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蛇足:僕の主様と主様の頼み事 「さて、花でも愛でにいきますか~♪」

ジェラルドの陰者視点です。

 主様は人が悪い。なんだって僕にこんな仕事を押し付けるのか……それでも主様の「頼み」を僕が断る術はない。主様は貴族だ。国の最北端にだだっ広いだけの領地を持つ伯爵様だ。辺境伯爵家というんだっけ?貴族的には中の下ランクの家ってことらしい。そんなのは僕にはあまり関係ないけどね。

 主様は貴族だけど、「貴族」と聞いて最初に思い浮かべるような、丸々と太った体に宝石やなんかをごてごてと飾り立てた服をまとう強欲なハゲではない。そして、2番目に思い浮かべるような、神経質そうでいつもイライラとしているモヤシみたいな体の頭でっかちでもない。もちろん、薄汚れた笑いを張りつけて立場が上の人には媚び諂い、下の人には威張り散らすような根性悪でもない。かといって、情に厚く闊達で筋骨隆々のおちゃめな脳筋という訳でも無ければ、才能に溢れ且つ慈悲深く人をひきつけて止まない男前という訳でもない。鍛えた体と鋭い灰色の目をもつ、ただの中年だ。奥さんも可愛らしい人だけど絶世の美女という程では無い。ちょっと肉付きが物足りないのが--これをはっきりと口にすると僕の首は一瞬で胴体から離れてしまうにちがいないが、でもあえて真実を伝えよう--僕からすればたまに傷だ。人から羨ましがられる様な事もないけれど蔑まれる事もない……そういう意味で主様はごくごく普通の人だと僕は思う。まぁ、堅実な領地運営をしながら北の国境を守る立派な人とも言えるんだけどね。

 ちょっと立派な普通の中年である主様がどうして北の国境なんていう国で一番物騒な所を守っているかというと、そういう家に生まれて伯爵位を継いだから。では、どうやって国境を守っているかというと、僕らを使ってということになる。僕は主様の陰者の1人。名前は無いけれど、リオンと呼ばれることが多いかな。僕はある陰者の一派に属していて、その一派は大昔から主様の家に遣え、国境を守る手伝いをしている。主に、他国での諜報活動と国境線の見張り、国内での情報収集なんかをするんだ。そのほかにも主様の言う事なら大概やる。主様の暗殺とかでないかぎり本当に何でもやる。表でも裏でも主様を守るために働くのが僕らの使命であり喜びでもあるんだからね。



 でも、今回任された仕事はなんか嫌な感じ。なんというか、一日中知らない貴族のおっさんを監視しなくちゃいけないなんて、健全な年頃の男子にはある種の拷問だと思わない?でも主様から「頼むよ」と言われているし、適当にサボる訳にはいかない。このおっさんは主様の友達らしいんだけど、見張り始めてからずーっと様子がおかしい。焦っているくせにそれを誰にも悟らせまいと無駄に無表情を決め込んでいたり、そうかと思うとふとした瞬間殺気にも似た怒気を抑え切れずに放ってみたり、いい年こいて落ち着きが無い。たくさんの使用人が彼の為に働いているのに、全てを自分の目で確かめようとするかのように、あっちこっち動き回っている。休み方を忘れたみたいで、誰が何を言っても休もうとしない。彼の使用人達も困り果てている。おっさんを見ていて、こういうのを「ヒトリズモウ」っていうんだなぁと、子どもの頃に習った異国の言葉を思い出した。嫁さんの亡くなった事故について調べているというのは分かっているのだけれど、その真剣さとのめりこみ方がなんだか怖い。まぁ、妻が殺されたかもしれないとなって、怒らないような男よりは数倍マシなんだろうけど。傍で見ていると知的そうな顔つきに似合わぬ血走った目が痛々しいったらないんだ。

 普段は陰としての能力を表の人間に見られるかもしれない所で使う事は極力避けるのけれど、今回は主様から、人や自分に危害を加えそうになったら止めてくれと言われている。そんな風に言われたら、サボる訳にはいかないでしょう?だって僕がお茶してる間になんだかポックリ逝ってそうな危うさを感じるんだもん。だから僕は真面目にこのおっさんの側を離れずにいる。

 おっさんは様子こそおかしいけど、一応これまでは誰にも危害などは加えてない。それなのに、なぜかおっさんの命を狙って周りをうろちょろしている輩が多いのだ。暗殺者を屋敷に入る手前で追い払ったり、おっさんの馬車や馬に仕掛けられた罠を仕掛けられたとたんに解除したり、意外とやる事が多くて暇では無い。僕がいなければ、きっとケガくらいはしてるだろう。国の要職についているらしいけど、このおっさんそんなに重要人物か?失脚させようとかじゃなくて殺そうとしてくる辺り、奥さんの事故の犯人が雇ったのかもしれないね。王都って僕らと似たような裏稼業を生業にしている者が多いんだよね。今は僕――つまり陰者――の存在には気付かれてないけど、それも時間の問題かもね。


 ついに、おっさんが奥さんを殺した犯人の家に乗り込んだ。十分に揃った証拠――実は僕も陰ながら証拠集めを手伝ったりもした――を突き付けても犯人は自分の罪を認めなかった。往生際が悪い奴って醜いよね。変に開き直る奴もむかつくけど。苛立ちを収めるために注意をそらした一瞬の間に、おっさんがぶちキレて犯人を殺そうとしたから、僕は慌てておっさんを止める事にした。まず、怒り狂うおっさんの意識を落として、次に舌にナイフが刺さって泣き喚いている犯人もうるさいから意識を奪った。犯人が死なない程度に止血をし、チームのメンバーにも手伝って貰っておっさんを屋敷から運びだす。ごてごてと無駄に飾りたてた屋敷は、けれども真面目な警備など一人も居らず割と簡単におっさんを連れ出す事ができた。

 主様の指示で王都の屋敷に運び込むと、あきれ顔の主様がすぐに現れたのでその場でさっきまでのやり取りについて報告を済ます。主様は厳しい顔つきでそれを聞くと、控えていた侍従に何か命令をした。きっと正攻法で犯人が罰せられるように手配してあったに違いない。主様は意外と卒が無いところがある。

「リオン、ご苦労様。下がっていいぞ」

「あ、は~い。了解で~す。」

これで僕の仕事は終わり。やっとおっさんから開放された。今日はどこに遊びにいこうかな?とか考えて顔がにやける。花街もずいぶん行ってない。ミルネバ姉さんのやわらか……(自主規制)……でも堪能しに行こう。あまりに浮かれてちょっと先輩から怒られた。ダンテスさんってば怒ると本気の投げナイフを飛ばしてくるから参った参った。


 花と酒を堪能して上機嫌の僕の目の前を。礼のおっさんがボロボロになって通り過ぎたのはそれから数時間後。なんとなく気になって後をつけちゃった。それにしても主様はやりすぎだと思う。何もあんなに跡が残るような殴り方をしなくても良いだろうに。しかも顔だから目立つ目立つ。道行く人がぎょっとして2度見している。まぁ、でもそれが主様なりの友情なのだろうし、僕には何も言う権利は無んだけど。

 ほどなくして、おっさんが入って行ったのは「逆さ月の花陰」っていう酒場。言わずと知れた同業者の店だ。こんなとこに伝手があったのかと驚くが、あのおっさんも貴族だったんだなと納得した。同業者の店だけあってちょっとでも近づくと、気配を探られそうで僕はその場を離れた。別に敵対している一派という事では無いんだけれど、陰者のテリトリーを探るのはご法度だ。さて、どうしようかと近くの酒場にはいったけれど、案外早くおっさんは店を出てきた。しかも赤毛の美女を連れて。年はそれなりにとっているようだが、あのミルネバ姉さんと良い勝負の体つきはそそられる。奥さんの事件を躍起になって追っていたのはこういう理由か?僕は苛立ちと多少の軽蔑を込めておっさんを睨みつけた。もちろんおっさんも美女も僕の視線に気づく事など無いのだけれど。


 数日後、あの美女の住まいを探すように主様から命じられた。なんでもおっさんが緊急で彼女を探しているらしい。あの晩の雰囲気を思い出して僕は首を傾げた。あの美女はおっさんの愛人で、きっと奥さんが生きているうちから、家なんか与えて囲ってたんじゃないかと思っていたのに、予想が外れた。やっと見つけ出した美女の家は庶民街に有って、広くもない使用人もいない屋敷で貴族とは思えないほど質素な暮らしをしている事をしって、人は見かけによらないんだなと思った。僕の見る目もまだまだだ。それにしても、2人を見ていると大人と言うのは難儀なもんだと思う。互いの好意が零れ落ちているのは傍目にも明らかなのに……素直じゃないというのか、素直じゃいれないというか。僕からすれば余計な事を考えすぎだと思う。ま、でもあのおっさんの一途さをもってすれば何とかなるだろう。好きな人から求婚され続けて拒みきれる女性なんてあんまりいないだろうし。しかもお腹に2人の子どもがいるらしいし。赤毛の美女が折れるのも時間の問題だ。

 さて、主様に報告に行こう。おっさんは赤毛の美女と再婚するらしいですって言えば、人の良い主様はきっと嬉しそうに笑うに違いない。そうすれば、僕もさらに嬉しくなる。

このお話で、一旦完結にします。お付き合いいただきましてありがとうございました。


ただ今、ルーカスとマゼンダの再婚からシンディーレイラの初夜会までの物語を書いてる途中なのですが、なんだか長くなりそうなので別の物語として投稿すると思います。


今後ともよろしくお願い致します。

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