山の決まり
市街地を抜けてから、景色が変わるまでに二十分ほどかかった。
コンビニが減った。
住宅が途切れた。
道路の左右に田畑が増え、その向こうに山が近づいてくる。
三宅は助手席から外を見た。
「ここも市内なんですね」
「住所はな」
黒田は前を見たまま答えた。
信号が一つ。
その先に、市の名前が入った青い道路標識。
さらに進むと、古い家が増えた。
瓦屋根。
石垣。
小さな神社。
閉店した商店。
その間を、宅配便の軽トラックが走っていく。
三宅が言った。
「思ったより普通ですね」
「何が」
「いや、もっと山奥かと」
「十分山だろ」
「そうですけど」
道路脇に市営バスの停留所があった。
一日四本。
時刻表だけが新しかった。
二人が向かっているのは、市内北西部の久守地区。
二〇年前の合併以前は、別の町だった。
通報の内容は、
中学生の安否確認。
怪異ではなかった。
*
倉橋紗季。
十四歳。
市立北上中学校二年生。
三日連続で欠席。
学校には母親から、
「親戚の家に行っている」
と連絡が入っていた。
しかし、担任が家庭訪問したところ、本人の通学鞄と靴は自宅にあった。
スマートフォンも置かれたまま。
親戚宅について尋ねても、母親の説明が曖昧だった。
学校から市の担当部署へ連絡。
そこから警察へ。
黒田と三宅が倉橋家に着いたのは、午後二時過ぎだった。
古い二階建て。
庭に軽自動車が一台。
玄関脇には、まだ新しい宅配便の箱が置いてある。
母親が出てきた。
四十代前半。
顔色が悪かった。
「倉橋紗季さんのお母さんですか」
「はい」
「警察です。学校からお話があって」
母親の表情が固くなる。
「娘さん、今どちらにいます?」
「親戚のところです」
「どちらの?」
母親は答えない。
黒田は待った。
三宅も何も言わなかった。
少しして、
「今日、帰ってきます」
母親が言った。
「本人と連絡は取れますか」
三宅が聞く。
「……取れません」
「携帯電話はここにありますよね」
母親は俯いた。
玄関の中。
靴箱の上に、スマートフォンが置いてある。
「娘さんが自分で出掛けたんですか」
「……」
「どなたかが連れて行った?」
母親の肩が揺れた。
「今夜には戻るんです」
黒田が聞く。
「どこから?」
答えはなかった。
黒田はもう一度聞いた。
「娘さんは今、どこにいます?」
母親の目に涙が浮かんだ。
「私も嫌だったんです」
三宅が顔を上げる。
「何がです?」
母親は両手で顔を覆った。
「でも、そうしないと」
「何を?」
「山が」
言葉が止まる。
「山が、落ちるって」
*
久守地区のさらに奥。
細い道を十分ほど登った。
舗装はされている。
ただ、センターラインはない。
途中に古い鳥居があった。
その先に集落がある。
二十軒ほど。
空き家も混じっている。
軽トラック。
小型の農機具。
新しいエアコンの室外機。
衛星アンテナ。
生活は普通に続いている。
三宅がパトカーを降りた。
「ここですか」
「母親の話だと」
黒田が周囲を見る。
数人の住民が、こちらを見ていた。
誰も近づいてこない。
「紗季さんは山の中にある建物にいるそうです」
三宅が言う。
「本人の意思じゃない」
「そうみたいだな」
「じゃあ、もう監禁ですよね」
「確認してから」
黒田は集落の代表者だという老人に声をかけた。
七十代くらい。
背は低い。
作業着を着ている。
「倉橋紗季さんを探しています」
老人は答えない。
「山の建物にいると聞きました」
「今夜には帰る」
「本人に会わせてください」
「できん」
「なぜです?」
「決まりだからだ」
黒田は少し黙った。
「何の?」
「昔からのだ」
「本人は納得してるんですか」
老人の顔が強張った。
「そういう話じゃない」
「では、どういう話です?」
「お前らには分からん」
「分からないので聞いてます」
老人は山の方を見る。
「今夜まで待て」
「待てません」
「何か起きてからでは遅い」
「何が起きるんです?」
老人は黒田を見る。
「山が落ちる」
*
建物は神社からさらに十分ほど歩いた場所にあった。
古い木造。
倉庫にも小屋にも見える。
扉には新しい南京錠が付いていた。
三宅が近づく。
「紗季さん」
返事はない。
「警察です。聞こえますか」
静かだった。
風が木の葉を鳴らす。
少しして、
中から、
小さな音がした。
「紗季さん?」
『……はい』
若い女の子の声。
三宅が扉に近づく。
「怪我してませんか」
『大丈夫です』
「自分でここに入りました?」
間があった。
『違います』
後ろから老人たちが来た。
「やめろ」
先ほどの代表者だった。
「開けるな」
黒田が振り返る。
「鍵、誰が掛けました?」
「今は関係ない」
「誰です?」
「開けたら終わるぞ」
三宅が扉の向こうへ聞く。
「紗季さん」
『はい』
「ここから出たいですか」
しばらく返事がなかった。
老人が言う。
「余計なことを聞くな」
三宅は扉から目を離さなかった。
「出たいですか」
中から、
『出たいです』
と聞こえた。
黒田が老人を見る。
「鍵、開けてください」
「できん」
「ではこちらで開けます」
「おい!」
老人が黒田の腕を掴む。
「本当に死ぬぞ!」
黒田が腕を外す。
「誰が?」
「みんなだ!」
「それは後で聞きます」
三宅が応援を要請する。
黒田は工具を取り出した。
南京錠を切る。
金属音。
老人たちの表情が変わる。
「やめろ!」
扉が開いた。
中は暗かった。
三宅が先に入る。
紗季は奥に座っていた。
制服ではない。
白い着物のような服。
足元に食事と水。
手足は縛られていなかった。
ただ、
外から鍵が掛けられていた。
三宅がしゃがむ。
「立てます?」
紗季が頷く。
「帰りたい?」
また頷く。
三宅は自分の上着を脱ぎ、紗季の肩へ掛けた。
「行こう」
外へ出る。
老人の一人が前に出る。
「その子を戻せ」
三宅が紗季を自分の後ろへ寄せた。
黒田が間に入る。
「触らないでください」
「お前らが責任取れるのか!」
「何の?」
「山だ!」
「だから、それは後で確認します」
「本当にいるんだぞ!」
黒田は老人を見る。
「何が?」
「山の神だ」
「そうですか」
老人が一瞬黙る。
「……信じるのか」
「いるんでしょう」
黒田は紗季を見る。
「それと、この子を閉じ込めたのは別です」
*
午後四時。
応援が到着した。
刑事。
児童相談関係の職員。
市の担当者。
紗季は母親のもとへ戻された。
そのまま病院へ。
怪我はない。
脱水も軽度。
ただし数日間の経過観察。
黒田と三宅は、集落の住民から事情を聞いた。
話は大体同じだった。
久守地区では、昔から数十年に一度、
山へ娘を返す。
という儀式があった。
選ばれる基準は明確ではない。
昔は神社の家系から出すことが多かった。
戦後は行われていなかった。
ただ、四十三年前。
儀式を取りやめた年に、
山腹で大きな土砂崩れがあった。
死者五人。
家屋十一棟が流された。
それ以来、
古い決まりが再び意識されるようになった。
そして今年。
山鳴りが続いた。
井戸の水位が上がった。
夜になると、
山の上に巨大な影が見える。
誰かが言った。
「今年は返さなきゃいけない」
その言葉が広がった。
紗季が選ばれた。
黒田が聞く。
「本人には?」
「説明した」
「納得した?」
誰も答えない。
「嫌がった?」
一人の女性が俯いた。
「……泣いてた」
黒田はメモを取った。
「誰が連れて行ったんです?」
また沈黙。
遠くで鳥が鳴いた。
*
夕方六時前。
最初の揺れが来た。
地震とは違った。
短い。
地面の下から、
大きなものが身体を起こしたような揺れ。
集落の犬が一斉に吠えた。
山側で、
木が倒れる音がした。
三宅が外へ出る。
「先輩」
黒田も見る。
山の斜面。
木々の間に、
黒いものが立っている。
最初は岩に見えた。
ゆっくり動いた。
人の形。
ただし大きい。
高さは二十メートルほど。
輪郭ははっきりしない。
木。
土。
岩。
その全部が、人間の形を取っているように見える。
顔らしいものはなかった。
それでも、
こちらを見ていることだけは分かった。
老人が膝をつく。
「出た」
誰かが手を合わせる。
三宅が小さく息を吐いた。
「本当にいるんですね」
「いるな」
山から声が響いた。
『娘を返せ』
空気が震える。
紗季の母親が娘を抱き締めた。
紗季は顔を上げられない。
『娘を返せ』
老人が叫ぶ。
「早く!」
「早く返せ!」
「まだ間に合う!」
黒田は老人を見る。
「返しません」
「何言ってる!」
「本人が嫌だと言ってます」
山が揺れた。
石が斜面を転がる。
大きな枝が折れる。
『古より定められたことだ』
黒田が山を見る。
「誰が決めたんです?」
『この地の民だ』
「この子じゃないですよね」
山の影が動いた。
地面がまた揺れる。
三宅が黒田を見る。
「先輩」
「うん」
「これ、私たちでどうにかするやつじゃないですよね」
「俺もそう思う」
黒田は無線を取った。
「山側の住民、避難させます。消防にも連絡お願いします」
*
そこから先は、
黒田たちの仕事ではなくなっていった。
住民を避難所へ誘導する。
通行止めをする。
逃げ遅れがいないか、一軒ずつ確認する。
山の神は、
時折姿を見せた。
ただ、集落まで下りてくることはなかった。
それでも、
山腹の一部で小規模な崩落が起きた。
消防が警戒線を広げた。
県の担当者が来た。
市の土木部門。
砂防担当。
大学の研究者。
異常事案を扱う部署。
夜には、
黒田の知らない人間の方が多くなっていた。
三宅が避難所の入口に立っている。
紗季は母親と一緒だった。
三宅が紙コップの水を渡す。
「眠れそう?」
紗季は首を横に振った。
「ですよね」
「……戻らなくていいんですか」
三宅が少し黙った。
「戻りたい?」
紗季は強く首を振った。
「じゃあ戻らなくていいです」
「でも」
山の方を見る。
「みんな死んだら」
三宅も同じ方向を見る。
「それは大人が考えます」
「大丈夫なんですか」
「分かりません」
三宅は紙コップを見た。
「でも、だからってあなたを閉じ込めていいことにはならないです」
紗季は何も言わなかった。
*
翌朝。
調査が始まった。
まず、
過去の土砂災害記録。
地形。
雨量。
地下水。
古い地図。
神社の記録。
山中の水路。
久守地区には、
江戸時代以前から使われていた地下水路があった。
斜面内部の水を逃がすためのもの。
神事の際、
山へ入る前に、
いくつかの水門を開ける工程があった。
だが、
いつからかその意味は失われた。
儀式だけが残った。
少女を山へ連れて行く。
祠へ供物を置く。
水門を開ける。
一晩過ごす。
その一連を、
村人たちは「山へ返す」と呼んでいた。
研究者が古い資料を見る。
「ここです」
土木担当者が覗き込む。
「排水?」
「たぶん」
現地を確認する。
水路はほとんど埋まっていた。
途中で崩落。
水は抜けない。
地下水位を測る。
高い。
山の神が強く現れる時刻と、
地下水位の変動。
完全ではない。
ただ、
相関がある。
試験的に排水を行う。
地下水位が下がる。
その夜、
神の姿は小さくなった。
*
三日目。
黒田は市街地へ戻っていた。
自転車盗難の被害届を受けていた。
三宅が端末を見る。
「久守、今日から本格的に工事入るみたいです」
「そう」
「気にならないんですか」
「気にはなるよ」
「じゃあ」
「俺らが行って何するの」
三宅は少し考える。
「……何もしないですね」
「だろ」
「でも、神ですよ」
「神でも工事する人は別にいるだろ」
三宅は画面を見る。
「排水設備作るみたいです」
「じゃあ任せればいい」
黒田は被害届へ戻る。
「自転車の色、黒でいいですか」
目の前の男性が頷いた。
「はい」
*
久守地区では、
工事が続いていた。
古い水路は使えなかった。
新しく斜面へ穴を掘る。
集水井。
排水管。
観測機器。
必要な場所へアンカーを打つ。
作業は普通の砂防工事と変わらない。
違うのは、
山の中に時折、
巨大な人影が現れることだけだった。
『山を穿つな』
作業員たちは退避した。
研究員が数値を見る。
水位上昇。
地盤変位。
怪異反応。
全部確認する。
安全が取れたところで、
作業を再開する。
神がまた現れる。
工事は止まる。
消える。
再開。
繰り返す。
一週間後。
排水量が安定した。
地下水位が下がる。
神の姿が、
十メートル。
五メートル。
やがて、
見えなくなった。
研究者は報告書に書いた。
《山岳型異常存在の活動停止を確認》
消滅とは書かなかった。
何なのかも、
最後まで分からなかった。
*
一方、
人間側の話は別に進んだ。
紗季を山へ連れて行った者。
小屋へ入れた者。
鍵を掛けた者。
指示した者。
それぞれについて事情聴取が行われた。
当初、住民たちは「全員で決めた」「誰か一人の判断ではない」と口を揃えた。
しかし、捜査は儀式の話だけで終わらなかった。
小屋の南京錠からは、代表者の家にあった工具と一致する傷が見つかった。
倉橋家から小屋までの道には、複数の住民の車両が確認されていた。
紗季を連れ出した夜、集落の共同放送を使って住民を集めた記録も残っていた。
さらに、紗季の母親には、
「警察に言えば、山が落ちる」
「娘を返さなければ、集落全体が危ない」
と繰り返し告げられていた。
母親は自分も儀式に反対していたと話した。
それでも娘を引き渡した。
拒めば、家族だけでなく集落全体から責められると思ったという。
捜査員は、住民一人ひとりについて確認した。
誰が紗季を自宅から連れ出したのか。
誰が小屋を用意したのか。
誰が食事を運んだのか。
誰が鍵を掛けたのか。
誰が母親を説得し、誰が脅したのか。
誰が儀式を中止できる立場にいたのか。
集落の代表者は、
何度も同じことを言った。
「神は本当にいた」
刑事が答える。
「確認されています」
老人は顔を上げた。
「なら」
「何です?」
「なら、我々がしたことも分かるだろう」
「事情としては記録します」
「事情?」
「はい」
「人が死ぬかもしれなかったんだぞ」
「そうですね」
「なら仕方なかった」
刑事は書類を見る。
「倉橋さん本人は拒否しています」
「子供には分からん」
「だから大人が決めた?」
「そうだ」
「外から鍵を掛けた?」
老人は黙る。
「そこを確認しています」
「神の話は」
「神の話も記録されています」
刑事は顔を上げる。
「それとこれは別です」
代表者は、未成年者を本人の意思に反して小屋へ閉じ込めたことについて、逮捕された。
紗季を小屋まで連れて行った二人も、共同して監禁した疑いで逮捕された。
鍵を掛けた者、見張りをした者、食事を運びながら外へ出さなかった者については、関与の程度を分けて捜査が続いた。
母親についても、捜査員は事情を聞いた。
「あなたが娘さんを引き渡したことも、確認する必要があります」
母親は俯いた。
「私も罪になるんですか」
「脅されていたこと、拒めない状況だったこと、娘さんを小屋へ連れて行った後に何をしたか。全部を確認します」
「私は、あの子を助けたかった」
「分かっています」
「でも、何もできなかった」
「それも含めて、検察が判断します」
母親は泣いた。
捜査員は慰めなかった。
慰めるために来たのではない。
誰が何をしたのかを、記録するために来ていた。
後日、代表者と実際に紗季を連行した二人は、監禁の事実を認めた。
代表者は、
「山が落ちれば、もっと多くの人が死んでいた」
と主張した。
検察官は、
「危険を感じていたことと、未成年者を拘束してよいことは別です」
と述べた。
裁判では、山の神が実在したことも、土砂災害の危険が現実にあったことも、争点の中心にはならなかった。
争われたのは、
紗季が拒否していたこと。
住民たちがそれを知っていたこと。
それでも複数人で連れ出し、外から鍵を掛け、帰宅を妨げたこと。
そして、恐怖を利用して母親にも従わせたことだった。
代表者には実刑判決が言い渡された。
連行に加わった二人には執行猶予付きの有罪判決。
見張りや食事の運搬に関わった住民の一部には、関与の程度に応じて罰金刑や不起訴処分が選ばれた。
母親については、脅迫を受けていたことと、娘を守ろうとしていた事情が考慮され、起訴されなかった。
判決文には、
《地域の伝承や災害への恐怖は、被告人らの行為を理解する背景事情にはなり得る。しかし、被害者の身体の自由を奪うことを正当化するものではない》
と記された。
山の神については、
判決文に一度も出てこなかった。
*
冬が終わった。
久守地区の山は静かだった。
新しい排水設備は常時稼働していた。
毎月、点検が入る。
神社はそのまま。
祠もそのまま。
誰も壊さなかった。
翌年の夏。
祭りが開かれた。
提灯。
屋台。
太鼓。
子供の声。
去年までと同じように、
山の神へ祈る人がいた。
神社の前で手を合わせる老人もいる。
今年から違うのは、
少女を山へ連れていかないことだった。
紗季は友人二人と屋台を歩いていた。
焼きそばを買う。
笑っている。
黒田と三宅は警備で来ていた。
三宅が神社を見る。
「まだ祀るんですね」
「祀るだろ」
「人を要求してきた神ですよ」
「出さなきゃいい」
三宅は少し考える。
「そんなもんですか」
「何が」
「信仰って」
「知らない」
「先輩、興味ないですよね」
「ないね」
二人は境内を歩く。
山側へ目を向けると、
新しい排水設備の一部が見えた。
コンクリート。
金属柵。
小さな管理棟。
斜面から出た水が、
一定量ずつ水路へ流れている。
祭壇の前では、
老人が手を合わせていた。
「今年もよろしくお願いします」
誰も止めない。
三宅がその様子を見ていた。
「先輩」
「何」
「去年、あの人たち本気だったんですよね」
「だろうな」
「怖かったから?」
「たぶん」
「じゃあ、悪い人じゃなかったんですかね」
黒田は少し考えた。
「それは俺が決めることじゃない」
「でも」
「怖かったのは本当なんじゃない」
「はい」
「閉じ込めたのも本当」
三宅は黙った。
黒田の無線が鳴る。
駅前。
酔客同士の揉め事。
黒田が応答する。
「了解」
三宅がため息をつく。
「ここから四十分ですよ」
「知ってる」
「祭りの警備は?」
「交代来るって」
二人は境内を離れる。
紗季たちとすれ違う。
三宅が軽く頭を下げる。
紗季も頭を下げた。
それだけだった。
黒田と三宅は駐車場へ向かう。
祭りの灯りが遠ざかる。
山は暗い。
何も動かない。
神がいるのか。
眠っているのか。
まだ山の中にいるのか。
分からない。
排水路では、
水だけが、
静かに流れ続けていた。




