↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/19

この世界は、私設兵団が存在する

翌朝。


フィリンは辰の刻(8時頃)に家を出発した。


入団式は都市部で行われる。式は酉の刻(17時頃)から始まり、その後に会食があるようだ。

この村から徒歩で半日程かかるため、余裕をもってこの時間に出発したようだ。


俺は自室からその様子を見送った。


「さて、二度寝。二度寝。二度寝は精神の安定剤よ!!」


そう自分で自分に言い聞かせると俺は寝た。


「ユーさん朝ですよ!」


が、フィーネにすぐに起こされた。

モーニングコールを頼んだ覚えは微塵もないが、不思議だ。


「朝 で す よ !」


俺は渋々部屋を出た。


「フィーネさんは私設兵団に入団しなかったんですね」


「私はあまり戦うとかそういうのは得意じゃないから」

「もっと自分にできることをしようと思って、、」


「もしかして、宿屋の再開ですか?」

「!?!?ど、どうしてそれを」


埃の状態を見れば誰でもわかる気もする。


「んー。なんとなくですかね!」


そんな雑談をしながら、フィーネが用意してくれた朝食を食べ終えた。


「あ、もしよかったらなんですが、ここに数日泊まらせてもらうことはできますか?」

「仕事が長引きそうで、滞在先が必要なんです」


「ええ、問題ないわ!」

「ありがとうございます、昨日の分も含めてお代はこれで足りますか」


俺は金貨10枚を差し出した。


「ええぇ!?こ、こ、こんなに…さすがに貰えませんって!!」

「ご遠慮なさらず!突然来た手間賃と、突然の連泊の手間賃も含まれていると思ってください」

「で、でも…」


俺は何かを訴えるようにフィーネの目を見た。

フィーネはひとしきり何かを考えているのか沈黙が続いた。


「じゃ、じゃあ頂くわ。そのかわり、ご飯はより一層美味しくするわね!」

「楽しみにしています」


金貨1枚は、贅沢をしなければ1人が1ヶ月暮らすことができる金額である。

10枚は数泊のお代としては異常な額である。フィーネの反応はそれを物語っている。


しかし、そんなことはどうでもよい。

俺からすると経費を使わないと次から減らされてしまう。

無理やりにでも使わなければならない。


「さて、そろそろ仕事で出かけますが、夕刻頃には戻りますね」

「じゃあ、夕飯を作ってまってます。いってらっしゃいませ」


身支度を済ませて、調査のために村を出発した。


この村は樹海に囲まれており、言うなれば陸の孤島。

街道以外は土地勘が無いと命取りになる場所だ。

樹海も相当広く、悪魔襲撃事件の真相が "実は自然発生でした" だったとしても不思議ではない。


さらにその周囲も山に囲まれている。

襲撃事件の発覚から2年も経過してしまう程度には世間から隔離された位置にこの村はある。


村を出て半刻ほど(約1時間)進んだところに、それはあった。


村からほどよく遠く、四方は倒木が無数にあり人の目をつきにくくしている。

その場所は鉄製の柵で囲まれ厳重に警備されている。警備員は2人。


悪魔が13匹。


半数が一角獣だが、スライムや小型のサラマンダーまで居る。

多種多様な悪魔がそこに居る。


悪魔は魔法が使えるだけの野生生物のため、飼い慣らすのは理(・)論(・)上(・)可(・)能(・)だ。

"魔法の発動をともなう癇癪(かんしゃく)を起こさなければ" が条件になる。

発情期や狭い行動範囲というストレスで少なからず気が立つことがあり、条件は不可能に近い。


これだけの数、おそらくは次の襲撃のための準備といったところか。

そして、次の悪魔襲撃は失敗に終わる。

領主が救世主になるという筋書きで、民衆の信頼を得ることが目的だろう。

このような事件における典型的な動機である。推理はしやすい。


問題は、スライムの存在である。

スライムは痛覚がなく物理攻撃の一切をものともしない。刃物で切ると分裂し数が増える。

それ故に、悪魔になると単純に厄介で手に負えなくなる。


下手したら兵団そのものが壊滅しかねないが、そこまでは考えているのだろうか?

理由はどうであれ、ここに居る全員にはひとまず眠ってもらうこととする。


「高位生物魔法・強制睡眠(フォースリープ)」


警備員と悪魔はほぼ同時に声がした方を向いた。その瞬間、その場にいた全員は強烈な睡魔に襲われ、その場に突っ伏すように寝た。

俺は起こさないように調査を開始するのであった。


その日の夜。


色々あって戻るのが遅くになってしまった。


「ただいま戻りました」


扉を開けた瞬間フィーネが抱きついてきた。


「!?ちょ、ちょっとフィーネさん!?」


フィーネは何も言わない。


「そ、外でそのような行為は…!一旦中に入りましょうね?ね?」


抱きつかれたまま中に入り扉をしめた。


「どうしたんで…」

「姉さんが帰ってこないの」

「フィリンさんが?」

「あ、いやでも、会食後に帰ってくるんですよね?」

「おおよそ半日かかることを考えると、あと数刻はかかるのでは?」

「姉さんは会食は途中で抜けてくるって言ってました…」


フィリンの力量は完全にわからないが、身体強化魔法が使えるのであれば、多く見積もっても1刻。

会話の状況から察すると、もう帰ってきても良さそうな時間帯ではある。


「会食が楽しくて、抜けられてなかったとか」

「さすがに初陣が今日ってことはさすがに無いとは思いますが」


フィーネはなにかを考えているが、表情は心配そのものだ。


「私、姉さんを探してくる!」

「ちょ、ちょっと待ってください!」


俺は今にも家を飛び出そうなフィーネの手を取って止めた。


「今から都市部に向かうのは自殺行為です」

「それにフィリンさんが今どこに居るかご存知なんですか?」

「下手したらお互いすれ違うかもしれませんよ」

「悪魔はもとより、野盗の危険性もあります」

「今日はフィリンさんを信じて家で待ちましょう」


フィーネは下を向きながらなにかを考えている。


「…わかりました」


表情はわからないが、声の質がすべてを物語っている。わかっていない。


「夕飯は用意してあります」

「私は少し部屋で休んでいますね」


そう言い残し、フィーネは部屋に戻ってしまった。


俺は夕飯を頂いた。少し冷めてしまっているが、今まで食べてきた料理の中でも5本の指に入る程度には美味い。フィーネはよい奥さんになる。何故か父親目線になっている俺がいるが、そう考えてしまう程には美味い。


遠くから微かに音がした。

ある程度の高さから地面に降りる音だ。


俺は急いで外に出る。

フィーネの部屋と思われる窓が開いている。

フィーネの姿はそこにはなく、地面には魔力の痕跡が残っているだけであった。


魔法を発動させると、その場には使われなかった魔力の一部が少しの時間残る現象がある。

この現象を魔力の痕跡と呼ぶ。目には見えないが魔法が使われたことを雰囲気で感じ取ることができる。


おそらくは身体強化魔法。

すでに姿が見えないことを考えると、相当熟練な可能性がある。


俺は上位風魔法・飛行(アイル)を発動しフィーネを追う。

これで「得意じゃない」とは。フィーネの力量を見誤っていたようだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。