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20_双子を宿した花嫁は、再び社交界へ



 あの忌まわしい事件から、五か月の月日が流れました。


 わたしの体調を気遣うレインハルト様の意向で、離れの別宮での隠居に近い生活が続いていましたが、この身体には驚くべき変化が起きていました。

 まだ五か月目だというのに、そうとは思えないほど大きく膨らみ、歩くことさえ少し億劫になるほどだったのです。


「……やはり、そうでしたか」


 ヴァルテンベルク家お抱えの主治医であるシュルツ先生が、魔導診察を終えて眼鏡を押し上げました。

 隣でわたしの手を強く握りしめていたレインハルト様の黄金の瞳が、鋭く光ります。


「先生、シャルに何か異常が……?」


「いいえ、逆です。あまりに生命力が強すぎる。奥様のおなかの中には、二人の天使が宿っていらっしゃいますよ。……双子です」


 その言葉を聞いた瞬間、わたしの胸は震えるような歓喜で満たされました。


「まあ……! 二人も? わたしたちの天使が、二人も来てくれたのですか……っ!」


 わたしは大きくなり始めたおなかを愛おしく撫でました。

 リオンがお兄様になる。

 そして、レインハルト様とわたしの愛の証が、一度に二人も。


「……双子か」


 レインハルト様は、呆然としたようにわたしの膨らんだおなかを見つめていました。

 けれどすぐに、その表情は蕩けるような慈愛に塗り替えられ、彼はわたしのおなかにそっと手を添えました。


「嬉しいよ、シャル。……君の中で、僕たちの命が二つも育っている。……ああ、なんて愛おしいんだ。君を丸ごと食べてしまいたいほどに」


 彼の指がおなかをなぞり、その熱にわたしの淫魔の血が微かに疼きます。

 レインハルト様が毎夜のように与えてくれる膨大な魔力と精気。

 それがわたしの胎内で、新しい命を育むための最高の糧となっていることを、わたしは本能で理解していました。



 ***



「今日の夜会は行けそうかい? どちらにせよ早めに切り上げよう。挨拶だけ、すればいいのだから」


 鏡の前で、侍女たちがわたしの身支度を整える様子を、レインハルト様が心配そうに見守っていました。

 今日は、数か月ぶりに王宮で開催される大規模な夜会。

 レインハルト様はわたしを屋敷から出したくないご様子でしたが、わたしは微笑んで首を振りました。


「ええ、ええ、もちろん。……わたしをあんなに心配してくださった皆様に、元気な姿をお見せしたいのです。それに……あなたの妻としての役目を果たさせてくださいませ」


「……シャル。君は本当に健気だね。だが、あまり無理はしないでくれ。少しでも気分が悪くなったら、すぐに僕を呼ぶんだよ?」


 レインハルト様がわたしの髪を指で梳き、耳元で甘く囁きました。


 今のわたしは、自分でも驚くほどの変貌を遂げていました。

 レインハルト様の精気と魔力を日々全身に浴び続けているせいでしょうか。

 わたしの肌は内側から発光する真珠のように白く光り輝き、薄紫色の髪はまるで細工されたガラスのように、動くたびにしゃらしゃらと艶やかに乱反射し、煌めいていました。


 会場となる王宮の大広間に足を踏み入れた瞬間。

 音楽が止まったのではないかと錯覚するほどの静寂が、会場を包みました。

 そして次の瞬間、悲鳴に近いどよめきが会場を包みました。


「……っ、あれは、ヴァルテンベルク公爵夫人か……?」

「なんという美しさだ。まるで、神話の女神が地上に受肉したかのようではないか……」


 紳士たちの熱っぽい視線と、淑女たちの驚愕の眼差し。

 わたしの肌から漂うはずの「誘惑の香り」は妊娠によって抑えられているはずなのに、存在そのものが放つ色香が、会場のすべてを呑み込んでいくようでした。


「まあ、シャルロット様! 結婚式の時より、さらにお美しくなられているのではありませんこと?」

「ありがとうございます。ご無沙汰しておりますわ、ロレーヌ伯爵夫人」


 駆け寄ってきたのは、親しくさせていただいているロレーヌ伯爵夫人でした。

 続いてメリドール子爵夫妻も、驚きを隠せない様子で挨拶に加わります。


「ええ、本当に……。公爵、貴方はこれほどまでの至宝を、今までどこに隠していらしたのですか?」

「……隠していたわけではありませんよ。妻は少々、身体が繊細なものですから」

「一時期、奥様が誘拐されかけたと聞きましたが、寸でのところで救出されたそうで、安堵いたしましたよ」


 レインハルト様は、誇らしげに口角を上げながらも、その黄金の瞳の奥には「誰にも見せたくなかった」という苛立ちにも似た独占欲を滲ませていました。

 彼は絶えずわたしの腰を抱き寄せ、他人の視線から守るように、密やかに、けれど強固な結界を周囲に展開していました。


「まあ、もう次のお子様が……。しかも双子だなんて! 小公爵様は、本当に子煩悩でいらっしゃいますのね」


 淑女たちの微笑ましい冷やかしに、わたしは顔を赤くしました。

 わたしの身体がこれほどまでに艶やかに磨かれている理由。

 それが、レインハルト様の執拗なまでの独占欲の結果であることなど、誰も知る由もありません。


 挨拶を重ねていると、人混みを割って、一人の男性がこちらへ歩み寄ってきました。

 第三王子のフェンデル殿下です。


「……これは、驚いた。噂以上の『名花』だ。レインハルト、これほどまでの逸品を、よくもまあ独り占めしていたものだな」


 彼は酒に酔っているのか、不敵な笑みを浮かべ、あろうことかレインハルト様の手を振り払うようにして、わたしの手を取ろうとしました。


「少しの間、バルコニーで涼もうではないか。夫人は少し、喉が渇いているようだ」

「お戯れを……! わたくしは夫にエスコートされておりますゆえ……!」





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