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攻撃魔法が存在しないこの世界は  作者: 悠
ミーミルの泉
16/19

この世界は、魔力使いが存在する

家の掃除や庭の手入れ、来客の対応など、俺の家はバニールがすべて管理をしている。

立場としては家令なのだが、本人はメイドであると主張している。そのような主張とは裏腹に、バニールが最も輝くのは不審者を追い払うときである。


「フィーネ様、先程から私のご主人様の腕を掴んでおられますが、なにゆえでしょうか」

「特に理由はないですね。私とユーさんの仲なので」

「不審者ですね。排除します」


「話がややこしくなるので2人ともいったん離れてください!」


バニールは竜人族の火竜属である。火竜属は総じて性格が好戦的であり、この性格が不審者に対して強力に作用する。不審者でない者に対しても、問題を起こしてしまうのが玉に瑕だが。


「まずは、荷物を運び入れましょう」


「このくらいの数なら私1人で十分です。ご主人様は先に中にお入りください」


そう言うとバニールは木箱を同時にいくつか持ち上げ、室内に運び入れる。


「ネルフィナも手伝います」


ネルフィナもバニール同様の数を持ち上げ、室内に運び入れる。荷車いっぱいに載っていた荷物は一瞬にして室内に運ばれ、今すぐにでも荷車を返せる状態になった。


「思ったよりも早く片付いたので、荷車はもう返してきちゃいますね」

「家の中の案内と部屋の割り当てはお願いしますバニール」


「かしこまりましたご主人様。いってらっしゃいませ」


バニールはなんだかんだ言って面倒見が良い。俺が居ないほうが色々とうまくいくと思い、俺は1人でアイリス騎士団のもとに向かった。


アイリス騎士団は王都における主要な騎士団の1つとなるため、王都の中央付近に本部がある。何か有事があれば王都のどの場所にでもすぐに向かうことができるためだ。その近くには王宮もあり、アイリス騎士団が事実上の王宮護衛も兼ねた状態になっている。


「そこの者、止まれ!」


半年という時間は、俺の顔を忘れるには十分の時間だったようだ。紫陽花の腕章を見える位置に出していないのがいけないのだが複雑な気分である。俺は腕章を守衛の方に見せた。


「ハイドランジア魔法会の方でしたか!とんだご無礼を!」

「本日はどのような要件でしょうか」

「この荷車を返しにきました」


「荷車…?確かに菖蒲(アヤメ)の紋章がありますね…」

「もしかして新人さんでしょうか?」

「はい!先月入隊したばかりになります!」


「なるほど…。ワルキューレ部隊のリトナ副部隊長はご存知でしょうか?」

「リトナ副部隊長は存じております!」


「これはリトナ副部隊長に借りたものなので本人に話を通してもらえれば伝わると思います」

「かしこまりました。あとはこちらで対応いたします!」

「よろしくお願いいたします」


新人は元気があってよい。紫陽花も新人が入るには入るのだが、俺が会う機会はほぼない。幹部に至ってはすでに何年もメンバーが変わっていないため、フレッシュさの欠片もない。

先大戦の人類同士のいざこざで魔法使いのほとんどが戦死しまったからであるが、そろそろ200年たつので優秀な魔法使いが1人や2人現れてもよい気もする。そんな未来の新人を考えつつ、俺は帰路につくのであった。


「ただいま」

「「おかえりなさいませご主人様」」


「なんでフィーネさんまでメイド服着ているんですか?」

「バニールさんのをお借りしました!」

「さっきまで睨み合っていたのに、ずいぶん仲良くなりましたね」

「え、そうでしたでしょうか?」

「それは気のせいですよご主人様」


まったくもって気のせいではない。しかし、ここまで仲が良くなったのはフィリンかネルフィナが仲裁してくれたからであろう。


「ご夕食が準備できておりますので、まずはお召し上がりください」

「じゃあ、みんなで頂きましょうか」


久しぶりの自宅での食事である。普段はバニールが1人で料理していたが、今日はフィーネも一緒に準備したらしく、普段よりも豪華な食事になっている。


「このスープ。一切の白濁がない透明ですが、旨味が凝縮されて、すごく美味しいですね!」


「これはフィーネ様に教わり、私が作成したオリジナルの野菜のスープになります」

「バニールさんすごいんですよ!口から火を吹きながら温度調整するんですが、温度が常に一定で沸騰もしなければアクもでなくて、とっても透明なスープになりました!」

「いえいえ、フィーネ様の野菜の下ごしらえや切り方があってこそです」


どうやら、料理を通じて仲良くなったようだ。料理道具を持ってきたことは間違いではなかったと言えよう。バニールの料理の腕前も上がり、料理も非常に美味しい。充実した王都での生活を楽しめそうだ。


「明日ですが、みなさんが疲れていなければ、身分証の作成と街の案内をしようと思っていますがどうでしょう?」

「私は大丈夫よ」

「私も」

「ネルフィナも大丈夫です」

「じゃあ明日の朝食後に向かいますので、各自外出の準備をしておいてください」


夕食後、各自部屋に戻り明日の準備や休憩をすることにした。俺も同じく自室で明日の準備をしていたところ、バニールが部屋に訪ねてきた。


「ご主人様、お伺いしたいことがあります」

「なんでしょう」


「フィーネ様は…、いえ、フィリン様も(・)ですね。お二方が王族というのはご存知でしょうか」

「どうしてそれを?」

「こちらをご覧ください」


バニールが1枚の皿を差し出した。皿の裏には王家の紋章が描かれている。


「フィーネ様はご両親の形見とおっしゃっていました」

「王家の紋章が入った物を持っているということは、王族以外考えられません」


「なるほど、この皿は初めて見ましたね」

「2人は王族である自覚ってありましたか?」


「いえ、確認したところ、王家の紋章が入っただけの物と認識しているようでした」

「それに王族はヒト属のみということも理解しており、エルフ属の私たちが王族であるはずがないと確信しているようでした」

「ただ、王家の紋章を勝(・)手(・)に(・)使(・)っ(・)て(・)は(・)い(・)け(・)な(・)い(・)ということは知らないようでした」

「この皿がある以上、あのお二方は確実に王族になります」


俺はここに来る前に共有された情報をバニールにも伝えた。


「2人が王族であることは間違いなさそうですが、それを説得しようとするのは一旦待ってください」

「承知しました。私から王族であることを言及することは控えます」

「よろしくお願いします」


「もしバニールの手が空けば、フラクティス家に関して情報を集めておいてもらえると助かります」

「承知しましたご主人様」

「それでは失礼いたします」


ずいぶん近いところに確たる証拠があったようだ。しかし、何故、王族であることがわかる物を持っていたのか。いずれ王都に戻る予定だったというのだろうか。

この件に関して、まだまだ情報が足りない。すべての考察は情報が集まってからでも遅くはない。気になることは多いが、深くはまだ考えず、今日は明日の準備をして寝ることとした。


翌朝。


「おまたせしました」

「さあ、行きましょうか!」


王都は世界樹と呼ばれるとても大きな木を囲むように街が形成されている。世界樹はこの街のシンボルのような存在であり、信仰の対象や住民の憩いの場でもある。


「王都はとても広いですが、あの世界樹を目印にしておけば基本的に迷うことはありません」

「いずれ木の幹の形でおおよその方角もわかるようになりますよ」

「そういえば、昨晩窓からあの木を見てたけど、夜は光ってて綺麗だったわね」


「お、フィリンさんよく見てましたね」

「世界樹は夜になると樹液に含まれるマナが発光して神秘的な見た目になるんですよね」


「マナ?」

「雑な説明になりますが、植物が持つ魔力のことをマナと言います」

「へー。ということは世界樹は魔法を使うの?」


「いえ、植物は意思がないので魔法は使えません」

「ですが、樹液には願いが叶う魔法が常に発動していると言われています」

「ずいぶんロマンチックな魔法ね」

「根元に樹液が溜まっている泉があるのですが、そこがデートスポットとして人気になってから、そう言われるようになりました」

「まあ、話題作りのためのやつですね」

「後で行ってみますか?デートスポットなだけあって、とても神秘的な場所ですよ」


「行ってみたいです」

  「行きます!」


「まあ、その前に紫陽花のギルドハウスでちゃちゃっと身分証を作ってしまいましょう」


紫陽花のギルドハウスは世界樹の根本に近い位置にある。紫陽花は魔法の研究機関でもあるため、世界樹の持つマナの研究も行っているためだ。


「ここが紫陽花のギルドハウス…、なんか宮殿みたいでおしゃれですね」

「国の機関であることがわかりやすいように、宮殿に似せた作りになっているらしいです」


「ひとまずここに座っててください。人を呼んできます」


ギルドハウスの外観は宮殿そのものだが、内装は至って普通のギルドハウスである。ギルドカウンターでは受付や接客が行われており、ラウンジエリアでは雑談をしているメンバーもいる。唯一存在しないのはクエストカウンターとなる。これは単純に紫陽花が魔術師ギルドではないからであるが、紫陽花の依頼が単純に公開できないという理由が大きい。


「おまたせしました」

「イレブン様、こちら3名の冒険者登録でよろしかったでしょうか?」

「ええ、それでお願いします」


「見たところ紫陽花のメンバーではないので、冒険者ギルドで登録されても良いと思いますが」

「それだと紫陽花の活動に支障が出る可能性があるので、ここでの登録でお願いします」


ギルドには暗黙のルールがある。それは、登録したギルドの緊急指令は絶対であることだ。冒険者ギルドは一般市民も幅広く登録するギルドであり、何かしらのイベントで頭数を揃えるために緊急指令が出ることが多々ある。紫陽花の活動が忙しい場合、これに応じることができない。緊急指令は何度か無視するとギルド登録が抹消されることがある。こういった問題を回避するため、今回は紫陽花経由で冒険者登録をすることにしたのだ。


「承知しました。それではまずはこれで測定をお願いします」


「ユーさんこれは何かしら?」


「これは冒険者としての能力を測定する魔道具ですね」

「その人の能力を客観的に評価して、ランク付けしてくれます」

「その球体部分に手を触れてみてください」

「最も低いランクがFになり、F、E、D、C、B、A、Sと進むにつれて客観的に強いという証明になります」


「わかったわ」


フィリンが率先して球体に手を触れた。球体が淡く発光し、冒険者カードにランクが刻印された。フィリンがカードを確認し、自身の客観的な強さを確認する。


「ユーさん、ランクってFからSよね?」

「+(プラス)って出てるけど、これって?」


「えっ、+(プラス)ですか」


「+(プラス)は測定不能という意味です」

「これはフィリンさんがSランクよりも強いことを現しています」


「ええええ!すごいじゃない私!!」


「イレブン様、私の見立てでは魔力使いと思いますが、ご存知でしたでしょうか」

「測定する術がなかったので、ご存知ではなかったですね」

「魔力測定器も持ってきてもらえますか」

「承知しました。その間に他の方の測定を進めておいていただけますか」


続いてフィーネが測定をする。結果は見るまでもなく+(プラス)であった。


「双子なのでおそらく同じとは思っていましたが、フィーネさんもですね」

「わ、私、自覚まったくないんですが、もしかしてもうユーさんに守ってもらえない感じでしょうかこれ」

「そうですね。俺の護衛は不要かもしれません」


フィーネは絶望した。自分の強さに。絶望するフィーネをよその目に、ネルフィナも測定を行った。

+(プラス)だった。


「あれ、この能力測定器壊れてますかね?」

「いえ、そんなことないです。ネルフィナは強いです」


3人の能力は比較的高いと思っていたが、まさかここまでとは。1人を除いて先程よりも自身に満ち溢れた顔をしているが、そんなことあるだろうか…。フィリン、フィーネはともかく、ネルフィナまで…。


「イレブン様、こちら魔力測定器です」


「3人とも、今度はこちらの球体に手を触れてみてもらえますか」

「これは魔力測定器という魔道具で、能力ではなく、単純に魔力の総量を視覚化します」

「こちらはランクという形式ではなく色で判断します」

「虹色に光りますが、赤色が最も魔力総量が少なく、紫色が最も多くなります」


フィリンが恐る恐る球体に手を触れた。球体が白く強烈に発光する。


「ユーさん…?」

「虹色じゃないと言いたいのですねわかります」

「虹色じゃない光は魔力使いであることを現します」

「さっきから言っていたけど魔力使いって?」

「あとで説明します。まずは全員計測してみましょう」


案の定、全員白色で発光してしまった。ネルフィナは2人に比べると若干暗いが、それでも強烈に発光したことに変わりはなかった。


「これほどの魔力なら紫陽花に迎え入れてはいかがでしょうかイレブン様」

「そのほうが良いかもしれませんね」

「ただ、こちらの3人は実戦経験が乏しいので、経験を積んでから、本人たちの意思で決めてもらおうと思います」


~魔力使い~


魔力の源は生命エネルギーであるが、この生命エネルギーは主に脂肪から捻出される。

生物学的に女性は脂肪を蓄えやすく、先天的に魔力の総量が多く魔法の扱いに長けた者が多い。


「ここまではみなさんご存知ですかね?」

「いえ、初めて聞きました」


「でも、なんとなく察していたりしませんでしたか?」

「俺に関係のある人は、不自然なほどに女性が多かった思います」


「私、それをずっと思っていました」

「単純にユーさんがモテるからと思っていましたが、生物的な傾向だったんですね」

「そうなります。魔女という言葉がありますが、これはこういった生物的な特徴からできた言葉だからですね」


「実際、紫陽花のメンバーは9割強が女性です」

「男性は俺を含め数えるくらいしかいません」

「俺を含め男性全員は魔力使いと呼ばれる特異体質になります」

「無論、3人もこれになります」


人間の持つ生命エネルギーには限界がある。運動可能な状態で脂肪を最大まで蓄えた場合、200kg程度が限界とされている。この重さがそのまま魔力になるとすると、人間は悪魔化した熊でさえ対抗するのが難しくなってしまう。実際にはそんなことはなく、人間は悪魔化した熊と対等に渡り合うことができる。


これを可能にしているのが魔力の変換効率という存在である。平均的に生命エネルギー1に対して魔力を100生成することができる。これを変換効率100という。魔力測定器における緑色に該当する。この変換効率があるおかげで、生物は多様な強さを表現できるようになっている。


魔力使いとは、この変換効率が100,000,000を超える体質の者を指す。文字通りの桁違いである。魔力変換効率は訓練で上昇するが、魔力使いの場合、この上昇量も桁違いな増え方をする。


そのような体質であるが、生物的特徴を克服するまでには至らず、魔力使いの男性と女性であれば女性の方が圧倒的な魔力量になる。人類を魔力量で順位をつけたとすると、トップ10は全員魔力使いの女性になり、全員が巨乳になると言われている。


魔力使いであるからといって強力な魔法が使えるかというと話は別である。魔力使いであっても、上位生物魔法が扱えない者もいる。魔力の扱いは単純に魔法理論をどの程度知っているかにかかっている。


「…以上が魔力使いの説明になります」

「なので、能力は高いですが、強いかどうかはこれから次第になるということですね」


「俄然やる気が出てきたわ!」

「ネルフィナもです!」


「私は強さはそんなに…」

「俺は強いフィーネさんはとても魅力的な女性になると思いますよ」

「!?」

「私がんばります!」


「イレブン様、お取り込み中のところすいませんが、冒険者カードはどうしましょう」

「+(プラス)の場合ってどうするのが決まりでしたっけ?」

「Sランクで作成する決まりになっております」

「冒険者ギルドのギルドマスターがランクを決めた場合のみこの決まりは除外されますが、、」

「じゃあ、Sランクでの作成でお願いします」

「かしこまりました」


3人の冒険者カードは強制的にSランクが書き込まれた。


「おー!これが私の冒険者カード」


「Sランクは冒険者の中でも最高位になるので、どの街も、どのダンジョンでも基本的に入れるようになります」

「それゆえ、盗まれることも多いため注意してくださいね」


「「「はい!」」」


色々と驚愕の発見はあったが、無事に身分証を手に入れることができた。当初の予定では段階的に討伐やダンジョンをこなす予定であったが、多少飛び級して最初からダンジョンに挑むのもありだ。

強化計画はおいおい考えるとして、我々は一路、世界樹の根元にある泉に向かうのであった。

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