この世界は、領主の計画が存在する
村と都市部の中間付近で、移動するフィーネを発見した。
魔力によって操作するエネルギーの対象に制限はない。
自身の筋肉を動かすエネルギーや、前に進むための運動エネルギーの増幅も行うことができる。
これら自身に影響させる魔法は身体強化魔法と呼ばれるが俗称である。
正式な名称は生物魔法。
生物魔法は基本的に術者自身の強化や治癒などを行う。
触れてさえいれば他者にも同様の効果を与えることができる。
魔法で治癒をする際に対象に触れる必要があるのはこのためである。
フィーネの身体強化魔法はかなり洗練されている。
地面に付く側の足のみに魔法を使用している。
普通に走るときよりも1歩に距離が何十倍にもなるため、慣れれば誰でもできるが、動き多少のぎこちなさが現れる。
フィーネにはそれがない。ほぼ無意識に魔法を使っている。その様子は魔法の常時発動のそれに近い。
常時発動は相当の訓練が必要だが、フィーネの年齢を考えると天性の素質であろう。
息も上がっていない。必要最低限の魔力しか消費していないことがわかる。
この移動効率は理論値に近い。想定の何倍も早く到着してしまう。
俺は先回りをするために、速度をあげて都市部に向かった。
~都市部~
都市部は堅牢な城壁が築かれており、城塞都市と呼ぶにふさわしい外観をしている。
市街地の石畳の道は街灯が等間隔に並んでおり、夜間にもかかわらず一定の明るさを確保している。
この時間帯にもかかわらず住民が外を歩いている。
良い暮らしができる場所であることがうかがえる。
村とは比較にならないほど。
都市部の奥には城のような豪邸がある。
領主の家であることは火を見るより明らかである。
「姉さんは、姉はどこですか?」
「すいませんが、どちら様でしょうか」
衛兵とフィーネが会話をしている。
「私はフィーネ・エクストラ」
「今日の私設兵団入団式に姉のフィリンが出席したのですが、帰ってこなくて…」
「エクストラ…、少々お待ちください」
衛兵の1人が詰所に入り、状況の確認をしている。
「姉君は会食後、領主様の客室でご休憩をされているとのことです」
「親族の方であればお連れすることができますが、いかがいたしますか」
「よろしくお願いします」
「かしこまりました。すぐに戻ります。それまで城壁の警護をよろしくお願いします」
フィーネは安堵した表情で衛兵に着いていった。
領主の家は市街地から少し離れている。
防犯の観点、来客の馬車を受け入れるための場所の確保、そういった諸々を考慮すると、必然的に市街地から少し離れた場所に住むのが最善と聞いたことがある。
離れた場所ではあるが、衛兵、使用人などの住居が周辺にあり、人気が無いわけではない。
領主の家は夜遅くにもかかわらず外で衛兵が警備している。
私を先導してくれた衛兵が敬礼をし、事情を説明してくれた。
「承知しました。ここからは私にお任せください」
「よろしくお願いします」
「フィーネ様、私はここで失礼いたします」
「ありがとうございました」
衛兵は急ぎ足で持ち場に戻っていった。
「フィーネ様こちらです」
領主の家の内装は豪華そのもの。
見たことのない彫刻、絵画、工芸品、骨董品、多種多様な美術品が飾られている。しかし、そのどれも統一性がなく、美術品に興味がないであろうことが素人目でもわかる。
富豪としての見栄。そのためだけに飾っているのであろう。
私は家の奥に連れていかれている。
本来、客室は玄関から近い位置にある。
正常な思考であればその違和感に気がつくが、その時の私はそれに気がついていなかった。姉が無事であることがわかり、安堵して気が抜けていた。
「フィリン様はこちらでお休みになっております」
私は急いで扉を開けた。
姉は長椅子に座っており、休憩をしている様子だった。
「姉さん!!」
私は急いで駆け寄った。
「姉さん、会食は途中で抜けてくるって言ってたのに!」
「お酒を飲みすぎちゃったの?」
「さあ、帰りましょう!」
姉の手を取り、席を立とうとした。…力が感じられない。
「…姉さん…?」
息はしているが、生気は感じられない。
目は開いているが、視点が定まっていない。
手を握っているが、握り返してこない。
果たしてこれは生きているのだろうか、それすらもわからない。
「姉さん!!姉さん!!」
姉は微動だにしない。身体を揺らすたびに口からよだれが垂れてきている。
「よく来た、エクストラ家のお嬢ちゃん」
背後から声が聞こえた。
ルビアシ領領主。その人である。
「領主様…、姉はどうしてしまったんですか…」
半分泣きそうな表情になりながら、領主に尋ねた。
「入団式の後、姉君が私のところにきた」
「母と何を会話したんですか、母に何があったんですか」
「"母" が誰を指しているかわからなかったが、話を聞いていて思い出したよ」
「2年前の悪魔襲撃事件」
「私にたてついてきた女がいたことを」
「あの女は私に抗議してきた」
「ひとしきり講義し終えた後、急ぎ足であの女は場を離れた」
「直後、魔法が暴発し命を落とした」
「その話は知っています…、それと姉に何の関係が…」
「これは表向きの話だ」
「あの女…、君たちの母は私が殺した」
私はこの2年間、そうかもしれないと思っていた。
しかし、考えないようにしていた。
真実にたどり着いたとして、私に何ができる。
真実にたどり着いたとして、私たちに何ができる。
私は真実にたどり着いてしまった。黒い感情が湧いてくる感じがした。
「この悪魔たちを放ったのはあなた」
「あなたは人為的な英雄譚を作ろうとしている」
「王都に行く。真実を伝えにいくと私に宣言もしていた」
「だから殺した」
「話は半分正解だ」
領主の話に熱がこもる。
「私は英雄譚に微塵も興味はない」
「欲しいものは力だ!!悪魔を退くことができる力!!」
「今、世界の各地で悪魔の襲撃が頻繁に起こっている」
「貴族は力を求めている」「力は高く売れる」
「奴隷としてな」
「姉君には苦労したよ」
「能力は十分だが、意思が強すぎる」
「私の洗脳魔法が全く効かなくてな」
「少々、精神を破壊させてもらった」
姉は無事だと思っていた。
最後の心の支えであった姉も失った。
全身から力が抜け、生きる気力が無くなる感じがした。
「そんなことのために…」
「私腹を肥やすために、私の家族を…こんな目に合わせたというのですか…?」
「愚問だな」
「君たち家族なんて私からしたら赤の他人」
「赤の他人が死のうが売られようが、私は痛くも痒くもなければ、辛くも悲しくもない」
「この地の私の物だ」
「私物をどうしようが私の勝手だろう」
領主は手に持った魔法の杖を構えた。
「姉君は商品にならない」
「君もどうせ同じだろう」
「冥土の土産はこれで終わりだ」
この世界は、無慈悲だ。
私にはもう抵抗する気も、戦う気もない。
死にたい。
もうそれ以外の感情が湧いてこなかった。
「可哀想な君たちには母と同じ末路を辿らせてやろう」
「私からの慈悲だ」
私たちの居た場所に突如として強烈な爆発が発生した。
長椅子は跡形もない。柱はえぐれている。地面が見えている。
周囲は熱と粉塵が漂い、爆発の凄まじさを物語っている。
「よくがんばった」
「フィリンは大丈夫だ」
「ここからは任せてほしい」
生きている。
聞き覚えのある声に反応するように顔をあげた。
同時に先程まで居た場所ではないことに驚いた。一瞬にして移動させられている。
その直後、突風が吹き荒れ、熱と粉塵は瞬く間に消滅した。
二人の姿がはっきりと見えるようになった。
「だ、誰だ貴様!」
「どこから入った!」
その人は服についた埃を払い、ゆっくりと話し始めた。
「ルビアシ領領主殿」
「貴殿は領主という身でありながら、私利私欲を目的とした領民の売買」
「ならびに、口封じ目的の領民の殺人、および、殺人未遂」
「その行動は目に余るものばかりである」
領主は眉間にしわを寄せた。
「…何様だ?」
ユーは羽織っていた上着を脱ぎ、腕の腕章を見せた。
腕章には花にXiと描かれた刺繍が施されている。
「ハイドランジア魔法会の者だ」
「名はイレブン」
「おとなしく降伏しろ」




