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裏通りのお掃除屋さん、今日も死体のおかたづけ  作者: ニー太
第四章 馬鹿につける薬を塗り合おう
22/24

21 日頃の行いのおかげです

「大丈夫ですかっ」


 檜原真菜子の声がかかった。妹の華子もいる。


「俺達は大丈夫だが、この状況は大丈夫じゃねーぞ」


 俺が言った。


 敵の数が多すぎる。このままではいずれ数で押し込まれちまう。今みたいに、俺とカイとりえの三人がかりで対処し続けるのも無理がある。いずれ疲弊してバタンQになる。そもそもさっきヒッキーブラウンとアコーディオン婆さんと戦闘して、俺達も消耗しているし、体力的にも霊力的にももたねーよ。


「来たみたいです」


 華子がホログラフィー・ディスプレイを投影して報告する。


「来た?」


 りえは華子の言葉の意味がわからなかった。


 銃声が複数響く。今まで以上に激しい数の銃声だ。これは間違いなく、来たな。

 周囲の建物にカバーしていたしみったれニヒリズムの兵隊達が、次々と倒れていく様が、ここからでもはっきりとわかった。


「援軍? でも誰が――」


 訝るりえ。


 そうこうしている間にも、しみったれニヒリズムの兵隊共は、すごい勢いで掃滅されていく。


 やがて援軍の姿が、こちらからも視認できるようになった。


「あれは? え? 見覚えのある人達が結構いる。ていうか、私が所属していた情報組織『鞭打ち症梟』までいるし」

「うちらのお得意さん軍団だ」


 現れた援軍を見て戸惑うりえに、俺がにやりと笑う。


「岳都が手を回したのさ。恐怖の大王後援会が無くなっちまったら、多くの裏通りの住人が困るだろう?」


 しみったれニヒリズムは、恐怖の大王後援会の人材消失も承知のうえで、そのブランドを欲し、乗っ取りのための抗争を仕掛けてきている。まあ、うちらを乗っ取りたいってのは、組織を動かすための建て前の問題だがな。この抗争は東山の私情が発端だし。


「だから岳都は、助けが欲しいと、各方面に救援要請したってわけだ」


 結果は御覧の通り。多くの組織と個人が有志として立ち上がり、恐怖の大王後援会の助太刀にやってきた。


 駆け付けた者達の方が数が多いうえに、腕利きも多くいたため、しみったれニヒリズムはあっという間に数を減らしていった。次々死体となって転がっていく。

 状況を理解して、まだ生き残っていたしみったれニヒリズムの兵隊も退いていった。


 どうやら危機は去ったな……


 助っ人に来てくれた裏通りの住人達が姿を現す。


「いやー、皆さん、よく来てくれたー。助かったよー」


 岳都が建物の中から出てきて、助っ人達に礼を述べる。


「おいすー、鴉山さん、カイ君、りえちゃん」


 純子が現れ、声をかけきてた。


「純子も来たんだ」


 意外そうな顔になるカイ。


「私も恐怖の大王後援会には、日頃から散々お世話になっているからねえ。抗争で人員失ったら、新たな人員が補充されて育成される期間、仕事頼めなくなっちゃうじゃなーい。だから実験台のマウスをいっぱい連れてきたよ」


 純子は実験台にした奴等のことを、マウスと呼んでいる。おそらく、そいつらのテストも兼ねているな。


「それにさ、乗っ取りなんかされて、組織の体制が変わって、値段の吊り上げとかされたら困るって考える人も、結構いると思うんだ。だからこんなに集まったんだろうね」

「なるほどね」


 純子の言葉に納得するカイ。


「俺は岳都がこうすることを読んでいた。俺が岳都の立場でも、同じことをしただろう。中枢もきっと読んでいただろうな。だから自分達で何とかできないなら、中枢で吸収するなんて言ったのさ」


 岳都にも聞こえる声で、俺が補足する。


「ま、俺達は裏通りにおける重要なポジションなんだからー。生態系で例えるなら、最下層のスカベンジャーだけど、それって無くちゃ困るもんだろ~?」


 岳都が笑いながら言う。


「東山は馬鹿なことをしたよねえ。こうなること、わかっていなかったのかなあ。十一年前にしみったれニヒリズムがうちを乗っ取ろうとした時は、もっと慎重だった。当時のボスは、うちらのことを調べつくし、うちらの動きを把握し、様々な工作を仕掛けて、内部から少しずつ、しみったれニヒリズムの手のかかった者と、入れ替えていく手法を取った。その尖兵として大いに活躍したのが――」


 そこまで喋った所で、岳都が言葉を止める。りえをチラチラと見ている。


「言っていいぜ。もうりえは知っているよ」

「お母さん――なんでしょ」


 俺とりえが言うと、岳都は頭を掻いた。


「うん。そっか……りえちゃん、すまないね。俺はずっと君を疑っていたけど、どうやら君は敵じゃなかったみたいだね」


 バツが悪そうに話す岳都。


「でも東山は、力ずくで支配しようとしてきた。ごり押ししてきた。うちらの組織の性質を理解していなかったね。力で屈服できるタイプの組織じゃないのにさ。裏通りのお掃除スキルを備えた人材があってこその、後始末組織。それが我々恐怖の大王後援会だっていうのに、抗争ふっかけてその人材を潰すとか、ばかちんなことしちゃって~」


 岳都はりえや俺達だけではなく、助っ人に駆け付けてくれた者達全員に聞こえる声で話していた。状況のおさらいを皆に聞かせているようだ。


「ま、不思議な話だよ。東山は十一年前の当時も、しみったれニヒリズムの一員だったわけだし、そのくらいの理屈はわかるだろうにねえ。何でこんな短絡的なことしたんだろうねえ。何か事情があったのかなー?」

「俺にはわかるぜ」


 岳都の話の切れ目のタイミングを狙い、俺は言った。


「事情がわかるんですか?」


 りえが尋ねる。いやいや、質問してるけど、りえだって本当はわかっているんじゃないか? ここまでくればわかりそうなもんだ。


「普通ならわかるけど、りえは脳筋戦闘民族だからわからないんだよ」

「ちょっとカイ君、何言ってくれちゃってるの……」


 俺の心を読んで言うカイに、りえがむっとする。


「俺と似た者同士だからだよ。俺と同じ馬鹿だからだよ。でもまあ、あいつの方が俺よりさらに馬鹿だったかな」


 抽象的――というか曖昧な答えを口にして、俺は空を仰ぐ。

 カイと視線が合う。カイは仕方ないなという顔で、俺を見下ろしている。俺の考えていること全て、こいつはお見通しだからな。俺の今の発言の意味も理解している。


 東山は、アリサを奪った俺と恐怖の大王後援会、双方に復讐したかったんだ。恨みや憎しみをぶつけるというより、復讐という形で過去を清算することで、自分の気持ちを晴らしたかったんだろう。


「中枢からしみったれニヒリズムの殲滅依頼が出されているねー。殲滅作戦に参加した裏通りの住人には、報酬を出すってさ」


 ホログラフィー・ディスプレイを開いた純子が報告する。


「先に出せって話よね」

「今のタイミングが中枢的にはいいんだろうさー。中枢の政治的事情もあるだろうし」


 りえが不満を露わにし、岳都は肩をすくめていた。


「やらなくちゃいけねーことがある」


 静かに、しかし力を込めて、俺は言った。


「しみったれニヒリズムが完全に壊滅する前――東山が殺される前に、あいつの望みを叶えにいくさ」

「どういうこと?」


 俺の言葉の真意を読めないりえが尋ねる。


「俺と東山、サシのケリをつける。どうせ死ぬなら、俺に殺された方が、あいつもすっきりするだろ」

「なるほど」


 りえも納得してくれたようだ。やっぱりりえもわかっている。


「どうして今更東山と会いに行くんですか? 放っておいても、あいつはもうおしまいですよ」


 そう尋ねてきたのは檜原華子だ。


「そうだねー。しみったれニヒリズムは見せしめのためにも、そして後顧の憂いを断つためにも、しっかりと壊滅させなくちゃっな~。ま、東山は上手く逃げ延びる可能性もあるから、きっちり始末を――」

「そんなんじゃねーよ。あいつは逃げねえさ」


 俺に代わって説明している岳都の言葉を、俺が途中で否定した。


「俺が始末をつけに来るのを待っている。俺がそうするとわかっている。他の奴に殺される前に、俺がケリをつけたいと思うことも、きっと見抜いている」

「何でそんなことわかるんです?」


 今度は姉の檜原真菜子が問うてきた。


「わかっちまうんだよ。東山のことは。似た者同士すぎてよ。出会いがもっと違った形でいれば、いいダチになれたかもな」


 しかし俺と東山は残念ながら、似た者同士で殺しあう間柄になっちまった。


「そういえば、東山があの時言ってましたね。やるならサシでと」


 りえが言う。


「それがあいつの望みなんだろ。別に俺はどうでもいいが、東山に付き合ってやりたい」

「おじさんは優しいねえ。優しすぎて最早馬鹿すぎるけど」

「ああ、馬鹿さ。馬鹿なんだろうよ」


 からかうカイであったが、俺はあっけらかんと笑い飛ばしてやった。

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