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自己批判の湖と命がけのピザカッター

スフレ山脈を「焼き固めて」突破した一行の前に現れたのは、水晶のように透き通った巨大な「鏡のミラー・レイク」だった。この湖には古くからの言い伝えがある。湖面に映った自分自身の幻影が問いかけてくる試練を乗り越えねば、対岸へは辿り着けないという。


「……何よ、この湖。反射が眩しすぎて、私の高貴な網膜がチカチカするわ。ベレッタ、サングラスをデリバリーなさい」


私が不機嫌に呟いた瞬間、湖面が揺れ、そこから私と瓜二つの姿をした、しかしどこか嫌味な微笑を浮かべた「幻影」が現れた。


『……美しいお嬢様。その手に持つ食材……。貴女様のその細いウエスト、昨夜のハムの脂身を考えれば、これ以上の摂取は“美”への冒涜ではありませんか?』


「……なんですって?」


『鏡は嘘をつきません。貴女様は、美食の誘惑に負けた浅ましい——』


「……黙りなさい。この安物の鏡、屈折率が根本的に狂っているわね。私の真の美しさを1%も再現できていない上に、私の代謝能力を甘く見すぎだわ。私の胃袋は、摂取したカロリーをすべて『不機嫌という名のオーラ』に変換して消費しているのよ。無能な湖なんて、泥水で十分だわ」


私の一喝に幻影が怯んだ隙に、ベレッタが動いた。


「……セレスティーヌ様のプライドに傷をつける不敬な反射光……迅速に、世界ごと暗転パッキングさせますわ」


ベレッタは馬車に積んでいた大量の遮光布を連結し、目にも留まらぬ速さで湖面全体を覆い隠した。しかし、それだけでは収まらない男が一人。


「おおお! 乙女の美しさを利用して精神を乱す、なんという邪悪な呪い! 私の正義の腹筋で、この迷いを吹き飛ばして差し上げましょう!!」


アルフレッドが湖畔で猛烈な勢いの「高速腹筋」を開始した。一回ごとに発生する凄まじい風圧が衝撃波となり、湖水を物理的に空の彼方へと叩き出した。

 数分後、そこには伝説の湖など影も形もなく、ただの「干上がった巨大な窪地」が広がっていた。


「……ふぅ。これでウエストを気にする必要もなくなりましたな!」


「……喉が渇いたから、あそこの水を水筒に入れるつもりだったんだけど。あんたは、後で自分の汗でも絞って飲みなさいよ」


窪地を突っ切った先に現れたのは、王都への最短ルート上に位置する「アトラクションギミック・ヴィレッジ」。村全体が巨大な厨房器具を模した罠の塊で、村人たちは「スリルこそが最高の隠し味!」と叫びながら、巨大な回転皿に乗って生活している狂信者集団だった。


「ようこそ旅人! 我が村の『巨大ピザカッター回転通路』を無傷で通れるかな!?」


村人の合図とともに、通路の両脇から直径五メートルの超高速回転するピザカッターが、火花を散らしながら迫りくる。


「おおお! なんという巨大な正義のカッター! 騎士として、その切れ味をこの腹筋で試さねば無礼というもの!!」


アルフレッドは馬車の前に立ちはだかると、迫りくる回転刃をあえて腹筋で正面から受け止めた。

 ギギギギギィィィン!!

 火花が散り、村人たちが「刃が折れるぞ!?」と叫ぶ中、アルフレッドの腹筋の方が硬すぎて、ピザカッターは逆に粉々に砕け散った。


「甘い! 正義の厚みは、いかなる刃も通しませんぞ!」


アルフレッドはそのまま、迫りくる巨大フォークの串刺しトラップを素手で折り曲げて「正義のオブジェ」に変え、回転する巨大皿を足踏み一つで強制停止させていった。


「……セレスティーヌ様。騒がしい振動はすべて糸で吸収キャンセルいたしました」


ベレッタは馬車を鋼糸で吊り下げ、アトラクションの地響きを一切無視して空中をスライドさせていく。


「……ふん。派手な割には中身がないわね。遊園地を名乗るなら、出口に『無料のキャラメルポップコーン』くらい用意しておくのが最低限のマナーじゃないかしら。……ねえ、謎姫。あんた、さっきのピザカッターで私の服に埃がつかなかったかチェックしなさい」


馬車の隅で、もはや「驚く」という機能を喪失した謎姫が、無言で私のドレスの裾をパタパタと叩く。


「……あ、あの……。はい、セレスティーヌ様。……ポップコーン、王都に着いたら私が作りますから……」


「いい心がけね。さあ、次はどんな『無能な罠』が待ち構えているのかしら」


王都の門は、もう指呼の間に迫っていた。おそらく。

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