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雑巾博覧会とオーパーツ箸置き

温泉街を離れる直前、私たちは偶然にも「珍獣博覧会」なる怪しげな催しに遭遇した。

 精神的疲労を癒やすには、やはり「他人の金」が一番の特効薬だわ。私は、三頭並んだドロドロの汚物的「雑巾馬」ボブたちを指差し、鼻を鳴らした。


「……これ、ただの汚い雑巾じゃないわよ。数千年の時を経て泥と一体化した、超希少な『動くヴィンテージ岩』よ。拝みたいなら、一人銅貨三枚……いえ、五枚ずつ払いなさい。触るなら十枚よ(ベレッタが指をパッキングするけれど)」


主催者はボブのあまりの汚れ(重厚感)に圧倒され、「これぞ古代の泥ゴーレムの生き残り……!」と勝手に感涙。私たちは一歩も動かずに、湯水の如く溢れる拝観料を荒稼ぎした。


「……ふふ。やっぱり、バカを相手にする商売は効率がいいわね」


懐を温めた私は、ハラペコニアの王都を目指して街道を進む。しかし、次第に景色は一変し、整備された道は消え、うっそうとした原始の森……未開の聖域のような場所へと迷い込んでしまっていく……。


案の定、宿など一軒もない。私たちは、巨大な石柱が円状に並ぶ古代の遺跡「ヘンジ・オブ・ミステリー」のど真ん中で野宿をすることになった。


「……はぁ。温泉街でせっかく手に入れた最高級の『スモーク・ドラゴンのタン』。これをこんな不衛生な地面の上で食べるなんて。カトラリーの先がほんの一ミリでも土に触れたら、私のプライドが音を立てて崩壊するわ」


私が銀のフォークを弄びながらボヤくと、アルフレッドが「正義の土木作業」を開始した。


「セレスティーヌ様! 貴女様のプライドを支えるのは、この歴史ある大地の力! あの巨石(高さ5m)を箸置きにいたしましょう!」


「はぁ? 何を言って——」


言うが早いか、アルフレッドは遺跡の中心にそびえる最も神聖な巨石を「ふんぬっ!」という気合と共に根こそぎ引き抜いた。そのまま、小脇に抱えて私の元へ持ってくる。


「お任せください。お嬢様の繊細な指先に馴染むよう、迅速に(デス)削り出しますわ」


ベレッタが短刀を閃かせ、数トンの巨石を0.1mm単位で超高速切削。火花が散り、石粉が舞い上がる中、数分後にはストーンヘンジの一部だった岩が、滑らかな曲線を美しく描く、世界一贅沢で巨大な「箸置き(というかテーブル)」へと生まれ変わった。


「……あら。意外と私のカトラリーの輝きを引き立てるじゃない」


私は、古代の英知が凝縮された(元)遺跡を箸置きにして、優雅にタンを味わった。アルフレッドは余った石材で「正義のプロテインシェイカー」を作り、ベレッタは岩の裏側に「セレスティーヌ様命」と刻印をパッキングしていた。


翌朝。満足して出発しようとする私たちの横を、青い顔をした歴史学者の一団が通り過ぎていった。


「な、なんだこれは……!? 一晩にして、数千年も動かなかったと言われる聖地の配置が完全に変わっている!? しかも、主神の顔が……主神の顔が、見たこともない傲慢そうな、しかし恐ろしく美しい女性の顔に彫り直されているぞ!!」


学者は、ベレッタがリフォームした「セレスティーヌ像(元・巨石)」を仰ぎ見て、狂ったように叫んだ。


「これは神の啓示だ……! 時代は変わった! 今日からここは、掲示板でみた生ける聖女、我ら『食欲と毒舌の女神』を奉じる新たな聖地となるのだぁぁ!!」


「……ちょっと、アルフレッド。あの人たち、私の顔を見て拝み始めたわよ。気味が悪いからさっさと出しなさい」


「承知いたしました! 聖女様としての名声も、もはや神の領域ですな!!」


背後で学者が「女神様、どうか私にも毒を吐いてください!」と叫んでいるのを無視し、私たちは王都へと続く、よりうっそうとした森の奥へと馬車を走らせた。

 ……もう、歴史がどうなろうと知ったことではないわ。

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