7,友達
東京、柊木依央の自宅にて。
部屋には机はあるが、コタツにするためのもの。椅子はなかった。
柊木についてきた刑事、雨谷宗也は机の半分ほどを取り囲む大きなソファの上に座っていた。
パーマがかかっている頭を掻きながら、変な緊張をほぐす。
同じ刑事の家に行くことになるとは思っていなかったのである。
お茶を出してくれたのは依央の妻である柊木未悠。
机に正座して雨谷の方を見つめているのは、依央の娘である柊木琴音である。
琴音は大学4年生。
ボブの髪の毛、母譲りであろう大きな瞳、細身の体型をしている。
正座をしている姿が、とても綺麗で、背筋がピンと一直線になっていた。
家族の中に刑事がいて、いつも家に帰ってきて、家の中にいるという状況には慣れているはずなのに、雨谷という知らない警察のものがいるのことには動揺している様子だった。
琴音はその大きな瞳をパチパチとしながら、雨谷の方を見て、時々、父親の方を見ている。
雨谷はソファに座っていたが、目線が上からになっていることに気がつき、琴音と同じように机のすぐ近くで正座をする形を取った。
依央の方を見て、目で「はじめても?」という合図を出す。
それを見て依央は頷く。
雨谷は最初に1枚の写真を机の上に前かがみになりながら置いた。
母親、そして琴音の反応は頭の上に「?」が浮かんでいる様子だ。
「この人を見たことはありますか?」
「見たことないです」
私も見たことない人ですね。と琴音の後に続いて未悠が答える。
「この人と娘に何か関係があったんですか?」
「それは…」
「そいつは殺人犯だ。今、取り調べ室にいる」
雨谷の言葉に依央が割り込む。
「お父さん、どういうこと?
取り調べ室にいるなら、捕まってるってことだよね?」
「そうだ。捕まってる。
今も警察はその殺人犯と話をしてるんだ。
だが、奴は4人の名前を出した。
その中に、琴音の名前があったんだよ。
だから、何か知ってるのかと思ったんだが、知り合いじゃないなら、琴音がターゲットの可能性もある。
でもな…」
「なんで、私の名前を知ってるんだろ」
「そこだ」
鋭い、さすが柊木依央の娘だと雨谷は少し関心した。
傍から見れば、そんなことに気がつくのは当たり前だと思うかもしれないが、意外と人間は当たり前のことに気がつかないことが多い。
違和感をそのままにし、重要な情報を逃がしてしまう。
警察である自分が気がつくことができないのは失態と言っても過言ではないと雨谷は思った。
そして、不可解な事柄について考える。
接点はない。
ならなぜ、志村という男は、柊木琴音の名前を言うことができたのだろう?
一方的に彼女のことを知っていた可能性は十分にある。
志村が殺したと発言した人間のほとんどが、彼と恋人の関係を持っていたという部分が壁となるが。
同姓同名の可能性もあるが、殺していないとなれば、目の前にいる琴音を守ることが鮮血だろう。
新たなターゲットであることも考えられる。
しかし、今、渋谷に野放しになっている殺人犯は「無差別」に人を殺している。
ターゲットを決めて殺すことなどあるのか?
分からない。
無差別殺人は前座の可能性もある。
最初は無差別に人を殺していき、最後のフィナーレで狙った相手、つまり、何か関係がある人間たちを殺す。
正当化したところで、不可解な部分の謎は解くことができない。
「学校とかで、見たことなんかは?」
雨谷が聞いたが、琴音は腕を組み、首を傾げる。
「見たことないんですよね。
意外と顔に特徴がありますから、見たことがあるなら忘れないと思います。
私、記憶力はいい方なので」
志村が事前にリサーチをしていた可能性もある。
ほとんど手詰まりになった時、琴音がとあることを言い出す。
「名前を呼ばれたのって、私以外にはなんて人がいたの?」
依央が琴音以外の3人の名前を言う。
白石綾、九条結衣。
そして最後に、白鷺加奈子の名前を言った。
最後に名前を出した時、琴音は眉を寄せる。
「私、最後の人、知ってるかも」
「本当ですか?それはどうして?」
「子どもの頃、遊んだ記憶があります。
小学生ぐらいの時だったけど。
お父さんの仕事の仲間と会うってなった時に、その人にも子どもがいて、父親同士で話してる間、私たちは遊んでた」
この発言に、依央と未悠は思い出したかのように「あ〜」と声を漏らす。
「そういや、昔はよく白鷺のやつと会ってたな。
今はそんなにだから、忘れてた。
にしてもよく覚えてたな」
「記憶力はいいって言ったでしょ?」
依央は本当に忘れていたようだった。
おそらく、白鷺との話が弾んだことで、娘同士で遊んでいることが眼中になかったのだろう。
2人の接点が分かったところで、何がどうという訳ではないが。
そこからは捜査の進展はなく、雨谷は現場に戻ることになる。
依央は家族を守るために、家に残った。
雨谷は手に入れた情報を上へ報告し、パトカーに乗って走り出した。




