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2人のサイコパス  作者: アズキ
第2章

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9/27

2,メッセージ

自分の考えに浸っている時というのは、周りの音がほとんど聞こえなくなるものだ。

川原井は白鷺からの罵倒を食らっていたのだが、耳の中に入ってきたのは、ほんの少しだけだった。

これはどういうことなんだ!と言われる。

頭の中にある文字たちの中に、その言葉が割り込んでくる。

すると、考えていた長い文字の羅列がバラバラに砕け散った。

どうもこうもないだろと、頭の中で答えた。

2つの事件を関連付けないようにしていたのはそっち側なのだからと。

それでも、取り調べをしていた自分に矛先は向く。

というよりも、白鷺は今は攻撃対象が欲しかったのだと思う。

思いもよらない自体が起きて焦っているのだ。

1番面倒なことになったと、誰もが分かっているはず。


取り調べ中に送られてきた情報はまたしても、無差別殺人が起きたというもの。

しかし、今回は完全に志村と関連付けるものがあったため、警察は大騒ぎというわけだ。

警察の誰もが、偶然だと思いたかった。

関連付けられたサイコパスが警察署の中にいるとなれば、マスコミは黙っていないだろう。

その事実を公表するまでにはまだ時間がある。

タイムリミットまでに、志村から何か聞き出さなければ川原井は何も言えなくなってしまう。

頭では分かっていても、川原井はこれ以上、志村と関わるのを嫌だと思っていた。

奴と喋っていると、過去の記憶を無理やりほじり出されているかのような気持ちの悪い感覚になるのだ。


妻になるはずだった恋人を殺された光景が蘇る。

プロポーズを控えていた。

ガラにもなくロマンチックで忘れられない夜にしてやろうと意気込んでいたのを覚えている。

いや、忘れようとしていた。

殺されただけに飽き足らず、生きていたのか、死んでいたのか分からないが、恋人と致していたなんて。

犯人を殺してやりたいと何度思ったことか。

犯人のことを思うと怒りが、恋人のことを思うと涙が溢れた。

志村というサイコパスのせいで記憶が蘇り、再び心が砕けそうになっていただけだ。

説教混じりの喝を入れられている最中だというのに、川原井の頭の中は殺された恋人のことばかりを考えていた。

忘れようとしていたのに、自分は血迷ってでもいるのだろうか。


「聞いているのか?」


急な問いかけに、川原井はやっと現実へと戻った。

はい、と相槌をするが、声に覇気がない。

白鷺もそれを汲み取り、はぁ、とため息をつく。


「いいか?

何も出来なければ、責任を背負わされるのは警察なんだ。

成果を出せなければ、別のものに代わってもらう。

お前よりも優秀なやつにな」


んな事は分かってるんだよ。と悪態をつきたかった。

自分よりも優秀なものと変わる…か。

白鷺から信頼を置かれているという証明でもあった。

今すぐにでも優秀なものに変わってもおかしくはない。

ただ到着が遅れているだけという可能性もあるが。

変わるのも、それもそれでアリだなと思い始めている自分がいる。

だが、それを許さないのが川原井の心のどこかでグツグツと煮えたぎるものだった。

志村との会話で芽生えた怒り、悲しみ、それの借りを返さなければならいと思っていたのだ。


「必ず、掴んでみせますよ。

だから、俺にやらせてください」


「なんだよ、やる気があるなら態度で示せ。

言ったからには結果を出せよ」


突拍子のないことを言ってしまったなと、半分後悔していた。

「必ず掴む?」何を?

人と会話をしている気がしない相手と話をしたって、ボロが出せるのだろうか?

それを出させるのが警察だろうが、と言い聞かせる。

取り調べ室に戻る前に、もう一度、現場の死体の情報、身元を確認した。

殺されたのは小島衿、21歳。

渋谷の辺りの専門学生で、一人暮らし、アパートも渋谷の辺りだった。

死因は背中から刃物で刺され、出血多量。

通りかかった人が通報。

事情聴取をした時、黒い影を見たという証言があった。

監視カメラに映っていた人物と同じと見て良いだろう。

少ない情報から警察は探している最中。

警察の失態というふうにされるのを恐れ、世間にまだ志村のことは報道していない。

しかし、川原井はそれこそがミスだと思っていた。

無差別な殺人鬼が放たれているのだぞ?

住民に危険を伝えなくてはいけないはず。

警察署内に共犯者と思われる人物がいると世間が知れば、警察署にはおびただしい数の人間が押し寄せてくることは確実。

おそらく、川原井が言わなくとも、数分後には避難の呼びかけが起こるだろう。既にテレビで呼びかけている可能性もあるだろうが、人々は何も思わない。

若者は面白がり、避難することを選ばないだろうなと川原井は思った。

そういう奴ほど、自分が殺されそうになった時に、死ぬほど後悔するのだ。


1番の違和感。

「これはどういうことなんだ?」と白鷺から突きつけられた死体の写真。

死体のそばにあるのは紙切れ。

そこにはとあるメッセージが血で書かれていた。


『こんばんは。志村卓也です』


書かれていたのはそれだけ。

恐らく、殺した遺体の指を使って書かれたものだろうと報告を受けていた。

なぜ、そんなことをしたのか?

共犯であることを伝えるためだとはいえ、何のために?

志村本人の口から聞かなくては。


取り調べ室に戻る前に、川原井は大きく深呼吸をした。

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