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2人のサイコパス  作者: アズキ
第5章

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35/36

5,2人のサイコパス

どこで間違えた?

なぜ、このような状況に自分が陥らなくてはならなかったのか。

最初からだ。

女と喧嘩になることは初めてであった。

包み込めば、元に戻る。そう思っていた。

しかし、女は自分に向けて罵倒や悪口を永遠と口にしていた。

偽の優しさで包もうとしても、明らかにそれを拒んだ。

段々と感じたことのない怒りが湧き上がってきた。

気がついた時には、女は息をしていなかったのだ。

焦った、焦りに焦った結果、バラバラにして、欲を満たし、頭を冷静に保とうとした。

理性が戻った時、自分は助けを求めていた。

白鷺加奈子に電話をし、怖がられることなど気にせずに、事情を伝えたのだ。

逃げ出そうものなら、あの時の自分なら、おそらく殺していただろう。

驚くことに、彼女は状況を冷静に分析し、解決策をごく短時間で見つけ出した。

自分はそれに乗っかり、安心して自首、捕まることができたのだ。

それからというもの、警察を煽ることを楽しんでいたが、目の前の刑事が言うように、焦った。

今は気がついている。

「騙された」のだと。

もう自分にはどうすることもできない。

反論する余地もない。

気力を失い、生きる屍のようになっている。


「石井さん」


「なんですか?」


「私にパソコンをください。

そして、この部屋から出て貰えませんか?」


「え?」


目の前の刑事、黒崎が石井にそう告げた。

志村は驚き、困惑する。


「部屋から出たあと、誰もこの部屋には入れないでください。

大丈夫です。パソコンに会話の内容は打ち込んでおくので。

頼みましたよ」


石井がパソコンを黒崎の前にゆっくりと置き、黒崎は石井の方に片手を乗せ、送り出した。

扉の前から石井の姿が消え、黒崎の後ろ姿が見えている。

黒崎は扉を少しの間見つめ続けた。

少しの間、取り調べ室に沈黙が流れる。

沈黙の中で黒崎の周りの空気だけが変化しているように感じられた。

しばらくすると、黒崎は元の席、つまりは自分の前にきた。

パソコンを斜めに置いたが、指を置こうとはしない。

ひたすらに自分のことを見つめている。


「昔、好きなことがあったんです」


「なんですか?」


急に話しかけてきた黒崎に聞く。


「小学生のときでした。

今でも、鮮明に覚えています。

僕の小学校には小さな池がありましてね。

魚がたくさんいたんです。

僕は休み時間になると、池の近くで虫を捕まえて、手の中でバラバラにしました。

最終的に池に投げ捨てて、魚の餌になるところを見るんですけど、どうもその部分は強くは残らない。

僕の頭の中に強く残ったのは、手の中で虫を分解するあの瞬間でした」


志村はものすごく、冷静でいられた。

黒崎の話は普通の人間が聞けば、確実に引く内容だろう。

だが、志村にとっては共感に近いものがあるように感じられたのだ。

焦り、絶望が頭の中から消え失せ始めている。


「でも、濡れ衣をきせられて、やめざるを得なかった。

あれがなければ、僕は今頃どうなっていたんでしょうかね?」


志村は確信に迫りたかった。


「黒崎さん」


「なんですか?」


「1つ、質問してみてもいいですか?」


「いいですよ」


「あなたが人を殺す理由はなんですか?

恨みを晴らすため?

快楽のため?

誰かに頼まれて?」


黒崎の目からはとっくに光が消えていた。

瞳の中は暗黒。

しかし、その暗黒の中に志村が映されている。


「すいませんが、その選択肢って別々の意味を持つんですか?

僕には1つの理由にしか思えない。

人を殺す理由なんて、自分が楽しいからですよ。

自分が楽しんでなくても、世界の誰かは楽しむ。

ネットに晒し、自己肯定感をあげるための道具にする。

人殺しに共通するものです。

直接的でも、間接的でもいい、誰かが楽しむために必要なものなんですよ」


「あなた、僕と同じなんですね」


目に光を灯さないまま、黒崎は口が裂ける勢いで口角をあげた。

不気味に見えるその笑顔。

志村は不気味だとは思わなかった。

むしろ、鏡を見ているようだと思えたのだ。


「そうですよ。志村さん。

僕はあなたと同じです。僕はサイコパスなんです。

ただ、それを抑制して生きてきた。

それを見抜いたからには、教えましょう。

この事件の本当の全容を」


「何を言って…」


「僕はあなたを利用させてもらったんですよ」


石井がまだこの部屋に残っていた時、黒崎は事件の全容を推理し、話した。

紛れもない事実。

彼が言ったことは全て合っている。

裏があるというのはどういうことだ?


「僕はあなたと、同じものに分類されるんですかね。サイコパスと。

あなたとは共通する部分がありました。

瞳を見るだけで、相手の心の状態がある程度わかる、それほどの観察眼があること。

大いに共感できましたよ。

あなたが、白鷺加奈子を落とし、恋人にした後、僕も白鷺加奈子さんに会ったんですよ。

彼女の瞳を見て思いました。

何か、不安や悩みを持っているのだと。

だからきっかけを作りました。

足をわざと引っ掛け、受け止める。

そして、目を見て、悩みがあるんじゃないかと問いかけました。

僕の顔、意外と落ち着くイメージを持たれるものでね。

彼女は語ってくれました。

付き合っている彼氏が実は浮気しているんじゃないかって。

僕は調べました。あなたのことを。

そうしたら、あなたは複数の女性と関係を持っていた。

彼女に、その場面を見せたら案の定、心が壊れました。

僕がそこに入り込み、落としたんです」


心臓の鼓動が耳に聞こえる。

志村は、まさかと息を飲んだ。


「でも、僕はあの子の目を見て…あの子は僕のことを…」


「愛していたと?」


絶対的な自信を持っていた自分の観察眼。

今は、ほんの少しも自信を持てないような気がしていた。


「言ったじゃないですか。

あなたと僕の観察眼は似ている、と。

敵の目を欺くために、何も用意をしないわけがない。

彼女にはあなたと会うことを進めていました。

怪しまれない為にもね。

そのためには、目を鍛える必要があった。

教えたことは1つですがね。

あなたを愛することで、僕への愛の道が開かれる。

志村さんの写真を見せても、目の輝きが消えないように忍び込ませることに成功したんです。

結果がこれですからね。

あ、そうだ、彼女、言ってましたよ。

あなたのことを殺してやりたいって」


黒崎はパソコンにタイピングを始める。

ものすごい速さで打っていた。

打ちながらさらに会話を進める。


「でも、彼女は死んだじゃないかって思ったでしょ?

僕は彼女に、あなたを捕まえさせて投獄させる復讐方法を進めたんです。

この事件はそのために《《僕》》が作ったシナリオだったんですよ。

全てを裏で操っていたのは僕です。

川原井っていう刑事に、取り調べをずっとお願いしていたのも、あなたが焦ることを予測していたからです。

無差別殺人をそこら辺の女が提案すると思いますか?

提案できても実行するやつの方が珍しい。

僕が彼女の精神を鍛え、人を殺せるまでに鍛え上げた。

まぁ、彼女の並外れた身体能力があっての事ですが。

最終的に、彼女は復讐をやり遂げた。

あなたはこれから何を言っても無駄ですよ?

あなたを信じる人なんていないんですから」


自分がサイコパスである自覚すら失いかけていた。

目の前にいる黒崎という男の周りに宿っている闇が自分を包み込んでいるかのように思えたのだ。

この男が全てを仕組んでいた。


「どうしてだ…」


「ん?」


「どうして、彼女の頼みを聞いた?

君はサイコパスなんかじゃない!

ただのお人好しだ!彼女を愛していたんじゃないのか!」


「この世は、自分の内なるもの、性《さが》を押し殺して生きていかなくてはならない。

僕は小学生、中学生の頃に、自分の中にあるサイコパスを抑制した。

そこから今まで、とても退屈でした。

刑事になり、成績を積み重ね、昇進しようが心は一向に満たされることを知らない。

そんな時に、彼女と出会って、サイコパスが目覚めた。

『自分で手をくださずに人を殺す』ことへの背徳感を得てみたくなった。

人を操り、死さえも操れることへの優越感。

今、僕は、とっても満足しているんだよ。志村さん」


「撤回するよ。

君は正真正銘のサイコパスみたいだね。

受け入れてやるよ。

終身刑になったら、君が事件を起こさないか楽しみにしてる」


会話はそこで終わった。

黒崎はスマホでメールをした。

少しして、数人が部屋に入ってきた。

志村のことを連行するのだ。

志村は抵抗もせず、立ち上がり、2人の刑事に連れられていく。

黒崎の横にきた時、立ち止まる。


「白鷺加奈子…。

彼女は黒崎《ぼく》のために死にました。

黒崎《ぼく》への永遠の愛を証明して。

その愛を黒崎《ぼく》はどう受け止めるんですかね?」


志村の言葉は黒崎にはそう聞こえた。

志村もそのように言っていた。


「あなたはサイコパスです。

愛を語っていたが、所詮は道具に過ぎないと発言していた。

それが全てなんじゃないですか?

自分が言ったことが答えですよ。

それこそが黒崎《サイコパス》ですから」


志村はニヤリと笑って取り調べ室を出ていった。

事件は終焉を迎えたのだ。

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