫ですか?」

 つい緊張してか、あろうことか私はカイトさんの手をぎゅっと握り締めてしまっていた。

 カイトさんが心配そうな顔で私の顔を覗き込んできて、漸くそれに気づき私はぱっと手を放し飛び上がった。

「ひゃっ! わ、あの、大丈夫です。すみません。緊張、して」

「城の中が少し慌しくて、申し訳ありません……大丈夫ですから」

 カイトは相変わらずにこりと微笑んだままだったが、そこで初めて私はカイトさんの様子がおかしい、と感じた。

 よくわからないが、困ったように笑っているのだ。やはり、この城の混乱は何か嫌な事があったという事なのではないのだろうか。


「母が待つ部屋はここです。……いいですか?」

「はい。大丈夫、です」

 本当は大丈夫なのかよくわからないが、どうにもできないので私は一度目を閉じて、深呼吸した。

 カイトさんがノックすると奥で女性の声が聞こえる。カイトさんはゆっくりと扉を開けて、私の手を握り中へと入り込んだ。


「すみません、遅くなりました」

「ああ、待っていたのよカイト。……まぁ、あなたがそうなのね。わたくしは、リルと申します。どうぞ、お疲れになられたでしょう。こちらへ」

 出迎えた女性は、なぜか緊張した面持ちで部屋の奥の長椅子を勧めてくれる。

「リル、さん。はじめまして、ルイです」

 ……カイトさんに、似てる。

 金の髪に青の瞳。優しそうなこの人が、カイトさんのお母さんで私が来ることを預言したという占い師なのだろうと覚悟を決めて、リルさんの向かい側の長椅子に腰掛けた。

 リルはにこりと微笑んだが、その表情は少し曇っているようだ。

「……あの、カイトさんは」

「あなたもこちらに」

 リルさんに声をかけられたカイトさんはそのまま私の座る長椅子の少し離れた場所に折り畳みの椅子を運んで座り、報告しなさいといわれすぐに口を開いた。

「昨晩北の森にて魔物に襲われている彼女を保護しました。彼女は……」

 淡々と私と出会った時の説明を始めるカイトさんの言葉は、母親にするものというよりは仕事の報告といった雰囲気だ。二人の表情からもそれが伝わり、なんとなく緊張して私は手をぐっと握る。

「以上から、彼女が御告げ通り神子になるべく異世界より呼ばれた少女に間違いないと」

「……、神子?」


 何も知らないと言っていた筈のカイトさんの言葉に私は驚いて彼を見たが、カイトさんは目を伏せ「すみません」とだけ呟いた。

「お許し下さい。王によって、すべての話は私から話すように口止めされていたのです」

 カイトさんと私の様子に気づいたリルさんが、すぐにそう言葉を続けた。

「カイト。……いくつか教えてしまったのでしょう? どこまで?」

「……この国の五つの民と、闇の民の話は」

「まぁ、気の優しいあなたの事ですから、そうではないかと思っていましたよ。ルイ様、お許し下さいませ。これからわたくしがすべてお話致します」

「許すだなんてそんな、私は怒っていません。えと、どういう事ですか……?」


 ゆっくりと話し始めたリルさんは、ほぼカイトさんと同じ事を言った。国の事、光、他の民の事。

 しばらくそれを聞いていた私だが、不意に各地の神子という言葉が出てきてぴく、と反応した。

「各地には、神子という存在がございます。大抵は、その地の長の娘、町の姫が選ばれています」

「……、水の民なら、水の民の長の娘であるお姫様が、水の神子になるということですか?」

 少し考えて私がそう続けると、リルさんはちらりとカイトさんを見た。カイトさんがふるふると首を振る。……? カイトさんが話しすぎたと思われてるのかな?

「カイトさんから聞いたわけじゃ……そう聞こえたんですが、違いますか?」

「いえ。ご理解が早いので少し……随分と聡明なお方ですわ」

「……母さん、彼女は、十九歳だそうだよ」

「ええ?」

 その様子につい苦笑した私を見て、リルさんは慌てて頭を下げた。

「え、あ、気にしないで下さい。えと、お話、続きお願いしてもいいですか?」

 神子と言う言葉が気になっていた私が慌てて言うと、そうですねと同じく苦笑したリルさんが、では、と話を続ける。

「神子は、その民を護れるお力をお持ちの方です。守護の魔法を駆使し、闇の民から町を護れるお方です。王や街の長は町に闇の民を寄せ付けないようにする為の守護結界を使いますが、それとは違い、自由に動き戦える者」

「重要な役割という事ですよね」

「そうですの。ですが……実は、王都にだけ神子がおりません」

「え?」

「今はまだ闇の民の勢力も弱く、光の民の騎士達や、他の民の力でまだ普通に過ごせておりましたが……もう何年も王都には神子様になられる方が、お生まれにはならず。このままではいけないとわたくしは、この地に伝わる神に、祈りをささげておりました」

 そこまで聞いて、私は次に続ける言葉に予想がついた。カイトさんは神子になるべく呼ばれた少女の筈だと言ったのだ。

「あなた様は、異世界から来られた方でお間違いありませんか」

 その言葉は、酷く緊張しているように聞こえた。少し、震えているかもしれない。私は首を傾げた。

「間違いないです。ここは私のいたところじゃないですから……つまり、神様は、異世界にいた私を神子の代わりとして送り込んだって事ですか?」

「……申し訳ございません……!」

 ばっと、リルさんとカイトさんが頭を下げたのに、私は驚いて立ち上がった。

「えっ?」

「わたくしたちの祈りは確かに聞き届けられました。しかし、まさか他の地の少女の人生を犠牲にする事になるとは思わず」

「ええ?」


 違和感の正体に気がついた。リルさんは、自分の祈りのせいで私を犠牲にしたと悔やんでいたのだ。

 私は、この展開を呆然と「よくある異世界召喚ファンタジーだ」などと軽く考えていた。もちろんそんな話の主人公がする事をやる自信はないが、実感が沸かなかったのかもしれない。

 呼ばれた理由が町を護るため。まさに、小説か漫画の世界だと。そして、そういった時は大抵町の人達は「やってくれ!」と言う流れなのだろうと思っていた。

 謝罪されるとは思ってもみなかった私は、本来驚くべきところとは別のところで驚いた。

「えっと、え? あの、頭を上げてください」

 どうするべきかと頭を抱えたくなる。

 自分はそんな大それた人間ではない。何もできないかもしれない。その神様がどうして私を選んだのか知らないが、私は今のところ超人でもなんでもないし知識も何もないのだ。

 そして、正直な所ここに来たからと悔やんでもいなかった。まだ、何をさせられたわけでもなく、酷い扱いどころかとても親切にしてもらっている。そして、元の世界に執着もないから。


「カイトさん、あの」

「はい」

「私、何をすればいいんですか?」

「え?」

「だって今のままで私が何かできるわけじゃないんですよね? 特になんか私は強いんだーなんて思えないし、そんなのになれる気も実はしなかったり……なんだろ、魔法の修行が必要とかでしょうか。えと、頑張ってみますけどご期待に添えるかどうか……」

 その言葉で、驚いたように二人が目を見開いてこちらを見るのは、予想外の答えを言ったからだろう。

「お怒りでは」

「ないですよ。私、カイトさんに助けて頂いて感謝してます。そうでないと、私はえっと……北の森、で、死んでましたし」

 呆然と私を見る二人に、困ったように微笑んだ。

 きっと、必要とされているのなら元いた場所より私にとって価値がある場所だという考えは、説明したところで理解はしてもらえないだろう。そんな事を考えて。

「あ、それより、さっきからばたばたしてるのって、何なんですか?」

「……それは」

「闇の者が、南の門に現れました」

「母さん!」

「隠すのは失礼でしょう」

 リルさんは、ぐっと手に力を入れ何かを決意したように私を見ていた。

「私、皆さんの力になれるような自信はありません。努力はしますけれど、魔法すらない世界から来ました。それでも、……いいですか?」

「お気持ち、深く感謝致します」

 深く頭を下げられ、私はすとんと椅子に落ちた。

「本当に、何かできる自信はないですから」と続けたが目の前の女性はふるふると首を振る。

「王に報告して参ります。こちらでお待ち下さいね。カイト、あなたは神子様の護衛を」

「はい」


 ぱたぱたと現れた兵士と共に部屋を出るリルさんを見送って、私は大きく息を吐いた。

 大変な事だ。……わかってはいるが、元の世界に戻りたいという思いが沸かない自分に苦笑する。

 そしてもしかしたらわかってないのかもしれない。神子というのがどれだけ大切な事なのかすら、私は知らないのだから……甘い考えなのかもしれない。けれど……

 私は、戻りたいとは思っていない。


 それならここで生きるという選択肢に、かけてみてもいいんじゃない?


 これから、どんな事が待っているんだろう。不安はたくさんあるが、私はなぜか、何が何でもやってやる。と意気込んで……リルさんの帰りを、その部屋で待ち続けた。




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