3,居場所
警察署内は混沌を極めていた。
内部の人々はそれぞれ、4人の名前を調べている。
1人は既にわかっている。
白鷺の娘となれば、父親である礼司が調べられると、誰もが思っていたが、そうもいかないらしい。
動いている人、机でデスクワークをしている人、白鷺はというと、電話をかけていた。
黒崎はその光景を永遠と眺めている。
続々と、判明してくる4人の素性。
どこに住んでいるのか、家族はどこにいるのか。
手分けして、捜査に向かう。
1つ、「柊木」という苗字には何人もの警官が聞き覚えがあり、警察内の刑事の苗字と一致することがわかった。
すぐに、柊木刑事に電話をして確認をした。
結果は最悪なのか、幸運なのか分からない結果となる。
柊木琴音は、娘だったのだ。
柊木刑事にはすぐに、娘の安否を確認するように指示を出した。
結果的には、すんなりと見つかったらしい。
そうなると、4人のうちの2人が絞られ、残りは1人となる。
殺されたのは白鷺加奈子か、九条結衣か。
この情報は白鷺をさらに追い込むこととなる。
柊木の娘は、実家暮らしのため、家にいるとの事だった。
念の為、柊木刑事同行の元、話を聞きに行くことになった。
「だから!どこにいるんだ!」
白鷺の怒声により、警察署内は一時的に沈黙する。
先程まで騒がしく動いていた場所は荒野のように静まり返った。
荒野と違うのは風がなく、ほとんど無音に近いということ。
1人1人の呼吸音が聞こえそうになるほどだ。
気にせずに、白鷺はスマホに向かって叫び続けていた。
話し声が一切聞こえなくなり、全員が白鷺の方を直視する。
沈黙を破ったのは黒崎だった。
「どうしたんですか?」
白鷺はスマホをバンっと机の上に置く。
その音が響いても沈黙は消えない。
どうやら、相手から電話を切られてしまったらしい。
室内には資料を持ったまま、あほずらをさらけ出しているものばかりだ。
緊急だというのに、そんなに気になることなのか?
上司の失態の可能性でも見出しているのか?
黒崎はその光景に呆れてしまった。
「何してるんですか?早く、自分たちの仕事をしてください」
黒崎が声をかけると再び騒がしくなる。
全員がハッとしたように動き出す。
「やべ」という声がどこからか聞こえるようだった。
警察といえど、人間。
多くが黒崎から見れば、マヌケもいいところ。
1人ぐらいはそうでない人間がいてくれと黒崎はさらに呆れる。
本人の住居、家族の家に捜査をする。
電話で確かめたところ、実家暮らしではないため、2つの家を調べなくてはいけなくなった。
電話を今の時間からかけるのは少し抵抗があるかもしれないが、そんなことを言えるような状況ではない。
黒崎はその様子を眺めながら、白鷺に話しかける。
「さっきの電話、誰にかけてたんですか?
娘さん、ですか?」
「うちの妻だ。娘の居場所を聞いてた」
「で、場所は分かったんですか?」
「妻には電話を切られた、緊急事態だと言っても、何も聞かないまま切りやがったんだ!」
白鷺は机を叩いた。
何人かはそれに反応したが、今は自分の仕事をするので忙しい。気にしてはいられなかった。
だが、白鷺の娘、白鷺加奈子を調べていたものは周りに集まってくる。
興味津々といった眼差しで白鷺の方を見ていたが、当の本人は目障りだとガンを飛ばすことすらできないほど焦っている様子だった。
黒崎と白鷺の会話を聞いていた。反応をすることはなく、ただ聞き耳をと立てているだけだが。
「その前に、なぜ、父親であるあなたが娘さんの場所を知らないんですか?」
「それは…プライベートなことだ」
「今は人の命がかかった状況なんです。
プライベートがどうとか言ってる場合じゃ…」
「そういう問題じゃないんだ!
言ったところで捜査の役には立たない、娘は家を出て居場所を知ってるのは妻だけだ」
白鷺は立ち上がり、攻撃的な口調で黒崎と周りの人物を睨みつけた。
立場など気にしている余裕すらないらしい。
焦り、恐怖、不安が重なり、彼の顔には汗が毛穴という毛穴から吹き出していた。
まるで、サウナから出てすぐの状態だ。
事件を解決することよりも、娘の安全が確保できるという状況の方が、白鷺にとっては水風呂なのだろうと黒崎は思った。
不謹慎なことではあるが、無差別に殺される人のことを警察は気にしてはいない。
殺された、だから調べる。
犯人を捕まえるためには必要な尊い犠牲だと考えている。
それか、全く気にしていないかだ。
実際、赤の他人が殺されたところで、親族以外は気にする事はない。
なのに、自分の家族や知り合いとなれば急に目の色を変える。
今の白鷺のように。
因果報応とも言えるのではないだろうか。
普段、人が殺されようが表面上、義務として、悲しんだ自分を演出する。
心の中はというと、仕事上、何度も目にする光景のため、そこまで大きなものだという自覚はほとんどない。
自分の家族が事件に巻き込まれ、殺されたりなんかすれば、いつも以上に動くだろう。
警察だからではない。
人間だからなのだ。
人間誰しも、他人などどうでもいい。
身内に何かなければ、気にすることなんて1ミリもないのだから。
「あなたたちは、至急、白鷺さんの奥さんの元を尋ねてください。
娘さんの居場所を知らなくては」
「俺も行く」
「白鷺さんはここに残ってください」
「なぜだ?俺の家族なんだぞ」
「白鷺さんに娘の場所を言えないとなると、白鷺さんが奥様のところに行ったら、聞き出せない可能性があるからです。
ご理解いただきたい」
白鷺は怒りを噛み殺し、飲み込んだ。
黒崎の周りにいたものも動き出す。
現場付近にいる警官たちにも応援を頼んでいた。
「そんなに、言えないことなんですか?」
「言って何になるんだよ」
「分かりません。それが捜査に役に立つのかは分かりませんよ。
でも、知っておいて損はないと思っています。
犯人は4人のうちの2人しか殺した覚えがない可能性がある。
つまり、2人は生きている可能性があるということです。
で、柊木琴音さんは生きていることが確認された。
残されたのは…。
生きているとしたら、これから狙われる可能性もある」
「分かってる!
でも、娘が親元を離れた理由なんかが捜査に役に立つなんてありえない!
妻は分かってないんだ!娘は生きている。
だが、殺されてしまうかもしれない。
それをわかってない。
娘は…殺されてない」
事実を受け止められない姿だった。
娘はもう既に志村の手にかけられいる可能性がある。
現実を受け止めなければならないかもしれないという状況から必死に目を背けていたのだ。
死んでない、殺されていないと自分に言い聞かせ続けて。
黒崎の目にはそれが滑稽に見えてしまった。
自分の責任であるにも関わらず、他人に責任転嫁しようと喚いている子どものようで。
これ以上、詮索しても意味がないのではないかと思えた。
白鷺は頑なに理由を話してはくれなかった。
何かを隠している。
隠したい、人に言えない過去を持っている。
通りすがりに聞いていた警察署内の人間全員がそう思っていることだろう。
誰もが1つは持っていること。
こんな状況になっても、言いたくないことは言わない。
自分に不利になることは言わなくてもいい、それが社会なのだ。
そこへ1人の警官が走って入ってくる。
黒崎と白鷺の元へ来て、無差別殺人が再び行われたことを報告した。
白鷺はガバッと動揺したのに対し、黒崎は至って冷静だった。
殺された被害者の身元特定、現場の分析を急がせる。
警官は現場の死体には変なところがあると告げた。
現場の写真を貰い、黒崎はそれを見る。
「これは…」




