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2人のサイコパス  作者: アズキ
第3章

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20/24

5,白石綾

家族の死を伝えに行く。

これを1日に2度も行うことになるとは思わなかった。

西宮は既に死が確定したであろう白石綾さんの死を親御さんに伝えに行くと同時に事情聴取をしなければならない状況だったのだ。

パトカーに乗り、話を聞きに行くまでは、まだ死んだとは言えない状況だった。

しかし、取り調べ室から答えが出てしまったのだ。

結果的に、途中で伝えるべきことが変わってしまった。

殺されてしまったかもしれないという予想から、殺されてしまったという結果に。

他の被害者のところに配属されても、ほとんど同じ状況のはずなのだが、白石綾さんは既に亡くなっている可能性が高いため「殺された」と伝える他ないのだ。

遺体は発見できないにしても、犯人の口から殺したと発言があった。

最悪を想定しておくことは悪いことではない。

想定しておいて、いい方向に逆転することがあれば万々歳である。

例え、想定通りだとしても、変な希望を抱かずに事実を受け止めることができるのだと、西宮は考えていた。

だとしても、西宮は平然を装うのに疲れきっている。

隣で会話をする刑事の話は耳から耳へと入っては何も情報を残すことなく出ていってしまうし、パトカーの中に微かに聞こえてくる外の音すら、西宮の耳に刺激を与えることはできなかった。


普段、西宮は元気を装っている。

周りの雰囲気を壊さないためにも、元気でポジティブな自分を演じているのだ。

しかし、それにも体力がいるし、何よりも精神力がいる。

ずっと続けていると体に疲労感がドッと押し寄せてくるのだ。

普通の仕事なら、演じるのもそこまで疲れやしない。

事件となれば話は別。

しかも、かなりの死者が出ているという事実もある。

西宮が元気を演じられるのも残り時間わずかだろう。


隣の刑事が不自然に覗いてこなかった時点で、おそらくはいつもの自分を保てているのだろうと思っていたが、記憶はほとんどない。

被害者の家族の家に着くまでの記憶はほとんどが虚無。

何も考えられない。

頭の中を覗ける人間がいるとしたのなら、途方もない虚無の空間が広がっていることだろう。

黒い画面が全面に映し出され、何も見えやしない。


パトカーの速度が遅くなり、駐車した時、虚無の空間から戻った。

スイッチを切り替え、疲れきった脳と体でいつもの自分を取り繕う。

すぐには上手くいかず、肩に重りをつけられているような気分だった。

パトカーのドアを閉める際の音と同時に、深いため息を西宮は吐いた。

もう1人の刑事を西宮は先に行かせた。

川島と事情聴取を行う際にも、彼にインターホンを押してもらっている。

今回も自分で押すのが嫌だったのである。

無意識のうちに自分は責任から逃れようとしていたのかもしれない。

相方の刑事は躊躇なく、インターホンを押した。

一軒家で、何の変哲もない家の玄関から、寝間着姿の男性が出てきた。

歳は上に見える顔だが、髪は黒い。

顔の印象は、優しそうという子どものような感想だった。


彼が白石綾さんの父である白石篤斗しらいしあつとである。

どうぞ、と中に招き入れられ、2人は中へと入る。

靴を脱いで、上がる際に、西宮はゴクリと唾を飲み込んだ。

リビングで西宮ともう1人の刑事は椅子に座った。


「すいませんね、こんな遅い時間に」


「それほど、緊急な用ということなんでしょうね?」


遅い時間に少し腹が立っているのは篤斗の方ではなく、彼の妻の白石春夏しらいしはるかだった。

髪の毛が長く、メイクは少し濃いように見える。

若い頃はギャルだったのかもしれないと思える名残が茶髪の髪の毛から滲み出ていた。

といっても、ただの印象だが。

篤斗とは違く、寝間着姿を見せるのが嫌だったのか、それなりの普段着に着替えていた。

急な連絡で急いでいたのだろう、ボタンが1つズレて止められている。

西宮は気がついたが、気にしないフリをした。


「実は…今日、自首をしてきた殺人犯がいまして。

その事件を追っている際に、無差別殺人事件が起きたんです」


「ニュースでやってたやつですか?

あの事件は1つの事件ではなくて、他の事件の犯人と繋がっていると?」


「そうです。繋がりは確定しています。

無関係はありえないです」


篤斗の方は比較的、人あたりの良さそうな印象で、こちらの話にも積極的に聞いてくれそうな感じがした。

しかし、春夏の方は茶を出した後、椅子に座り、腕を組んで話を聞くのみだった。

彼女の顔は高圧的だが、どこか怯えているようにも見える。

殺人事件の話を出した時、自分たちの方を春夏は睨みつけていた。


「もしかして、私たちの周りの人が自首をした犯人とか…ですか?」


「こちらを」


相方の刑事が、志村の顔写真を机の上に出す。

白石夫妻は写真を凝視したが、首を傾げてしまった。 結果、知らないとのこと。


「いや〜チラッとも見覚えがないですね。

若いですし、私たちの絡むような人ではないと思いますね。

会社にも若い連中はいますけど、こんな人は見たことがないです」


「ありがとうございます。

こちらは知っていればと思って出しただけなので。

本題は…」


西宮の声が少し暗いトーンを交える。

反応したかのように、春夏の唇が微かに震え出したように西宮は見えた。

先程まで睨んでいたが、今はできる限り、目を合わせないようにしている。

台所の方をジッと眺めてはいるが、聞き耳は立てているのだろう。


「話というのは、あなた方の娘さんの話で。

白石綾さんの」


「綾が、絡んでいるんですか?」


「犯人の口から、綾さんの名前が出たんです。

しかも、その後…」


感覚的に、呼吸が過呼吸気味になるのを感じた。

他の人から見れば、そんなことはない。

頭の中で「はぁはぁ」と呼吸する音が大音量で聞こえる。

あくまでも西宮の感覚が暴走し、頭の中ではじぶんが今、過呼吸を起こしているという錯覚が起こっていた。

次の言葉を絞り出すのにとてつもないエネルギーが必要とされることに内心驚きを隠せなかった。

やっとの事で、口から言葉が出る。


「殺した、と犯人が言ったんです」


ガタッと椅子が動き、体のバランスを崩しそうになったのは春夏の方だった。

バランスを崩したところを篤斗に受け止められ、何とか元の体制に戻る。


「根拠は?根拠はあるんですか?」


「それは…犯人が…」


「遺体は見つかっているんですか?」


「いえ…それは…」


「なら、死んだなんて言わないでください。

犯人がついた嘘に決まってます。

私の娘は…死んでなんか…」


春夏は椅子から立ち上がり、篤斗のスマホを持ち出し、別の部屋へと顔を抑えながら走っていってしまった。

さすがに、謝るべきであると、篤斗の方を向いて申し訳ないと先に顔で訴えかける。


「すいません」


先に謝ったのは西宮と刑事ではなく、篤斗の方だった。

篤斗は春夏が向かった方向をジッと眺めてから、視線を西宮たちの方へと戻して話し始める。


「妻は、人一倍、娘に対する愛情が深かったんです。

愛が強すぎるが故に、独り立ちした時も、かなりの頻度でアパートの方へ出向いていました。

でも、娘に遅めの反抗期というものが来てしまい、喧嘩になったんです。

私には連絡が来て、それ以来、私にしか連絡をよこさなくなり、妻にはメールを軽く見せる程度に」


「最近、連絡を取ったことは?」


「いえ、ずっと取っていません。

学校が始まった当初は、色々メールが来ました。

WiFiの繋げ方だったり、水道のことについてだったり、あれやこれや聞かれました。

慣れたんでしょうね、連絡がピタリとやんだんです。

それが、慣れたんじゃなくて…」


西宮は篤斗の表情を見るのが辛かった。

彼は理解していたのだ。

娘は生きているかもしれない。でも、殺されてしまったという事実の方がずっと大きいということに。

受け止めなければならない。

足音が聞こえ始める。

1歩1歩を踏みしめる音が深く響き渡っていた。

その方向には春夏が今にも泣きそうな顔でたっている。


「繋がらないの…。何度、かけても。

あなた…綾は…生きてるよね。

生きてるって言ってよ!」


泣きながら、篤斗の肩を両手で掴み、膝から崩れ落ちてしまった。

篤斗はそれを頑張って支える。

春夏は夫の腹部あたりに顔を埋め、泣いていた。

顔を埋めていても聞こえるぐらいには大声で。

西宮は今すぐにでもこの場を離れたかった。

最初、春夏を見た時は、その高圧的な態度な気に食わなかったが、今は同情の気持ちが100%になっている。

他人の死など、ニュースで報道されたぐらいなら、気にする事はないだろう。

共感だったり、痛みを分かち合おうなどと考えることは人生においてあるわけがない。

だが、警察という仕事上、目の前で家族の死を伝えられた者たちに同情しないなんて無理なことなのだ。


「ご協力ありがとうございました。

奥さん…。私たちが必ず、犯人を死刑台に送ります」


慰めでもなければ、責任を取れるのかも分からない発言を突発的にしてしまった。

春夏は言葉に反応して、西宮の方をジッと見る。

赤く充血し、涙が溜まっている目で「必ずよ」と言われた気がした。

西宮は心に深く刻み、家を出る。

その時だった、西宮は新たな報告に驚く。

渋谷でまた、無差別殺人事件が発生したのだ。

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