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聖女の捏造

翌朝、私たちが「一時別荘(元幽霊屋敷)」のバルコニーから下界を見下ろすと、そこには昨日以上の人集りができていた。

「……おい、あの禍々しい冷気が消えてるぞ!」「呪いが解けたのか!?」と、村人たちがざわついている。


私は、ピンク色のペンキが中途半端に剥げかけたアルフレッドを一瞥し、不敵に微笑んだ。


「……ベレッタ。迅速に、そのピンクの粗大ゴミを元の銀色に戻しなさい。……いい、これから『聖女の奇跡』をデリバリーするわよ」


私は屋敷の正門を開け放ち、後光を背負って(ベレッタが背後で魔導具を全開にして)姿を現した。


「民たちよ、安心なさい。この屋敷を蝕んでいた邪悪な亡霊は、今、私の祈りと、この忠義なる騎士アルフレッドの正義によって浄化されました」


私は、銀色に戻り「正義!」とポーズを決めるアルフレッドの肩に手を置いた。


「あの指名手配書? ああ、あれは亡霊の呪いに操られた悪徳商人が、真の英雄を遠ざけるために捏造した偽物よ。あなたたちを永遠に苦しめ続けようとした卑劣な罠……。でも、もう大丈夫。私たちが来たからには、この街に真の美食の平和が訪れるわ」


私の(嘘八百な)演説に、単純な村人たちは涙を流してひれ伏した。


「おおお! なんという慈悲! 疑ってしまって申し訳ない!」

「英雄様! 聖女様! これ、うちの蔵で一番の熟成生ハムです! どうか受け取ってください!!」


次々と運び込まれる、最高級のチーズ、ワイン、そして季節の果物。私は心の中で高笑いした。

「……ふふ。やっぱり、恐怖で支配するより、信仰心で搾取する方が効率がいいわね」


しかし、その略奪……いえ、寄進の宴を切り裂くように、白銀の甲冑に身を包んだ一団が現れた。ハラペコニアの美食ギルドが誇る武闘派集団、「三ツ星の盾」だ。


「止まれ! 英雄を自称する者よ。我が国において、真の強者とは『味覚』と『作法マナー』を兼ね備えた者のみ。貴様らが本当に高貴な魂の持ち主か、我らが見極めてやる!」


彼らは広場に白布のテーブルを広げ、抜き身の剣を構えながら、私に一杯のスープとフォークを差し出した。周囲に緊張が走る。


「……マナー? 私にそんな下俗な試験を挑むなんて、身の程を知りなさい」


私は溜息をつき、椅子に腰を下ろした。その瞬間、私の背筋は一分の隙もなく伸び、指先から視線に至るまで、アステリア王宮が千年の歴史をかけて磨き上げた「絶対王政のマナー」が発動した。


ナプキンの広げ方一つに、一国の歴史を感じさせる重厚さ。

 スープを口に運ぶ動作は、まるで流れる大河のように静謐で、音一つ立てない。

 そして、フォークを置く際の間隔は、数学的に完璧な黄金比を描いていた。


「……え?」


三ツ星の盾の騎士たちが、一斉に顔を青ざめさせた。


「……な、なんだこの所作は。我らが教本としてきた『騎士の食卓』よりも、遥かに格上……。指先の角度、スープを飲み込む喉の動き……すべてが、神話の領域だ……」


「……あ、足元にも及ばない。我々がこれまで誇ってきたマナーは、ただの『泥遊び』に過ぎなかったというのか……」


私は最後の一口を飲み干すと、汚れ一つないナプキンで唇をそっと抑え、冷たく言い放った。


「……あの、騎士の方々? 私の前でその程度の『おままごと』を見せるのは、私の瞳に対する暴力だわ。その汚らわしい食器を、迅速に私の視界からパッキング(片付け)してくださるかしら?」


「「「も、申し訳ございませんでしたぁぁぁ!!」」」


三ツ星の盾の騎士たちは、自分たちの「マナーの低さ」に絶望し、全員がその場に泣き崩れて逃げ去っていった。


「……ふん。マナーなんて、相手を精神的に屈服させるための武器に過ぎないわ」


私は、騎士たちが置いていった最高級のワインボトルをベレッタに渡した。


「セレスティーヌ様……今の指先の動き、迅速に私の網膜に永久保存パッキングいたしましたわ。あまりの神々しさに、私の心臓がオーバーヒート(爆発)しそうです」


「セレスティーヌ様! マナーの力で敵を無力化するとは、まさに静かなる正義! 私は、私はまた一つ、真の騎士道を学びましたぞ!!」


アルフレッドがまた感動のあまり、近くの街灯を頭突きでなぎ倒している。


「……まあいいわ。寄進された食材をすべて馬車に積み込みなさい。次はついに『フォンデュ城』よ。この『聖女と英雄』の肩書きがあれば、門番もひれ伏して道を開けるでしょうね」


私は、アステリアの王女として培った「呪いのマナー」を武器に、さらなる美食の深部へと、優雅に、そして傲慢に足を踏み出した。

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