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2人のサイコパス  作者: アズキ
第3章

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17/26

2,殺人描写

警察所内を走る川原井。

目の前には取り調べ室へと走る白鷺の姿があった。

志村が口にした名前「白鷺加奈子」は白鷺礼司の実の娘だということが分かったのだ。

川原井は最初、半信半疑の状態で白鷺の元へと向かい、その名前を志村が口にしたことを報告。

報告をした瞬間、白鷺の目には驚きと恐怖が浮かび上がったように見えた。

瞬間的にこの事件が悪い方向に向かっていることを強く感じた。

白鷺はそのまま走り出し、取り調べ室へと向かったのだ。

あれほどまでに焦っているということは娘という他ないだろう。それか妻という可能性も。


今の心境で取り調べ室に入った白鷺は何をするか分からない。

川原井は追いつこうと走った。

しかし、追いつく前に、白鷺は取り調べ室に入ってしまった。

ドアを勢いよく開け、扉がぶつかる音が響く。


「どういうことだ!私の娘に何をした!」


部屋の中に轟音が響き渡る。

扉の僅かな隙間から白鷺の怒鳴り声が聞こえた。

やはり娘の名前だったのだ。

川原井が後に続き、部屋の中へと入る。

白鷺は志村の胸ぐらを掴み、志村は立ち上がることを余儀なくされていた。

右手は拳を振りかざしており、石井がそれを抑えている。

拳は震えていて、葛藤しているかのようだ。

石井に助太刀し、川原井も加勢する。


「やめてください白鷺さん!相手の思う壷です!」


「私の娘に何をした!答えろ!」


2人係でやっと動きを抑えられてはいるが、志村の胸ぐらを掴む手は何がなんでも話さないつもりだろう。

志村はそんな状況に晒されていても余裕を醸し出している。

ニヤニヤと笑みを浮かべながら白鷺を煽った。


「さぁ、分かりませんね。

それに、その4人の名前だけを思い出しただけで、殺したのかすら覚えてません。

僕が覚えているのは殺した時の描写。

誰がどの描写かなんて覚えてません。

殺したのかすらね」


「この野郎…」


まずい。やる気だ。

川原井と石井は白鷺が暴力に走ろうとしているのを感じ取り、白鷺を後ろに引っ張り倒した。

やっとの事で志村を掴む手が離れ、3人は滑稽に床に倒れ込む。

その光景を見て志村はクスクスと笑う。

笑いながらも、椅子の上に座る。


「白鷺さん!今は、娘さんや名前をあげられた人の安否確認が優先です!

やつに乗せられないでください!」


川原井が叫んだ。

白鷺は正気を取り戻したらしく、息を整え、立ち上がる。

立ち上がると同時に、自分の頬を思いっきり殴った。

よろけ、壁に少しもたれかかる。

自分の不祥事手前の行動に対するケジメをつけたのだろう。

怒りに満ちた目は変わっていない。

目はまっすぐと志村の方を見ていた。


「すまない。助かった。

名前を言われた人たちの捜索を依頼する」


2人に対し謝罪をして、部屋を後にした。

川原井は部屋に残り、取り調べを続けることに。

謎だが、志村は少し不満げそうな表情を見せる。

3人が床に倒れ込んだ時とは打って変わって、笑顔やニヤケ顔を1つ見せることはない。

ただ、ジッと、川原井のことを見ているだけだった。

すぐにその表情は通常通りの志村の顔に戻る。

先程までの不満気な顔は一体なんだったのだろう?考える暇はなかった。

川原井も椅子に座り、話を続ける。


「なんで、その4人だけ、名前を覚えてたんだよ」


「分からないって言ったじゃないですか?

僕が覚えてるのはあくまでも殺し方。

名前が浮かんだのは…うーん特別な殺し方でもしたんでしょうかね?」


「じゃあ、その名前の人物をどう殺したのか思い出せないのか?」


不謹慎すぎる質問だった。

しかし、今はとやかく言っている場合ではない。

志村の表情がまた変わる。

今度は嬉しそうにニヤケ顔を川原井の前に晒す。


「いいですよ。

あ〜でも、何ででしょう。

殺した描写が2つしか出てこないんですよね」


「2つ?」


「はい、ハッキリと思い出せるのが2つしかないんですよ」


志村が出した名前の数は4つ。

対して、殺人の描写を覚えている数は2つ。

川原井はこのうちの2人はまだ生きている可能性が頭の中に出てきた。

逆に、2人は確実に殺されてしまっているという救いのない考えでもあったが。

それに、本当に2つの可能性が高いとは言いきれない。

志村が嘘をついていれば全てがひっくり返ってしまう。

今は目の前のサイコパスの言うことを半分でもいいから信じなくてはならないのが川原井にとっては苦痛であった。


「いや〜すいませんね。

2つしか思い出せなくて」


申し訳なさの欠片すら見せずに、志村は言った。


「見え透いた嘘はいい、さっさと話せ。

こっちは時間が無いんだよ」


「そうですねぇ。

1人目は…学校生活で病んでた子でしたね。

専門学生でクラス内で上手くいっていない人でした」


「よくある話だな。

そんな子をどうやって見分けた?」


「簡単ですよ。

目や表情を見れば、分かるんですよ。

心が病んでいるってことぐらい」


志村は楽しそうに語り出した。

しかし、川原井の目には違う感情も写ったように見える。

なんだ?この違和感は?

語り出してくれたのならそれでいいだろう。

なのに、志村から最初の頃のような余裕を感じないように思えたのだ。

原因があるとすれば、話し出す前、川原井が椅子に座った時に見せた不満気な顔。

眉間にシワを寄せた時から、彼は余裕を失ってきているのではないかと思い始めていた。

このまま、話していけば、何かが掴めるのではないのか。

川原井は部屋に来たくないと思っていたことを忘れ、取り調べに力を入れることを決意した。


「その女の方は通りすがりに泣きそうな顔を僕の前に晒しました。

声をかけずにはいられません。

だから、優しく声をかけ、僕の中へと引き込んだんです。

安い酒で話を聞き、安心させる」


「それで恋人を演じたってわけか」


志村はニコッと笑う。


「そうなりますね。

実際、その当時、他にも女の方が僕の周りにいましたからね。

全員に怪しまれないように恋人を演じるのは難しかったですよ。

結果的に誰も疑わないでくれましたけどね」


4人のうちの誰なのか。

パソコンに打ち込まれる情報が警察内で広まり、捜査が進展すればいい。と思った。

白鷺の娘でなければいいと考えていたのはおそらくは白鷺礼司本人だけだろう。

事件を解決するという目的だけが見えていて、人の心配をしていられるほど川原井は余裕がなかったのだ。

川原井はこの時、白鷺の元で思わぬ自体が発生していることを知らない。

それに、この会話が本当に役に立つのかすら分からなかった。


「家に連れて帰るようになって、スキンシップやくだらない会話だけで彼女は僕に心を許していくようになりました。

僕だけがいればそれでいいと。

僕の言うことはなんでも聞くようになりましたし、僕に執着をしていくようになっていったんです。

でもね、日に日に、やっぱり病んでいくんですよ。

学校生活が上手くいかないとかなんとかで。

それに、僕は彼女以外の相手もしていたので相手できない期間もありますからね。

毎日彼女と一緒にいたのなら、病むこともなかったのかもしれませんけど。

僕はその学校に通っている訳でもない、話を聞いて慰めることしかできないんです。

で、ある日、殺されるなら僕がいいと言われました」


「だから、殺したのか?」


「いえ、まだ殺しませんでした。

まだ熟していないように思えましたから」


熟していない…。

言葉の意味を考えるのを拒んだ。

人を道具だと考えているやつは、別視点からも見ていると考えたくなかった。

果実が熟すのを待つように、志村は自分に心を許す女が意味は分からないが熟すのを待っていたのだ。

果実が実ったが、まだ完成していない、完全に熟していなければ収穫しないように。


「熟すって、なんなんだよ」


「僕に求めることです。

『殺してくれ』と。

そのためには、相手には病んでもらわないと困ります。

だから、僕は優しくするのは前提として、DV紛いのことをする。

従っていれば、捨てられることはない。

僕の言う通りにしていれば、捨てられやしない。

そういう考えを芽生えさせていくんです。

芽生えさせた時に、愛について語る。

愛の証明について。愛の証明はどのようなものなのか、川原井さんには話しましたよね?」


「死…」


「そうです。

僕の考えをそのまま相手に植え付ける。

彼女は僕のことを殺せやしない。

大切な人を失う恐怖があるから。

ならば、僕に殺されるのはどうかと考える。

愛されている人から殺される、自分は相手を愛しているという事実を永遠に残すことができる。

そういう考えになった時、彼女は僕に頼むんです」


「それが…」


「そう、熟した時です」


ゴクッと唾を飲み込む。

石井も唾を飲み込んだのかは分からないが、後ろから音がしたような気がした。

パソコンのキーボードの音が聞こえてきて少し安心する。

川原井は考えてしまう。

この話をずっと続けてていいのかと。

自分はこのサイコパスに飲まれていってしまうのではないのかと。

黒崎から何も連絡はなく、変わる様子もない。

自分は一体、何をしているのだろうかとストレスがたまる。


「熟した時、相手が望むものを与えるんです。

ハグでも、キスでも、セックスでも。

一緒にお気に入りの動画を見たいなんて変なやつもいた気がしますけど。

そのまま、優しく彼女の首に手を回して息絶えるのを目の前で見る。

僕はその光景を見て、射精してしまうんです」


川原井の眉間にシワがグッとよる。

同時に気分が悪くなった。

自分の恋人を殺したやつも死体で致していた変態殺人鬼。

あの時の光景が今になってまた蘇る。

知った時は絶望なんて甘い言葉では足りないほどの苦痛に喘いだ。

殺されたという事実ですら絶望を通り越しているのに、最愛の人の最後をイカれた殺人鬼に奪われてしまった。

吐き気を堪え、手を出さないように抑えながら志村の話を聞く。


「でも、それだけじゃ足りなかった。

何とか、証拠が残らないように、体を分解していきました。

その時の光景ですら、僕は絶頂に達してしまうんですよ。

自分のモノに触らずにですよ?

すごく、いい気分でした」


怒りよりも、川原井には気分の悪さが襲っている。

最初の頃だったのなら、志村に殴りかかっていてもおかしくはない。

白鷺のあの状態を見たあとだと、その気も失せてしまうのだ。

気持ちが悪くて体が思うように動かないといのも理由の1つだろう。


「あ、なんか今思い出しました」


「何を?」


「その女性の名前。

なんか、殺人描写を話したら、急に思い出しました」


「誰なんだ!」


「白石。って言ってた気がします」


「下の名前は思い出せないの?」


「え〜っと。なんでしたっけ。綾、そう、綾でしたね」


すっとぼけているのか、本当に忘れていたのか分からなかった。

かなり前に殺したから覚えていないだけなのか。

それとも、本当に…。

何を考えているのか自分でもびっくりした。

どうしても志村が殺人をしていないという方向に考えてしまう。

天地がひっくり返ってもそんなことは起こりえないと分かっているのに。


川原井はすぐに報告をスマホのメールでする。

意味はあった。

これが志村の罠でなければいいが、奴は話すことによって名前を思い出した。

いや、思い出したのではなく、最初から覚えていたのだろう。

「話すこと」が条件になってくるのだと思った。

また話を聞いていけば、もう1人も分かると考えた。

何を思ったのか、スマホに向かってメールを黒崎に送り出している。

その後、少し落ち着くように時間を置く。


取り調べを再開しようとした時、石井に呼ばれる。


「川原井さん、また…」


席を離れ、石井のパソコンの方を見る。

画面には無差別殺人が起きたことが記されていた。

ある程度の時間が空いてから、また発生したらしい。

前回と同じように、死体にはおかしな点があったらしいのだ。

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