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7/10

赤い家

 家が赤く見えるのは、


 夕方だけだった。


 西日が差すからではない。


 壁が赤いわけでもない。


 屋根は黒。


 外壁は灰色。


 築五十年ほどの、


 どこにでもある二階建てだった。


 ただ、


 午後五時を過ぎると、


 窓の内側が赤くなる。


 照明ではない。


 カーテンでもない。


 ガラスの向こうに、


 赤い何かが満ちている。


 近所の人間は、


 昔からその家を、


 赤い家と呼んでいた。


     *


 最初の事故は、


 七年前。


 空き家になった家へ、


 不動産会社の社員が入った。


 二階の和室を確認していた時、


 突然、


 階段の位置が分からなくなった。


 一階へ下りようとして、


 廊下を三十分歩き続けた。


 廊下の長さは、


 本来六メートルほどしかない。


 本人は、


「ずっと真っすぐだった」


 と証言した。


 二度目。


 四年前。


 屋根の修繕に入った作業員が、


 屋根裏から聞こえる声を追った。


 声は、


 自分の母親だったという。


 母親は、


 その時すでに亡くなっていた。


 作業員は、


 屋根裏から三時間後に発見された。


 脱水。


 軽度の低体温。


 手には、


 存在しないはずの赤い糸を握っていた。


 三度目。


 二年前。


 侵入した高校生二人のうち、


 一人が戻らなかった。


 もう一人は、


 玄関から転がるように出てきた。


「中にもう一軒ある」


 そう繰り返した。


 家の中に、


 もう一軒。


 何を意味しているのかは、


 分からなかった。


 行方不明になった高校生は、


 今も見つかっていない。


     *


 それ以降、


 家は立入禁止になった。


 市が柵を設置。


 警告板。


 監視カメラ。


 異常事案担当による定期観測。


 当初、


 現象は敷地内だけに留まっていた。


 問題は、


 一年前からだった。


 現象範囲が、


 少しずつ広がり始めた。


 門。


 庭。


 歩道。


 そして、


 今年の春。


 公道へ、


 二十三センチ。


     *


「二十三センチって」


 三宅が資料を見る。


「そんな細かく分かるんですか」


 市職員が答えた。


「毎月測ってますから」


 黒田と三宅は、


 赤い家の前にいた。


 午前十時。


 まだ家は赤くない。


 見た目は、


 ただの空き家だった。


 雑草。


 錆びた雨樋。


 閉じた雨戸。


 庭の隅に、


 古い自転車。


 三宅が柵を見る。


 道路側へ、


 白い線が何本も引かれている。


 日付。


 数値。


 一番古い線は、


 門の内側。


 次。


 門の外。


 その次。


 歩道。


 最新の線は、


 車道の端へ少しかかっていた。


「これ全部?」


「観測時の境界です」


「広がってる」


「はい」


 黒田が聞く。


「何が起きるんです?」


 研究員が答える。


「境界を越えると、空間認識に異常が出ます」


「どの程度?」


「個人差があります」


「人によって違う?」


「軽い場合は方向感覚の喪失。重い場合は時間感覚の消失、幻聴、幻視。最悪の場合は帰還できません」


 三宅が家を見る。


「高校生みたいに?」


「可能性はあります」


「中にまだいるんですか」


「分かりません」


 研究員は、


 淡々と言った。


「生存反応は確認されていません」


     *


 黒田たちが来たのは、


 撤去工事のためではなかった。


 近隣住民への説明会。


 交通規制。


 そして、


 所有者との面会。


 家の所有者は、


 野上信一。


 六十八歳。


 市外在住。


 赤い家は、


 野上の実家だった。


 野上は、


 撤去に反対していた。


     *


「壊す必要はない」


 市役所の会議室。


 野上は、


 同じ言葉を三度言った。


「柵を広げればいい」


 市の担当者が答える。


「現象範囲が公道へ出ています」


「じゃあ道路を少し狭めればいい」


「今後も広がる可能性があります」


「可能性だろ」


「現在も拡大しています」


「止まるかもしれない」


「止まる根拠は確認できていません」


 野上は机を叩いた。


「だからって壊すのか」


 誰もすぐには答えなかった。


 野上は続ける。


「あの家は親父が建てた」


「はい」


「母親もあそこで死んだ」


「はい」


「俺も二十まで住んでた」


 担当者が資料を見る。


「お気持ちは分かります」


「分かるわけないだろ」


「そうですね」


 担当者は言い直した。


「ただ、現状のまま維持することはできません」


「なぜ」


「人が消えているからです」


 野上の顔が止まった。


「それは」


「二年前の件です」


「あれは勝手に入ったんだ」


「そうです」


「立入禁止にしただろ」


「しました」


「なら終わりだ」


「終わっていません」


 担当者は、


 新しい境界線の図を出した。


「これが先月」


 次。


「これが今月」


 赤い範囲が、


 少しだけ大きくなっている。


 野上は見なかった。


「家は壊さない」


 それだけ言った。


     *


 その日の夕方。


 黒田と三宅は、


 規制線の確認で現場へ戻った。


 午後五時十二分。


 三宅が家を見る。


「……赤い」


 窓の内側が、


 薄く光っていた。


 赤。


 照明とは違う。


 深さがある。


 ガラスの向こうに、


 夕焼けが閉じ込められているようにも見える。


 三宅が少し近づく。


「これ、毎日?」


 警備員が頷いた。


「だいたい五時過ぎから」


「何時まで?」


「日によります」


 黒田が言う。


「近づくなよ」


「分かってます」


 赤い窓。


 誰もいない。


 それでも、


 三宅には、


 二階の奥に、


 何かが立っているように見えた。


「先輩」


「何」


「あそこ」


「どこ」


 二階。


 右端の窓。


 三宅が指差す。


「人いません?」


 黒田が見る。


 赤いだけだった。


「いない」


「今、いた気がしたんですけど」


「近づくな」


「分かってますって」


 三宅は一歩下がった。


     *


 調査は、


 半年以上続いていた。


 建物を残したまま、


 できる限りのことは試された。


 外部からのレーザー測距。


 熱画像。


 音響。


 地中レーダー。


 電磁的変化。


 土壌。


 地下水。


 基礎。


 建物の振動。


 結果。


 異常は、


 家だけに固定されていなかった。


 床下。


 基礎。


 その下。


 深さ三・六メートル付近まで。


 赤い家の敷地を中心に、


 不定形の領域が広がっていた。


 研究員が説明する。


「建物を壊すだけでは足りません」


 市担当者。


「どこまで取れば止まる?」


「現時点では、深度四・五メートルまで掘削する必要があると考えています」


「土は?」


「搬出後、隔離環境で検査」


「再利用できる?」


「異常が残らなければ」


「残ったら?」


「処分方法を別途検討します」


 土木担当が図面を見る。


「隣地に影響出ます」


「山留め入れます」


「水道管」


「迂回」


「電柱」


「一時移設」


 話は、


 家の怪異についてではなく、


 工事工程について進んだ。


     *


 研究者の一部は、


 撤去に反対した。


「国内でも例が少ない」


「これほど長期に安定して観測できる空間異常は貴重です」


「最低でも一年、追加観測を」


 市の担当者が聞く。


「一年後、境界はどこまで広がります?」


「分かりません」


「道路を越える可能性は?」


「あります」


「住宅側へ?」


「あります」


「人が入った場合の安全確保は?」


「保証できません」


「では一年は待てません」


「ただ、破壊すれば二度とデータは取れない」


「人が消える現象も残ります」


 研究者は黙った。


「保存できる方法があるなら検討します」


 担当者は言った。


「でも、安全を確保できないまま保存はしません」


     *


 数日後。


 テレビで、


 赤い家が取り上げられた。


 三宅は署の休憩室で見ていた。


『市は来月にも、危険区域の撤去作業へ入る方針です』


 画面に、


 赤い窓。


 規制線。


 白い防護服の研究員。


 そして、


 スタジオ。


 三宅が言った。


「あ」


 黒田が缶コーヒーを開ける。


「何」


「久世さん」


「また出てるの」


「またって」


 画面には、


 久世宗一。


『危険性があることは理解しています』


 久世は、


 いつもと同じ落ち着いた声だった。


『また、周辺住民の安全確保が必要だという点にも異論はありません』


 司会者。


『では撤去は妥当ですか』


『私は、少し急いでいると感じます』


 久世は、


 赤い家の映像を見る。


『我々は、分からないものを前にすると、最終的に「除去」という結論へ向かいがちです』


『しかし、理解できていないものを失わせることもまた、取り返しのつかない判断です』


 別の出演者が聞く。


『すでに一人が行方不明です』


『はい』


『公道にも影響が出ている』


『だからこそ、安全と保存を両立する方法を、もう少し時間をかけて探すべきではないでしょうか』


 三宅がテレビを見る。


「今回は、ちょっと分かります」


 黒田が聞く。


「何が」


「壊したら終わりじゃないですか」


「そうだね」


「貴重なんですよね」


「そうみたいだね」


「じゃあ先輩も反対?」


「何に」


「撤去」


「道路まで来てるんだろ」


「はい」


「じゃあ壊すんじゃない」


「軽いですね」


「俺が決めることじゃないし」


 テレビでは、


 久世が続けている。


『未知への敬意というのは、何も拝むことではありません』


『分からないからこそ、簡単に失わせない。その慎重さも必要だと思います』


 三宅は、


 少し考える。


「やっぱり、そんな変なこと言ってないですよね」


 黒田が時計を見る。


「休憩終わるよ」


「それ前も言いましたよね」


「時間は毎回来るから」


     *


 所有者との協議は、


 まとまらなかった。


 市は、


 複数回、


 工事計画を提示した。


 記録保存。


 建材の一部保管。


 写真。


 図面。


 家財の搬出。


 希望する遺品の事前確認。


 野上は、


 すべて拒否した。


「入るな」


 それだけだった。


 しかし、


 現象範囲は止まらなかった。


 五月。


 車道へ二十三センチ。


 六月。


 三十一センチ。


 七月。


 四十六センチ。


 そして八月。


 道路を歩いていた女性が、


 境界へ片足を踏み入れた。


 ほんの一歩。


 女性は、


 その場で止まった。


 五分間、


 動かなかった。


 救急隊が規制区域外から呼びかける。


 反応なし。


 やがて、


 自力で後ろへ下がった。


 戻った直後、


 女性は泣き出した。


「子供がいた」


 そう言った。


 女性に、


 子供はいなかった。


     *


 その事故の翌週。


 撤去が決まった。


 関係機関の手続き。


 所有者への通知。


 異議申立て。


 審査。


 危険性。


 代替手段。


 保存可能性。


 周辺への影響。


 それらが確認された。


 最終的に、


 必要な法的手続きが取られ、


 市は強制的な除去へ進むことになった。


 野上は、


 最後まで同意しなかった。


     *


 工事当日。


 午前六時。


 道路封鎖。


 周辺住民は一時避難。


 消防。


 救急。


 警察。


 市職員。


 土木業者。


 研究員。


 報道。


 見物人。


 それから、


 撤去反対を訴える人間が十数人。


 黒田と三宅は、


 規制線の外にいた。


 三宅が看板を持つ。


《この先立入禁止》


「私たち、今日は本当に警備だけですね」


「いいだろ」


「中、見たくないですか」


「見たくない」


「即答」


「消えたくない」


「私もです」


 少し離れたところに、


 野上が立っていた。


 市職員が、


 最後の確認をする。


「家財で搬出を希望されるものはありませんか」


「触るな」


「写真記録は残します」


「いらん」


「建材の一部は安全確認後、希望があれば」


「いらん」


 野上は、


 家だけを見ていた。


     *


 午前七時。


 作業開始。


 最初に、


 敷地周囲の柵を撤去。


 次に、


 遠隔操作の小型重機が入る。


 無人。


 操縦席には誰もいない。


 カメラ。


 距離計。


 温度。


 音響。


 位置情報。


 三宅が少し遠くからモニターを見る。


 重機が、


 門を越える。


 異常なし。


 庭。


 異常なし。


 玄関前。


 映像が、


 一瞬だけ赤くなる。


 研究員が言う。


「映像乱れ」


「停止します?」


「位置は?」


「境界内、〇・八メートル」


 重機が止まる。


 映像が戻る。


 研究員。


「続行可能」


 重機のアームが、


 玄関庇へ触れる。


 音。


 木材が割れる。


 その瞬間。


 家の窓が、


 一斉に赤くなった。


 朝だった。


 夕方ではない。


 それでも、


 全部の窓が赤い。


 三宅が息を呑む。


「……嫌がってるみたいですね」


 黒田が見る。


「そう見えるだけかもな」


 家の中から、


 音がした。


 声ではない。


 大勢の人間が、


 同時に息を吸ったような音。


 長く。


 深い。


 重機のカメラが、


 赤に染まる。


 研究員が言う。


「操作入力確認」


「反応なし」


「機体位置」


「動いてません」


 映像だけが、


 揺れている。


 数秒。


 戻る。


 作業責任者が聞く。


「続けます?」


 研究員が数値を見る。


「境界拡大なし」


 土木担当。


「機体異常なし」


 市担当者が責任者を見る。


「安全手順通りで続行してください」


「了解」


 重機が再び動く。


     *


 壁が壊れる。


 屋根が落ちる。


 二階が崩れる。


 赤い光が、


 瓦礫の隙間から漏れる。


 誰も中へ入らない。


 すべて遠隔。


 建材は、


 少しずつ敷地外へ運び出される。


 一つずつ計測。


 異常反応あり。


 なし。


 あり。


 なし。


 反応の強いものは、


 専用コンテナへ。


 弱いものは、


 別置き。


 正午。


 家は、


 ほぼなくなった。


 残ったのは、


 基礎。


 床下。


 赤い光。


 それは、


 まだ消えていなかった。


 三宅が言う。


「家じゃなかったんですね」


「そうみたいだな」


     *


 午後。


 基礎撤去。


 コンクリートを砕く。


 地面が露出する。


 土は、


 普通の色だった。


 赤くない。


 臭いもない。


 研究員が地表を測る。


「反応強度、変化なし」


 土木担当。


「掘ります」


 一メートル。


 反応あり。


 二メートル。


 あり。


 三メートル。


 あり。


 三・五。


 低下。


 四。


 さらに低下。


 重機が、


 土を掘り続ける。


 突然、


 カメラ映像に、


 部屋が映った。


 誰もいないはずの、


 赤い和室。


 畳。


 襖。


 古いテレビ。


 そして、


 部屋の中央に、


 一人の少年が立っている。


 三宅がモニターを見る。


「……あれ」


 誰も喋らない。


 少年は、


 高校生くらい。


 顔は、


 よく見えない。


 研究員が録画を確認する。


「映像のみ」


 作業責任者。


「人?」


「熱反応なし」


「停止?」


 市担当者が聞く。


「機体周辺に実体あります?」


「確認できません」


「生体反応?」


「なし」


 少年が、


 モニターの中で、


 こちらを見る。


 口が動く。


 音はない。


 三宅が小さく言った。


「行方不明の子じゃ」


 研究員が写真と照合する。


 数秒。


「似ています」


 野上が、


 規制線の外から叫んだ。


「止めろ!」


 全員が見る。


「まだいるんだろ!」


 野上が規制線へ近づく。


「人がいるじゃないか!」


 警官が止める。


「下がってください」


「助けろ!」


 三宅もモニターを見る。


 少年は、


 まだ立っている。


 黒田が研究員に聞く。


「助けられるんですか」


「実在しているか分かりません」


「入ったら?」


「危険です」


「外から出す方法」


「確認できていません」


 モニターの少年が、


 手を上げる。


 赤い部屋。


 口が動く。


 そして、


 映像が消えた。


 ただの掘削孔へ戻る。


 研究員が言う。


「反応強度、下がってます」


 土木担当。


「現在深度四・二」


 市担当者が聞く。


「追加探索は?」


「映像記録は保存しました」


「人員を入れる必要は?」


 研究員は少し黙った。


「現時点では勧めません」


 野上の声が、


 遠くで響く。


「見殺しにするのか!」


 市担当者は、


 しばらく掘削孔を見た。


「続行してください」


     *


 四・五メートル。


 反応が、


 ほとんど消えた。


 四・八。


 ゼロ。


 別の位置。


 ゼロ。


 周辺。


 ゼロ。


 道路側。


 ゼロ。


 研究員が、


 何度も測る。


「現象反応、確認できません」


 作業責任者。


「終わり?」


「少なくとも現在は」


 土木担当。


「埋め戻します」


 誰も拍手しない。


 誰も、


 勝ったとは言わない。


 ただ、


 工程表に、


 次の作業が書き込まれた。


     *


 野上は、


 最後まで現場にいた。


 家はなかった。


 地面には、


 大きな穴。


 その中へ、


 新しい土が入れられていく。


 市職員が近くへ行く。


「記録写真はお渡しできます」


 野上は答えない。


「安全確認済みの家財も、後日」


「家じゃない」


「はい?」


「もう、家じゃない」


 野上は、


 穴を見る。


「俺が知ってる家は、あんな穴じゃない」


 職員は何も言わなかった。


 しばらくして、


 野上が聞いた。


「あの子は」


「行方不明の方ですか」


「映ってた」


「映像は記録されています」


「いたんだろ」


「分かりません」


 野上は、


 職員を見る。


「分からないのに埋めるのか」


「はい」


 職員は言った。


「分からないまま、人が消える場所を残すことはできません」


 野上は、


 それ以上何も言わなかった。


     *


 撤去後。


 一か月。


 異常なし。


 三か月。


 異常なし。


 半年。


 異常なし。


 境界線は、


 消えた。


 歩道も、


 車道も、


 普通に使われた。


 行方不明になった高校生は、


 戻らなかった。


 映像の少年が、


 本人だったのか。


 ただの記録だったのか。


 幻だったのか。


 最後まで、


 分からなかった。


     *


 二年後。


 跡地には、


 ドラッグストアが建った。


 明るい駐車場。


 大きな看板。


 自動ドア。


《本日ポイント五倍》


 三宅は、


 パトカーの助手席からそれを見た。


「あ」


 黒田が運転している。


「何」


「ここ」


「どこ」


「赤い家あったところ」


 黒田が一瞬見る。


「ああ」


「ドラッグストアになったんですね」


「便利じゃん」


「それだけですか」


「何が」


「いや……」


 三宅は店を見る。


 買い物客が出てくる。


 高齢の女性。


 親子。


 仕事帰りの男。


 袋の中に、


 洗剤。


 ティッシュ。


 飲料。


 普通の商品。


 窓は、


 白い照明で明るい。


 赤くない。


 三宅が言う。


「本当に何もないんですかね」


「今のところ」


「夜になったら?」


「店、十一時までだろ」


「そういう意味じゃなくて」


「異常出たら通報来るよ」


「……そうですね」


 信号が青になる。


 黒田が車を出す。


 ドラッグストアが、


 後ろへ遠ざかる。


 店の窓には、


 夕方の空が映っていた。


 赤かった。


 ただの、


 夕焼けだった。

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