この世界は、美人双子姉妹が存在する
「旅人さん?宿屋を探しているの?もしよかったらうちに泊まっていかない?」
背後から女性の声がした。
振り返るとそこには二人の女性が立っていた。瓜二つといっても過言ではない。
まさに美人双子姉妹といったところだろうか。
「お誘い大変嬉しく思いますが、お二方美人の家に泊まるいうのは…」
実際問題嬉しいが、初対面の女性の家に泊まるのは恥ずかしさが勝る。
それはこの方々も察してくれると思ったが、
「良いって良いって!」
「私たちの家、元宿屋だから!」
さきほど聞いた店じまいした宿屋の娘さんがこの二人であった。
「宿屋の方でしたか。じゃ…」
まで、言いかけたところで腕を掴まれた。
両手に花とはまさにこのことだろう。
「…あ、よろしくお願いします」
「さ!こっちよ!」
俺は二人にエスコートされるように家に向かった。
「なんで、見ず知らずの俺にそんなに良くしてくれるんです?」
「困ったときはお互い様でしょ?このあたりは悪魔が多いから野宿は危険よ!」
「それに、困った人には優しくしなさいってパパもママも言ってたの」
この時代では若干命取りになりかねない考え方だが、俺はこの考え方は好きだ。
「…良いご両親だ」
「そうでしょう!」
「自慢のパパママなの!」
満面の笑みを浮かべている。相当大好きであることがうかがえる。
~美人双子姉妹の家~
「いやあ、実際のところ助かりました」
「最近は悪魔が多く、頻繁に睡眠の邪魔をされていて困ってもいました」
「でしょう!それに旅人さんは遠くからきて疲れているんだから、なおさら布団で寝るのが良いわ!」
家というにはそうとう大きく、部屋数も多い。さすが元宿屋。
手入れも行き届いており、宿屋を廃業しているとは思えない。
「そういえば名のっていなかったですね」
「俺はユー・アクロン。わけあって、ここルビアシ領にきました」
「私はフィリン・エクストラ!こっちは、妹の」
「フィーネです」
「お二人とも、お世話になります」
名前を聞いてみたものの、果たして呼び分けることはできるだろうか。
どこをどうみても身体的特徴が見つからない。
黒く長い髪の毛、若干青寄りの虹彩、整った顔立ち、少し尖った耳、身長、胸の大きさ、腕の太さ…。
特徴的にエルフ属であることがわかるが、ここまでそっくりな双子は初めてかもしれない。
呼び間違えたら怒られるだろうか?
そのような考えを巡らせながら観察していると
「ち ょ っ と !」
「なに、ジロジロ見てるの?」
目を細めながらこちらを見ている。
「あ、いや…ハハハ…」
もうすでに姉か妹かわからなくなってしまった。
あたふたしながら言い訳を考えていると、ふと姉妹の背後にある小さな写真に目が止まった。
「そういえば、ご両親は?」
二人の動きが止まり、沈黙が走る。
「…2年前に亡くなったわ」
「一角獣の悪魔が大量に突然襲ってきてそれで…」
この村は悪魔の襲撃を受けた。
その際に亡くなってしまったらしい。
悪魔とは魔法を使うことができるようになった知性を持たない生物全般を指す。
気が立っている悪魔は人里で暴れることがある。
悪魔は暴れる際に魔法を見境なく発動するため被害が大きくなる。
悪魔そのものはめずらしい存在ではない。
世界規模で見ると1年間で100体程度は悪魔が自然発生すると言われている。
大きな街などは防壁によって防ぐが、この村にはそういった設備がない。
防衛手段がない場合、悪魔の襲撃によって命を落とすことも少なくない。
「すいません…。辛い過去を思い出させてしまって…」
「ううん、良いの」
「もう過ぎてしまったこと…。それに、今は私が悪魔からこの村を守っているから!」
もう過去のような悲劇は起こさせない、そのような気迫を感じる。
「さあ、二人ともお茶が入ったわ」
「今日は、これを飲んで早く寝ましょうね」
「姉さんは明日大事な式典でしょう?」
「たしかにそうね。もうちょっとユーさんと話たかったけど今日はもう寝るわ」
「ありがとうございます。俺も飲んだら寝ますね」
お茶を飲み干し、借りている部屋に向かう。
部屋は簡易的なロックができる作りで、ベッドメイキングも完璧だ。
家具に傷が少なく、ほとんど使われていないことがわかる。
俺は椅子に腰かけ、再度資料に目を通す。
| 悪魔襲撃事件
| 2年前、未月。
| 同時多発的に一角獣の襲撃が発生。
一角獣は角部分に痛覚が無く、角の部分に高圧の雷魔法を発生させ突進してくる。
非情に厄介な悪魔に分類される。
この襲撃はこの村だけではなく、近隣の村全てで同時に発生するという極めて稀な出来事として記録されている。
| 死傷者は34名。
| 当局は、これを自然現象ではなく事件として調査・処理をする。
「…処理する…か…」
ここの姉妹が事件の被害者だ。
時間がかかると思っていたが、意外にもすぐ見つけることができた。
「パパは私を守りながら一角獣と戦い…」
フィリンが言っていた。
おそらく突進を防いだときに、雷魔法の影響をもろに受けてしまったのだろう。
村で魔法の授業が行われていたのはこのためと思われる。
魔法の本質はエネルギー操作。相反するエネルギー操作することで、魔法は打ち消すことができる。
雷魔法の影響を打ち消すことができればおそらく父君は生き残れたであろう。
「ママは洗濯でその場に居なくて…無事だったんだけど…」
「翌日に、魔法の事故で亡くなったの…」
襲撃の翌日、ここの領主が突然やってきて、御布令を伝えにきたらしい。
襲撃は都市部を含め、いくつかの村で同時に発生したとのこと。
防壁の建設を始めるまでの防衛手段として私設の魔法兵団を設立したいとのこと。
まずは各地の魔法の扱いに長けた女性を徴兵したいとのこと。
魔法の扱いは基本的に女性が優位である。
魔力の源は生命エネルギーであるが、この生命エネルギーは主に脂肪から捻出される。
生物学的に女性は脂肪を蓄えやすく、先天的に魔力の総量が多く魔法の扱いに長けた者が多い。
魔法兵団を女性で構成するのは、戦術的に最も有効な手段である。
が、この話を聞いた際
「…ずいぶん用意周到な領主だな…」
俺は無意識にそう喋っていた。
「ママも同じことを言っていたわ」
この規模の領地。移動時間を加味すると、どう考えても議論をしているとは思えない。
不眠不休なら可能だが、領主がそこまでするかと言われると普通はしない。
少なくともこの書面上の領主は絶対にしない。俺はそう確信している。
母君は領主と話をしてくると言い、家を出た。帰ってはこなかった。
帰ってきたのは、領主の謝罪の言葉と、報告だけだった。
私と会話している最中に魔法が暴発。命を落としてしまったとのこと。
昨日の事件で気が動転し、感情が昂ぶっていたために起こった事故とのこと。
私たちにもっと魔法の心得があれば、母君を守れたかもしれなかったこと。
そして、あらかじめ防衛に力を入れていればこんな悲惨なことにはならなかったと。
「領主さんは悪くないわ。誰も悪くない」
「そのときに私は思ったの。もっとみんな、この村を守りたいって」
フィリンはこのときに私設兵団に入ることを考えていたようだ。
魔法を猛勉強し、去年、私設兵団の入団が決まったらしい。
明日の式典とはこの私設兵団の入団式。そう言っていた。
「困った人には優しくしなさい…か…」
| 自爆魔法を使用させられた可能性あり。
| 賢者の石の使用痕跡あり。
| 事件の首謀者はルビアシ領領主。
| 事件と確定され次第、確保されたし。




