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番外編_王宮での昼食会 淑女の女子会

 昼食会が終わり、男性陣が別室で緊迫した情勢について(あるいはレインハルト様が国王陛下に娘の教育について)話し合いを始めた隙を、ナタリア殿下は見逃しませんでした。


「さあ、シャルロット様! こちらへ。お茶の続きをいたしましょう!」

「えっ、あ、殿下!? レインハルト様に一言……」


 わたしの困惑などどこ吹く風、ナタリア殿下は驚くべき瞬発力でわたしの手を引くと、王宮の奥まった場所にある「秘密のサロン」へとわたしを連れ去りました。

 そこには、第一王子妃のマリアンナ様も、面白そうに、そしてどこか切実な瞳を湛えて同行されていました。



 重厚な扉が閉められ、ナタリア殿下が満足げに鍵をかけました。

 ……王女自ら鍵をかけるなんて、穏やかではありませんわ。


「さて、シャルロット様。単刀直入に伺いますわ。……あの最強の魔導士たるお兄様を、どうやってあそこまで従順な、荷物持ちの飼い犬のように作り替えられたのですの!?」

「か、飼い犬だなんて、そんな……! レインハルト様は、ただ少しだけ過保護なだけで……」


 わたしが真っ赤になって否定すると、隣で優雅に紅茶を啜っていたマリアンナ様が、深く、重い溜息をつきました。


「……シャルロット様。謙遜は美徳ですが、貴女が今朝お持ちになったケーキを、あの方に持たせようとさせていたでしょう? あの瞬間、王宮中の侍従たちが腰を抜かしたのですわよ。『あの大魔導師に、荷物持ちをさせている女性がいるなんて』と」


 マリアンナ様の瞳には、明らかな「羨望」の色が混じっていました。

 事実は少し違いますが、彼自ら荷物持ちを買って出ていたのはその通りではあります……。


「教えてくださいまし! わたくしも、いつか降嫁した暁には、夫をあのように跪かせたいのですわ!」


 ナタリア殿下はわたしの目の前に身を乗り出し、まるで秘術の継承を待つ弟子のようです。


「お兄様が、貴女の指先一つで右往左往し、視線を向けられれば悦びに震え、少し離れれば絶望に染まる……。あの完璧なまでの『執着』! 殿方にあそこまでの依存を強いるには、どのようなスパイスを混ぜればよろしいの!?」

「……スパイス、ですか?」


 わたしの脳裏に、夜な夜なレインハルト様がわたしの唇を貪り、狂ったように愛を囁いてくる、あのあまりに煽情的な契りの光景がよぎりました。


……そんなこと、とてもじゃありませんが、王女殿下には申し上げられません!


「そ、それは……ただ、お互いを尊重し、感謝の言葉を忘れないことが……」

「そんな綺麗事ではございませんわ!!」


 ナタリア殿下がテーブルを叩きました。


「お兄様のあの黄金の瞳……! あれは、感謝などという生温いものではございません。あれは、『この女がいなければ自分は死ぬ』という、魂の飢餓ですわ! マリアンナ様もそう思いませんか!?」


「ええ……。我が夫、オプティマイオスも、わたくしを愛してはくれますが、あそこまで……壊れそうなほどにわたくしだけを凝視することはありません。シャルロット様、……一体何をされたら、男性はあそこまで『壊れて』くださるの?」


「支配の極意! 支配の極意ですわ! 跪かせ、自由を奪い、自分なしでは呼吸もできないほどに調教する……。ああ、シャルロット様こそが、この王国の真の女王ですわ!!」


「殿下、声が大きいですわ……っ!」


 わたしが必死に彼女たちを宥めようとしていた、その時でした。

 扉の向こうから、凄まじい魔力の震動とともに、聞き覚えのある低い声が轟きました。


「……ナタリア殿下。三秒以内にこの扉を開けなさい。さもなければ、このサロンの外壁を消滅させる」

「――お兄様!? 早いですわ! まだ『支配の奥義』を伺っている途中ですのよ!」

「奥義などない! 僕は、僕の意志で彼女の奴隷になっているんだ!!」


 レインハルト様の「僕の意志で奴隷になっている」という公言が廊下中に響き渡り、サロン内は一瞬の静寂の後、ナタリア殿下とマリアンナ様の「……っ!!(尊い)」という、凄まじい歓喜の溜息に包まれました。



 結局、魔法で鍵を破壊してなだれ込んできたレインハルト様によって、わたしは再び抱きしめられ、半ば拉致されるような形で連れ戻されました。


「シャル、大丈夫かい!? 変な毒(恋愛論)を飲まされなかったかい!?」

「……大丈夫ですわ、レインハルト様。ただ……皆様、貴方のことがとても気になるようで」

「僕のことなんてどうでもいい! 僕は、君にしか興味がないと言っているだろう!」


 背後では、ナタリア殿下が「『君にしか興味がない』……っ! いただきましたわ! 今日の名言ですわ!!」と叫びながら、侍従にメモを取らせていました。



 馬車へ向かう道すがら、レインハルト様はわたしの肩を抱く手にさらに力を込め、耳元で低く囁きました。


「……シャル。あの方々に変な知恵をつけられる前に、帰ったら……僕が君の『主人』であることを、君の身体にたっぷりと思い知らせてあげなければならないな」


 黄金の瞳に宿る、歪んだ情熱。

 王宮の女子会は、皮肉にもレインハルト様の「依存」を世に知らしめ、ナタリア殿下の崇拝をさらに深めるという、とんでもない結果を招いてしまったのでした。





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