2,もぬけの殻
白鷺紗英の話を聞いたあと、すぐに川原井は教えてもらった住所に直行した。
渋谷内ということもあり、時間はそれほどかからなかった。
時間がかかったのは着いてからだ。
紗英を尋ねた時とは大違いで、着くと同時にパトカーから飛び出るように走り出し、アパートの部屋に急ぐ。
住民はとっくに寝ている時間帯にも関わらず、ドタドタと大きな足音を立てて扉の前に駆け寄る。
インターホンを鳴らすが返事は一切ない。
扉をドンドンとノックし、声をかけてみるが返事は変わらずない。
この場合、ドアを蹴破って中に入るしかない可能性も出てきたが、その必要はないことに気がつく。
扉をノックしながら、もう片方の手でドアノブを下に下げ引いてみると、いとも簡単に開いたのだ。
鍵がかかっていなかったのである。
面倒なことになったかもしれないと内心焦った。
鍵が空いている理由は、出かけているだけかもしれない。そうなると探すのが大変になる。
または…もう既に…。とも考えてしまった。
川原井ともう1人の刑事は驚きながらも、中へと入ることにした。
恐る恐る、慎重に中に足を踏み込む。
電気は一切ついてなく、川原井がボタンを押すことで一斉に電気がついた。
部屋は至って普通の部屋だ。
女子学生が住むのなら、そこまで不自由のないもの。
トイレ、風呂は別になっていて、部屋の奥にはベッドが設置され、勉強机もある。
荒らされた形跡もなく、部屋は綺麗に整えられたままだった。
部屋のありとあらゆるところをくまなく探してみたが、白鷺加奈子の姿はどこにもない。
ここまで来て、部屋はもぬけの殻だったのである。
まさか、紗英に騙されたのだろうか?
だが、部屋には写真が飾ってあり、加奈子と一緒に映る紗英の姿もあった。
つまり、ここは白鷺加奈子の家とみて間違いないということ。
何らかの理由で外に出ているのかもしれない。
どこか別の場所に泊まっている可能性も。
もしかしたら、既に志村の計画に利用され、どこかに拉致されている、などの思考が巡る。
ドアの外に、こちらを覗く女性がいた。
近隣の住民だ。
先程の騒音で起こしてしまったらしい。
「すいません、起こしてしまいましたか。
緊急で捜査しなくてはいけないことがありまして」
川原井がすかさず駆け寄り、事情を説明する。
「ここの子が何かしたんですか?」
話を聞くと、女性はこのアパートの大家であり、住み込みで管理しているとのことだった。
「ここにいた白鷺加奈子さんについて何か知ってませんか?」
「さぁねぇ。
大家と言っても住民と親しくしてはなかったし。
時々、顔を合わせて頭を下げ合ったりするぐらいで」
「じゃあ、こんな男の人と一緒にいたところを見たとか」
川原井は志村の写真を出す。
大家は首を傾げる。川原井はまたもハズレかと思った。
「この男の人かは分かりませんけど、彼女が男の人と一緒に部屋に入るのは見たことありますよ。
つい最近のことでね」
「どんな人でした?」
「顔はよく見えなかったけど、服装とか髪型は整ってて、悪い人には見えなかったですね。
ほら、最近はチャラいとか言われる人を選ぶ人も多いから」
もう1人の刑事は「志村ですよ」と川原井に言ってきたが、川原井はどこか納得がいなかった。
感謝と謝罪を大家に伝えると、パトカーに戻り、どこを探せばいいのか、上への報告をしなければと腰が重くなったが、どうやら、白鷺加奈子を探す必要はなくなったらしい。
渋谷内にて自殺が発生。
情報が回ってきて、現場の映像を見て、川原井は急いでパトカーを走らせ、現場に直行した。




