献上される絶望と不滅の消化器官
嵐が去り、澄み渡る青空の下を馬車は進む。
しかし、街道の様子が昨日までとは明らかに違っていた。次に立ち寄ったそこそこの規模の宿場町「ガストロ・ノーム」に入るなり、町の入り口でコック帽を被った集団が、まるで処刑人を待つ罪人のような悲壮な面持ちで整列していたのだ。
「……何よ、あの集団。新しいタイプの宗教勧誘?」
私が窓から顔を出すと、料理人たちの先頭にいた男が、震える手で豪華な漆塗りの箱を差し出してきた。
「……お、お噂は伺っております! 『泥のイモを人生の縮図と断じ、料理人の魂を物理的に粉砕する毒舌の麗人』、そして『黄金のオーラを放つ雑巾馬』、さらに『迅速に財布をパッキングする死神の従者』……! お願いです、これをお納めください! どうか、うちの店には立ち寄らないでください!!」
差し出された箱の中には、この地方でも滅多にお目にかかれない、宝石のように輝く砂糖菓子の詰め合わせ。いわゆる「酷評を免れるための賄賂(袖の下)」だった。
「あら。私の評判、もうそんなところまで届いているの? 意外と情報のデリバリーが早いのね」
「セレスティーヌ様の至言は、迅速に大陸全土へ拡散されるべき福音ですから!」
ベレッタが誇らしげに胸を張る。
どうやら、あの泥のイモ料理人を精神崩壊させたエピソードが、尾ひれをつけて街道を駆け抜けているらしい。おかげで、立ち寄る先々で料理人たちが「自分の料理を貶されるくらいなら、家宝を差し出す」という極端な防衛策に出始めていた。
「ふふ、いいわ。これなら無理に毒舌を振るわなくても、美味しいものが向こうから歩いてくるじゃない」
私は、並み居る料理人たちを鼻で笑いながら、献上された高級菓子を優雅に口に運んだ。
しかし、賄賂だけでは私の美食欲は満たされない。
旅の疲れからか、ふと私が「……なんだか、お腹が空いたわ。少し質の良いジビエでも食べたい気分ね」と呟いた、その瞬間だった。
「承知いたしました。迅速に、最高の食材をデリバリー(略奪)して参ります!」
ベレッタが馬車から飛び降り、森の中へ……ではなく、近くの村へと消えていった。
数分後。彼女が戻ってきた時、その手には「近隣の地主が大切に育てていた最高級の鴨」と「村の宝物庫から持ち出した極上の白トリュフ」が握られていた。
「……ねえ、ベレッタ。それ、どこから持ってきたの?」
「近隣の村で、最も価格設定が高かったものですわ。持ち主には『セレスティーヌ様の栄養になる栄誉』を迅速にデリバリーしておきましたので、実質タダ(無料)ですわ!」
「……そう。まあ、私の血肉になれるなら、彼らも本望でしょうね」
私は、ベレッタが鮮やかな手つきで調理した「略奪の鴨肉・トリュフ添え」を堪能した。人の金どころか、他人の宝物をそのまま食べる。これ以上のスパイスは、この世に存在しない。
そんな中、一人だけこの「美食の循環」から取り残されている男がいた。
「セレスティーヌ様! ベレッタ殿! 人から奪った物や、脅し取った菓子で腹を満たすなど、真の騎士道とは言えません! 自然の恵みこそが、我々に真の力を与えてくれるのです!」
アルフレッドは、誇らしげに巨大な鍋を焚き火にかけていた。中には、彼が森で適当に摘んできた、色鮮やかな——あまりにも鮮やかすぎて、見るからに「食べたら死ぬ」と主張しているキノコたちが踊っていた。
「……アルフレッド、それ、毒キノコの図鑑の表紙を飾るようなラインナップじゃない。ドクツルタケに、ベニテングタケ……それから、その紫色のぶよぶよしたのは何?」
「これは『正義の舞茸(自称)』です! 食べれば魂が浄化されますぞ! さあ、セレスティーヌ様も一口!」
「断るわ。私の魂はフォアグラとワインで汚れていたいの」
私は一瞥して拒否し、最高級の鴨肉をワインで流し込んだ。
アルフレッドは「なんと勿体ない……! 自然の声を無視するなど!」と嘆き、その謎の闇鍋を一人で平らげ始めた。
「……ズズッ。おお、これは……! 舌が痺れるような刺激! まさに大地のエネルギーが直接脳を揺さぶっているようです!」
数分後。アルフレッドの顔色は、鍋の中身と同じ紫色へと変色し、目からは謎の光子が溢れ出し、周囲には不穏な幻覚の蝶が舞い始めた。明らかに毒が全身を駆け巡り、内臓を破壊しにかかっている。
「……アルフレッド、あんた、もう手遅れじゃない? ベレッタ、迅速に棺桶をデリバリーしてあげなさい」
「いえ、セレスティーヌ様。見てください」
ベレッタが指差す先。アルフレッドは、全身から紫色の煙を上げながらも、「はっはっは! 活力が! 活力がみなぎってきましたぞ!!」と叫びながら、素手で岩を砕いてトレーニングを始めたのだ。
「……嘘でしょ。あの男、毒キノコの致死量を『気合い(正義)』だけで消化したっていうの?」
「強靭すぎる消化器官……。彼を解体して、胃袋の構造を調査官に渡せば高く売れそうですわね」
毒をエネルギーに変換し、さらに爽やかさを増したアルフレッドは、もはや騎士ではなく「新種のクリーチャー」だ。そしてなにより、略奪品に舌鼓を打つ私。
私たちの馬車は、もはや「一行」というよりは「歩く災害」として、その名を大陸中に轟かせていた。




