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裏通りのお掃除屋さん、今日も死体のおかたづけ  作者: ニー太
第四章 馬鹿につける薬を塗り合おう
21/24

20 座布団

 カイとりえ、アコーディオン婆さんのいる方に視線を向けると、りえが不可視の力で吹き飛ばされている光景が、目に飛び込んできた。

 背中から地面に打ち付けられるかと思われたりえが、空中で器用に回転して転倒を防ぐ。そういやクロヒョウの力を、入れ墨で宿されているんだっけか。


 りえが猛然とアコーディオン婆さんに突っ込んでいく。アコーディオン婆さんはアコーディオンを奏でて、また力を発動させる。今度は不可視の力が、りえの体を下から突き上げた。りえが真上に吹き飛ぶ。

 空中で無防備になったりえに対し、アコーディオン婆さんがとどめを刺そうと、何やら力を発動したようだが、飛んできたカイがりえの体を抱き止めて、そのまま飛翔して追撃から守った。


「こんのーっ!」


 続けて攻撃を食らったことですっかりキレたりえが、怒声をあげ、カイをふりほどこうとする。また考えなしに突っ込む気か。


「お前、冷静になれよっ! 死ぬぞっ!」


 りえに向けて叱責する。りえの動きが止まる。


「すみません。今の九郎さんの言葉で、命拾いしました」


 りえが着地し、俺の方を向いて言った。


「そこで踏みとどまったなら上出来だ」


 あまり上出来じゃないけど、そういうことにしておいた。


 俺がアコーディオン婆さんに向けて銃を撃つ。

 銃弾はアコーディオン婆さんの後方の壁――アコーディオン婆さんのいる場所から、かなり横に逸れた場所を穿った。俺は確かに婆さんを狙ったが、婆さんの力で弾道を逸らされたってわけか。


「あらあら、三対一? これは不味そうね~」


 にこにこ笑いながら不利だと認めるも、アコーディオン婆さんは退く気が無さそうだ。


 正直俺は思う。この婆さん、三対一でようやく勝てるかどうかじゃないか? カイとりえだけではかなり危ういように見えたし。


 アコーディオンが奏でられる。衝撃波が俺とりえとカイ三人に向けて、同時に繰り出されたようだ。

 りえとカイは攻撃を避けたが、俺は避け損ねた。全身に衝撃を受け、吹き飛んで倒れる。


「九郎さんっ!」

「大丈夫だ」


 叫ぶりえに、俺が言った。本当に大丈夫かどうかは、これから確かめる。手足を動かし、骨折や捻挫の有無をチェックする。うん、大丈夫だ。


 さらにアコーディオンを奏でる婆さん。りえの周囲に光の粒のようなものが無数に現れ、りえに飛来して襲いかかった。

 りえは必死で回避するが、光の粒の一発が腕を突き抜ける。腕でよかった。胴体ならそれだけで致命傷になる。


 音楽を奏でるだけで、攻撃も防御も思いのままだし、何してくるかわからん。厄介極まりない。 


 カイがアコーディオン婆さんに急降下する。

 アコーディオンが奏でられるが、カイの動きは止まらない。俺が純子に改造されたせいで、カイもパワーアップしているってわけか。


 アコーディオン婆さんはカイの急降下攻撃を避けたが、そのタイミングを狙って、りえが突っ込んで斬撃を放った。

 しかしアコーディオン婆さんも、りえが来るタイミングを読んでいた。りえの攻撃を避け、同時にアコーディオンを奏でて、りえに向けて不可視の攻撃を放っていた。カウンターを食らったりえが吹き飛ぶ。


 アコーディオン婆さんがりえを攻撃した瞬間を狙い、俺が倒れた格好のまま銃を撃った。

 銃弾は空中で止まった。アコーディオンが奏でられ続けている。アコーディオン婆さんの力で止められた。俺の攻撃とタイミングさえも読んでいたようだ。


 そこにカイが再び突っ込んでいき、アコーディオン婆さんの上空後方からミサイルキックを放つ。

 カイの攻撃のタイミングに合わせて、アコーディオン婆さんは体を反転させた。上から飛んできたカイの攻撃を避けつつ、カウンターでカイの体をローリングソバットで蹴りつける。吹き飛ばされるカイ。体術にも長けているのか。


 百戦錬磨とはこのことだ。三人がかりでも、尽くいなされちまっている。俺が純子に改造されてさらに強化されているおかげで、カイがこの前のように容易く封じられることなく戦えているが、それでもこの有様だ。


 だがアコーディオン婆さんの命運もそこまでだった。


 ネズミの霊とスピッツの霊が、アコーディオン婆さんに飛び掛かる。


「ほいっとなっ!」


 アコーディオン婆さんがアコーディオンを奏で、二体の霊を祓った。


 その瞬間を狙って、りえが爪の斬撃を放つ。ようやくアコーディオン婆さんに生じた、致命的な隙。それはほんの一瞬に過ぎない。だがその瞬間をりえは逃さなかった。

 アコーディオン婆さんはりえの攻撃を防ぐことが出来ず、袈裟懸けに斬撃を受け、血と臓物を地面に零しながら崩れ落ちた。


 キツい相手だった。三人がかりで辛勝。他にも雑魚連れてくれば、勝てなかったかもしれねーけど、向こうにも事情があってか、今回は二人だけだったようだ。


 これで街から名物アコーディオン弾きがいなくなっちまう。寂しくなるな。


「お嬢ちゃんの言う通りよ……。予感はしていたの。モキョエルちゃんは実は死の天使で、アンジルちゃんを死なせてしまう……そんな曲が閃いてしまったからね」


 アコーディオン婆さんがりえの方を見て言う。


「ごほっ……一つ頼みを聞いてくれない?」


 血を吐き出し、アコーディオン婆さんが問いかける。


 俺達三人は、無言で次の言葉を待つ。


「いつも来るあの子にさ……これを……」


 アコーディオン婆さんが掠れ声で言いながら、ポケットの中からカスタネットを取り出し、掲げたが、上げた右手から力が抜け、カスタネットがアスファルトの上に転がった。アコーディオン婆さんの首が傾げる。


 カイがカスタネットを拾い、アコーディオン婆さんの目を閉ざした。


「ヒッキーブラウン、とどめさしてないじゃないですか」


 りえがヒッキーブラウンを一瞥して、意外そうに言った。


「殺さず戦闘不能に出来たし、それでいい。あいつももう俺を殺しには来ないだろう」

「おじさんは優しすぎるよ。いつかその優しさが命取りにならないかと、俺は気が気でない」

「へいへい、心配かけて悪ぅござんす」


 渋面で言うカイに、俺は苦笑いを浮かべて小さく息を吐いた。


***


 組織本部近くに移動すると、すでにしみったれニヒリズムと激戦模様だった。銃声が絶え間なく続いている。

 表通りの住人は銃声を聞きつけ、近寄らない。おかげで道に通行人は皆無。ま、安楽市市民は抗争慣れしているからな。小学生低学年でも、銃声が聞こえたら素早く避難するよう仕込まれている。


 しみったれニヒリズムの兵隊が、本部周囲の建物や街路樹のあちこちでカバーして、本部の入り口や窓に向かって銃を撃っている。本部にいる恐怖の大王後援会も、一応は撃ち返しているが、あまり積極的に反撃はしていないようだ。


 本部入り口前には、しみったれニヒリズムの兵士の死体が七つ、転がっていた。入り口の守りだけは厚い。当然だ。敵さんを中に入れちまったら、それでほぼうちらの負けが決定的になる。


「健闘してる?」


 入り口の死体の山を見て、カイが言った。


「健闘したからって、勝ち目はねーんだよ。今は地の利があるからこそ、どうにか持ちこたえているだけだ」


 頭を掻く俺。


 しみったれニヒリズムはこれまで様々な方法で、数多の組織を取り込んできた。吸収合併した組織もあれば、下部組織として傘下に収めたものもある。恐怖の大王後援会はというと、構成員数、規模、収益、裏通りへの影響力、それらを総合的に見れば、しみったれニヒリズムに引けを取らない大組織だ。むしろ影響力に関しては、大きく上回る。しかし――


「うちらは荒事に長けていない。そもそも後始末屋であるうちらに喧嘩売るような奴なんて、ほとんどいねーし。どっかの組織と、真っ向から全面抗争したこともない。だがしみったれニヒリズムは、抗争慣れしている武闘派組織だ。抗争しても勝てる道理がねえ」

「じゃあどうするんですかっ?」


 りえが焦燥感を露わにする。ネガティブな発言ばかりしている俺を、まるで非難するかのような顔だ。


「今は何とか凌ぐしかねーな。死人出さねーようにな」

「凌ぐって……」


 俺の答えに、りえが憂い顔になる。凌いだところでどうなるのかっていう面だな。


「時間を稼ぐ。すでに岳都が手を打ってるからな」

「え?」


 俺の言葉に、りえが怪訝な声をあげる。ま、どんな手を打っているかは、判明してからのお楽しみだ。黙っておこう。


 その時、しみったれニヒリズム陣営の後方から。ジェラルミンシールドを構え、防弾プレートやヘルメットで固めた集団が、追加の援軍として現れた。

 あれはヤバそうだな。あの武装では、拳銃の弾程度じゃ倒せねえぞ。しかもその数は――二十人はいる。 


「おじさん、不味いんじゃない?」


 カイが声をかける。うん、確かに不味い。あの武装とあの数で、一斉に強引に入り口めがけて突っ込まれちまえば、容易く押し切られちまう。


「来てくれ。頼む」


 急ぎ低級霊を集める俺だが、どうこうできるとも思えない。だが何もやらないでいるわけにもいかねえ。


 重装備集団が突撃を始めた。

 建物の窓から一斉に銃撃が行われるが、重装備集団は止まらない。


 その時、りえが飛び出た。本部入り口に向かっている。


「馬鹿っ!」


 俺が叫んだ直後、しみったれニヒリズムの兵隊達が、りえに銃弾の雨あられを浴びせる。


 りえはただ一直線に移動しているわけではなく、狙いをつけづらいように、左右にブレながら駆けている。りえの人間離れした速度でこのように動き回っている間は、銃で狙いをつけて当てるには困難だろう。しかし撃つ側の数が半端ではないし、何発か当たってしまうんじゃないか?

 だがその心配は杞憂に終わった。カイがりえの周囲を飛び、りえに当たると思われた弾を片っ端からキャッチして、りえを護る。これなら持ちこたえられそうだ。


 りえは入り口の前に立ち、突入しようとする重装備集団と向かい合う。


 りえが何度も腕を振るう。連続して斬撃が繰り出され、ジェラルミンシールドも防弾プレートのスーツも切り裂いていく。


 さらには俺が呼びだした低級霊達が、重装備集団に憑依して、混乱を招いた。頭を掻きむしったり、その場で蹲って泣き出したり、喚きながらどこかに走って行ったりと、何人かがこれでリタイアだ。


 俺も入り口に向かって走る。当然俺も撃たれまくったが、これもカイが護ってくれた。


 本部建物の入り口に飛び込む俺。カイも中に入る。りえはすでに入っている。


「どうしてお前はそう無鉄砲なんだよ!」


 俺がりえに向かって怒鳴る。


「無鉄砲なりえに、鉄砲撃たれまくり」

「座布団没収な」

「えー? 今のは一枚貰ってもよかったと思うよ」


 ふざけるカイに、俺が無常に告げる。カイは不満げに訴えた。


「お言葉ですが、今のは無鉄砲じゃないです。私なりにちゃんと計算しました」


 りえは冷静に反論した。


「あのままだったら、中に突入されていたでしょう? そしたら大変なことになってましたし、いちかばちかで何とかしないといけないと思ったんです。それを出来るのは私だと思いました」

「そうかもしれねーが、だからってお前が死んでいい理屈になんねーんだよ! 二度とあんな真似はするなっ!」


 いつものこいつらしくなく、静かに主張するりえだったが、俺はまだ怒っていた。


「違います。私はカイ君と九郎さんが必ず助けてくれると計算したうえで、最も良い選択をしたんです。考え無しに飛び出したわけじゃありません」

「おじさん、やり方は強引だったけどさ、りえの判断は正しいよ。何より結果的に敵の侵入を阻んだ」


 りえはあくまで冷静に自分の行いを正当化し、カイまでもがその後押しをした。


 糞……こいつはりえの方が正しかったか。俺もちょっとカッとなっていた。


「わかった。りえ、座布団一枚やる」


 仕方なくりえの行動を認める俺。


「いや、座布団が欲しかったわけじゃないんですけど」


 小さく笑うりえ。

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