この世界は、評議会が存在する
翌朝。私は自分のベッドで目を覚ました。
昨日の記憶が曖昧だ。
入団式までは覚えているが、その先の記憶がおぼろげになっている。
会食でお酒を飲みすぎたのだろうか。そもそも、会食に行った…記憶が…あるような…ないような…。
私は家に帰ってきている。状況証拠から察するにお酒を疑うのが道理だが、なにか重要なことを忘れている気がする。
ひとまずは、フィーネに昨晩のことを確認するため、私は寝間着のままダイニングに向かった。
「おはよう~」
「姉さんおはよう!」
「もう身体は大丈夫?」
「え?身体?特にはなんともないわよ?」
「よかった…」
フィーネが抱きついてくる。
「ちょ、ちょっと入団式から帰ってきただけで大げさだって!」
「おはようございます」
そういえば、一昨日から客人が居るのを忘れていた。
「ユーさん、おはよう、よく眠れたかしら」
私は椅子に座り朝ごはんを食べようとした。そのとき。
「ユーさん、創作スープを作ってみたんだけど、どうかしら?」
「はい、あーん」
カシャン。私は手に持っていたスプーンを落としてしまった。
「姉さん!やっぱり身体がまだ…」
お、おかしい。昨日から今日にかけて何があったのだろうか。
確実に何かあるのは理解できるが、1日程度でここまで仲が進展するのだろうか。
弱みを握られた?まさか、強要させられている?
「…さん、フィリンさん?」
「…さん、姉さん?」
私は顔を上げ、状況を確認した。
あーんの手をした心配そうな顔をしている妹がいる。
心配そうな顔…。あきらかに何かを案じている。これは私へのサイン。
「フィーネ!この男に一体何をされたの!!」
「え?」
「え?」
私は拳に魔力を込め、全力でこの男に殴りかかった。
身体強化魔法と風の魔法の複合技。強化した拳での直接攻撃と、風の魔法で相手の身体を押さえつけることで威力を何倍にもする。相手は死ぬ!!
「フィリンさん落ち着いてください!」
「問答無用!!」
「姉さん!!!」
勝負は一瞬で着いた。
「大変、申し訳ございませんでした」
「命の恩人だったとは露知らずとんだご無礼を」
私は全力で謝罪している。昨日起こったことはすべてフィーネから聞いた。
昨日の記憶が曖昧な理由だ。まさかそんな事になっていたとは。
パパとママの無念は晴らせたと思う。できれば私も見たかったが、過ぎてしまったことはしょうがない。
「いえいえ、お気になさらず。こちらも説明が遅れて申し訳なかったです」
このユーという人物は相当魔法の練度が高い。私の拳を反動も無く普通に止めた。
魔法の打ち消しは中和魔法や相殺魔法と呼ばれる高等技術の1つである。
理屈は簡単だが、実際にやるには瞬間的な判断と魔法の発動が必要になる。
このユーはそれを瞬時に、それを2つも。
「ちなみに紫陽花って何ですか?それとイレブンという名前も」
「私も気になります」
紫陽花。ハイドランジア魔法会の俗称で正式名称よりもこちらで呼ばれることが多いらしい。単に評議会と呼ばれることもある。
イレブンは紫陽花で活動するときに名乗らないといけない通り名で、ユーが本名とのこと。紫陽花は基本的に悪事を働く者に対して制裁を与える仕事のため、本名を名乗るのは都合が悪いらしい。
結構真面目な話しをしているのに、フィーネは終始笑顔だ。あきらかに恋する乙女になっている。
「さて、そろそろ仕事に行ってきますね」
「昨日の事件の後処理をする必要があるで、夜遅くになるかもしれません」
「わかったわ」
「えー、もっとお話を聞きたいのに」
「フィーネ、仕事なんだからだめよ」
「気をつけてね。いってらっしゃい」
「いってらっしゃいませ」
なんか羨ましいので、フィーネはあとでひっぱたく。
「フィーネ。私も都市部に行ってくるわ」
「さっきの話のとおりだと、私設兵団がどうなるのか確認してくるわ」
「はーい。いってらっしゃいませ」
私は止めなかったフィーネのほっぺをつねり、身支度を済ませて都市部に向かった。
~都市部~
都市部はいつも通りだ。少なくとも見た目では。
城壁の衛兵に私設兵団の腕章を見せる。何事もない。普通の対応だ。
市街地も目立った人集りもない。何事もない。普通の日常だ。
異常があったのは私設兵団の宿舎だった。
私設兵団解散のお知らせ。
何パターンか考えられるシナリオの1つだ。驚くことは何1つない。
私設兵団とは名ばかりで、領主の奴隷候補の集まりに過ぎない。
周りの人は驚いているが、何も知らないのであれば驚くだろう。なんせ突然の御触れだ。
ここには腕章を返しにきた。
たとえ私設兵団が残る方向だったとしても、私はここに残らない。
この場所から決別するために腕章は持っていてはいけない。そんな気がするからだ。
話の顛末では、領主がどうにかなっている。
私は好奇心から領主の家に向かっていた。
領主の家も特に異常はない。
「わ、私に触るな!!!!」
ことはなかった。領主の恐怖に怯えた大声が響き渡る。おそらく錯乱している。フィーネの誇張かと思っていたが、あの話は全部真実だったかもしれない。
思考を巡らせていると、領主の家の扉が開いた。
「ユーさん!?」
「フィリンさん!奇遇ですね」
後処理とは書類とか引き継ぎの類かと思っていたが、本当の意味での後処理をユーがやっているようだ。
「イレブン、あにょ可愛い子は誰?」
隣に、獣人族と思われる女性がいる。同じ腕章をしているので同業者であることがわかる。
「さっき説明した双子の方ですよ」
「領主の…」
獣人族の方が私に近づいてくる。近づいてきてわかったがネコ属だ。
「あにゃた、話はイレブンから聞いにゃ」
「はじめま…して…」
ネコ属の方が私を隅々まで観ている。何故か匂いも嗅いでいる。
「ナイン!彼女が戸惑ってますよ」
「確かにぃ、素質があるにゃ」
戸惑っている私をよそに話が進んでいく。
「でしょう!その話は後にしてまずはこいつを片付けますよ」
「はいはい。じゃあ、またにゃ。すぐにぃまた会えるかもにゃ」
「は、はぁ」
2人は領主を引きずってどこかに行ってしまった。
後日、領主は突然辞任し、急遽新しい領主の選挙が開かれたらしいが、その話を私が聞くのは遠い未来のことになる。
時刻は夜。
俺は仕事を終わらせ、宿(仮)に戻った。
「ただいま戻りました」
扉を開けると温かい夕飯がテーブルに置かれており、フィーネが椅子に座り、フィリンが台所に立っている。
「おかえりなさいませ」
「おかえりなさい」
「ユーさんちょっと座ってください」
「え?はい」
フィーネの機嫌が悪くなっている。何かあったのだろうか。
「ど、どうしましたフィーネさん」
「姉さんから聞きました。ネコ属の方と楽しそうに仕事してたって」
犯人は口笛を吹きながら火の管理をしている。
「あの人は同じ評議会の方で、、」
「仕事なんだからそれはそうです!!楽しそうにって!!」
あきらかに嫉妬している。なんて説明するのがベストアンサーなんだろうか。
「あの人はすでに結婚していて、別に仲が良いだけでそういう関係では」
「え…、えぇ!!」
「ご、ごめんなさい。私はてっきり彼女さんかと」
俺は心の中で何度もナインにあやまった。この状況を抜けるにはもう嘘を言うしかなかった。
ナインには今度美味しい物でもごちそうする。そう心に誓った。
ちなみに、ナインとは実際何もない。ナインの好きなタイプは筋肉らしく、華奢な俺は違うと前に言っていた。
「お二人に仕事の関係でお話があるのですが、ちょっとよいですか」
フィリンは若干ニヤけながら椅子に座った。フィリンはあとでお仕置きする。
「結構重要なお話になります」
紫陽花にはルールがある。元々情報統制を目的にした組織である。単純にこの2人は知りすぎてしまった。
賢者の石は極秘情報に該当する代物だ。あの場では説明してしまったが、本来は話してはいけない情報になる。
話さないといけなくなった原因は領主にあるのだが、それはそれという扱いになる。
情報を知ってしまった者への対応は3つある。
紫陽花の監視下に置くこと
紫陽花の会員になること
紫陽花の配下になること
監視下とは王都に住むことである。衣食住はすべて国が用意するため、とても安定していて最もよく選ばれる。行動制限はなく、単純に他言無用だけを守るだけでよい。
会員になるとは、言葉の意味のままである。要するに関係者になればすべて解決という考え方だ。
配下になるとは、俺の仲間として行動をともにするということになる。要するに監視する人が国ではなく俺になるということになる。
どれも人権とはを考えさせられる内容だが、このルールは国が決めたものであり、紫陽花にはどうすることもできない。国家権力に近い。
「すいません、今日、仕事仲間とも相談したんですが、このルールは絶対らしくどうしようもないとのことで」
「私、ユーさんに着いていきます!」
食い気味でフィーネが決断をしてきた。
「そうですよね、考える時間が必要と…、え?」
「私たち、この村を出ようってさっき話しをしていました」
「もうここには居たくない、2人で別の街に行こうって」
「それなら王都に住んだ方がよい気もしますが」
「私はユーさんに恩返しがしたいの!」
「ですが…」
「フィーネは結構頑固だから、決めたことは曲げないわ」
「フィリンさんはよいのですか?」
「私?いいわよ?」
「私も恩返ししたいって考えてたし、王都って聞こえはよいけど、私たちはじっとしてろってことよね」
「それだと、恩返しできないじゃない」
フィーネは頷く。双子特有の情報共有が行われているからなのか、息がぴったりな感じがする。
2人は決意に満ちた顔をしており、おそらく何を言っても意見は変わらないだろう。
「私の仕事は危険ですが…、よろしくお願いしますね」
俺は握手をするように手を出した。フィーネが両手で握ってくる。
「はい。これからよろしくお願いします」
フィリンも握手を待機しているが、フィーネがなかなか離してくれない。
「フィーネ、私の番はまだ?」
「あと、こういうのって私が先じゃない?」
なんやかんやで、フィーネが手を離したのはその数分後であった。




