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この世界は、港町が存在する

「これ美味しいですね」

「私、こっちも好きかも」

「ユーさん、私の料理とどっちが美味しいですか?」

「フィーネさんですね!」


「…ん…」


「あ、起きましたか」

「フィーネさん例の物をお願いします」


「はーい」


「おはようございます、もう夜ですが」

「重湯です。こちらをスプーンでゆっくりと食べてください」

「急に食べるとお腹を下してしまうのでゆっくりとです」


「勝手ながら治癒魔法で怪我や傷は少し治しておきました」

「完治はしていないので、まだ無理に動かしたりはしないでください」


生きている。死ぬのは怖くないと思っていた。死に直面した瞬間、死ぬのが怖かった。


「ここはどこですか…?」

「私はどうすれば…」


「まずは、こちらを食べて落ち着きましょう」


温かい。冷たくない食事をしたのは何週間ぶりだろう。ホッとする味。


「私の家から持ってきた岩塩を使っています、普通の塩よりもまろやかで美味しいはずですよ」

「それとこちらも、野菜を煮込んだスープです」

「具無しですが、こちらで我慢してください」


口の中で色々な野菜の味がする。優しい味。


「だめです、もっとゆっくり!」


美味しくて自然と手の動きが早くなってしまった。1口食べる毎に身体に染みて元気が湧いてくる。

私は四半刻(30分)もの時間をかけ、食べきった。


「手の震えが収まりましたね、落ち着いてきましたか」


気が付いていなかったが、私の手は震えていたようだ。


「ありがとうございます…、とても…美味しかったです…」


食べ終わると同時に急激に睡魔が私を襲い、私はそれに抗うことができず気がついたら眠ってしまっていた。


「ユーさん、また寝ちゃいましたが、食べてすぐ寝て大丈夫でしょうか」

「わからないですが、ほとんど水分なので大丈夫じゃないですかね」

「結構寝てたのに、もう寝られるのね」

「睡眠魔法は頭しか寝てないですからね、身体の休息が必要と判断したんでしょうね」

「おやすみなさい」


翌朝。私はハッと目を覚ました。


左右のベッドで女の人が寝ている。窓からは朝日が見える。朝日を見たのも何週間ぶりだろう。

男の人が目の前の椅子に座って本を読んでいる。


「おはようございます」


男の人が笑顔で挨拶をしてくる。


「お…、おはようございます…」


「体調は良さそうですね」

「顔色もよいですし、手も震えていない。目に生気が宿っています」

「これならすぐ動けるようになりますね」

「まだ、無理は禁物ですよ、今はゆっくりしてください」


そう言うと男の人は本に目を落とした。

しばらく沈黙が続いた。本をめくる音だけがする。


「あ…、あの…、ごめん…な…さい…」

「私…、本当は1人で…、言いつけなんてなくて…、ご主人様なんて…居なくて…」


私はうつむきながら謝罪した。

本を閉じ、机に置く音がする。


「別に謝ることなんてないですよ」

「自分を守るための嘘はこの世界で生きるためには重要です」

「あなたは懸命に足掻いていたじゃないですか」


「でも…」


一瞬の沈黙が走る。


「なるほど、わかりました」


「奴隷商に売られ、ご主人様のところに向かう途中で逃げてきたのが今の状況ですね」

「逃げられるようになったのは、オークが馬車を襲ったから」

「嘘をついたのは、街に連れて行かれたら本当の奴隷になってしまうから」


今の会話だけで、全部当てられてしまった。このままでは、私は本当に奴隷に…。


「ちが…

「安心してください、あなたを奴隷になんてさせませんよ」


「借金の肩代わりとして売られたと考えるのが自然でしょうか」

「借金をしていたのは両親、返済中に不慮の事故で亡くなってしまった」

「全身の怪我や傷は、奴隷商に抵抗していたときのものですね」


「そんな可哀想な子を奴隷にするやつがいたら、そいつは魔王かなにかですね」

「あったばかりの変な男が変な事を言っていて不安かもしれません」


「ですが、今は信じて着いてきてください」

「あなたを奴隷になんてさせません」


この人、普通じゃない。最後まで全部当たっている。でも、言葉からは不思議と優しさを感じる。

信じてみてもよいかもしれない。


「といっても、信じられませんよね」


「信じます…」


男の人は少し驚いた表情をしている。


「今、言ったこと、すべて正解です…」

「私は…、脱走奴隷です…」

「借金は母の病を治すために高額の薬を買った際のものです…」

「父と母は悪魔に襲われて…」

「私はその借金の肩代わりとして売られました…」

「後はあなたの言ったとおりです…」


男の人が近づいてきて、頭を優しく撫でてくれた。


「喋ってくれてありがとう」

「相当辛かっただろう」

「ここから先は安心してほしい」


両隣で寝ていた女の人が抱きついてきた。いつのまにか起きていたようで、右隣の人は泣いている。

私は1人で生きていく決心をしたときにもう泣かないと誓ったが、つられて自然と涙が溢れてきてしまった。


「はい、おかゆです」

「そこまで深刻な飢餓状態じゃなかったので、これくらいの固形物ならもう大丈夫だと思います」

「でも、まだ、ゆっくり食べてくださいね」


昨日食べたやつよりも味がする。とても美味しい。


「昨日の野菜スープですが、消化のよいやつを具としてよそってあります」

「こちらもゆっくり食べてくださいね」


お腹いっぱいとまではいかないが、ちゃんと食事を取ったのも何週間ぶりだろうか。

いつもは数日おきにパン一切れか生の野菜だけだった。


「ところで、1つ聞きたいのだけどいいかな」


男の人が訪ねてくる。


「はい…、何でしょうか…」


「あなたのお名前を聞かせてほしいです」


「ネルフィナ…、ネルフィナ・ベールです」


「俺はユー・アクロン」

「こっちの双子は」


「フィリン・エクストラよ」

「フィーネです」


「これからよろしく、ネルフィナさん」


握手を求めてきている。私は本当に、この人を信じてよいのだろうか。

不安がないわけじゃない。でも、今はこの人を信じるしかない。

私は恐る恐る手を差し出した。


「よ、よろしくお願いします…」


「よし、仲間も増えたところで、港町に向かいましょう」


「…え…」


「あ、いや、ネルフィナさんを引き渡すためじゃないですよ」

「我々はネルフィナさんの買い手に用があります」


「い…、いったい…何をしに…」


「野暮用です」


出発の際、私は顔が割れている可能性があるとのことで、大きなフードを被せられた。

港町へは馬車で向かっている。私の体力が戻っていないので安全を期しての選択と言っていた。

元奴隷の私に、ここまで優しくしてくれるのは何故か、私は馬車の中でずっと考えていた。


馬車はとても順調だったらしく、昼を少し過ぎたころに港町に着いた。


「さあ、みなさん行きましょう」


港町は活気に満ち溢れている。街のいたるところに木箱が置いてあり、様々なところから物資が運ばれてきていることがわかる。

それゆえ門番も厳重に荷物や人物のチェックしている。私はここを無事に通ることができるのだろうか。


「ユーさん、私たちあそこは通れるのでしょうか」

「普通には通れないので、さり気なく通ります」

「みなさん、私にぴったりとくっついてください」


私は顔が見られないように背中にぴたりとくっついた。

一歩ずつ進む。私は顔を見られないように必死に隠した。


「身分証のご提示を」


門番の人と会話している。


「はい、どうぞ、しかし、ずいぶん厳重ですね」

「最近は物騒だからね」

「大変そうですね、お疲れ様です」

「確認できました。どうぞお入りください」

「ありがとうございます」

「お仕事頑張ってください」


何事もなく中に入ることが出来た。


「ネルフィナさんはまだフードは深く被っていてくださいね」


「ユーさん、今のって…」

「気が付きましたか、幻惑魔法は本来こうやって使います」

「門番には悪いですが、俺1人しか認識できなかったはずです」

「まあでも、悪いことしていることにかわりないので、今後のことを考えると2人も冒険者ギルドに登録しておいたほうがよいかもしれませんね」


門番をやり過ごして歩くこと少し、とある豪邸の前で足が止まった。


「みなさん着きました。ここが我々の滞在場所です」

「おー、結構大きいわね」

「ユーさん、この建物6階くらいありませんか?」

「このあたりは貴族が別荘として使っている場所です」

「長期間人が居なくても不自然じゃない場所となると、必然とこのような別荘地で高級住宅になってしまうんですよね」


この人は本当に何者だろうか。こんな豪邸に住むなんて、冒険者としてとても腕の立つ人なんじゃないだろうか。

みんなが豪邸に入っていくなか、私は急に場違いな気がして入るのに躊躇して、足が止まってしまった。


「ネルフィナさんどうしました?」


「あ…いえ…、私なんかがこんな豪邸に入ってよいものかと…」


「大丈夫よ、この人、こう見えてとてもすごいんだから」

「こう見えては余計です」

「ネルフィナさんも遠慮しないで、なんならここに住んでもらってもよいですよ」


「い、いやいやそんな…」


「さあ、まずは入って入って」


私は恐る恐る中に入った。家具から照明まで何もかも高級だ。絨毯も敷かれている。貴族の家のそれが私の目の前に広がっている。


「イレブン!遅かったじゃな(にゃ)いか」


階段の方から声がした。


「よっ!ナイン。どっちかっていうと結構早かったと思うんだけど」

「いつもな(にゃ)ら昼前に(にぃ)は着いてるにゃ」

「まあ、色々あって」


「あ!あな(にゃ)た!領主の家であった双子のにゃ!」

「お久しぶりですナインさん、フィリンです」

「はじめましてナインさん、妹のフィーネです」

「お話はユーさんから伺っております」

「そんな(にゃ)堅苦しくな(にゃ)くていいにゃ、ナ(にゃ)インって読んでほしいにゃ」


「ユー、こっちの子は誰にゃ」


獣人族の人が私を指さす。


「こちらはネルフィナさんです、ここに来る途中で魔物に襲われていたところを助けたんです」

「あんた、また女(おんにゃ)の子をたぶらかして、ハーレムでも作る気かにゃ」

「な!そんな女性の心を踏みにじることはしません!」

「まあ、よいにゃ、うちのパートナ(ニャ)ーとしてしっかりやってくれれば」

「パートナーってナインさん、結婚しているんですよね」

「な(にゃ)にをいっているにゃ?うちはまだツガイはいな(にゃ)いにゃ」


場の空気が少し変わった気がする。


「ユーさん…嘘ついてたんですか…」

「フィーネさん、ナインの言っているパートナーはそういうことじゃなくて」

「私の純情を踏みにじるなんてひどい…」


突然、痴話喧嘩みたいなのが始まってしまった。でも、活気ある会話を聞ける日が来るなんて、思いもしなかった。生きててよかったと今なら思えるかもしれない。


「フィーネさん落ち着いてください!」

「ユーさんのバカ!」


この人は修羅場かもしれないが、私は日常に戻ってくることができた。そんな実感を噛み締めることができるそんな会話だった。

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