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2人のサイコパス  作者: アズキ
第3章

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16/26

1,浮気

普通の部屋。

外側に見合わず、家具などの内装がきちんとしている。

加湿器やテレビ、ベッドや机、どこをとっても不自由のない暮らしができそうな部屋だった。

電化製品も一通り揃っている。

学生が住んでいるのだとしたら、かなりセンスがいいと言われることだろう。

部屋の角に置かれたベッドの上。

掛け布団に身を包み、泣き崩れている女がいた。


顔を布団から出さずに、声を上げて泣いている。

ベットの横には大きめの窓があり、外から見ようと思えば見れる窓だ。

カーテンは閉まっているとはいえ、その時は白く薄いカーテンだったため、見えなくはないだろう。

外から見ても、掛け布団にくるまっている何かがいるようにしか見えない。

掛け布団越しに聞こえる鳴き声は、少し遠くから聞こえるようだった。

時々、隙間から大粒の涙がベッドの上へと落ちていく。

大粒が故に、ベットに落ちる音が大きい。

ポタポタなんて可愛いものではなく、小さなドンドンという音が響き、すぐ、べットのシーツに吸収される。

部屋には女以外、誰もいない。

どれだけ大声で泣こうが、誰にも知られることはない。

唯一、壁を貫通して隣人に聞こえてしまうかもしれない可能性があった。

流石に、配慮すべきと考え、掛け布団で顔を覆い隠し、鳴き声を外になるべく漏らさないようにしていたのだ。

結果的に壁ドンが飛んでくることはなかったため、そこまでうるさくはなかったと思える。


ここは女の家ではないのだから周りにも配慮しなくてはならない。

自分の家なら、思う存分、声をあげて泣くだろう。

隣人から壁ドンされようが、インターホンを鳴らされて文句を言われようが構わない。

ひたすら、自分がスッキリするまで泣いてみるはずだ。

泣くということにはストレスを軽減する作用もあるらしい。

いつもならその通りだと思えた。

心が満たされ、自分の中の悩みや不安、悲しみを一気に外に放出できて、泣き止んだあとは軽くスッキリした気分になれるのだ。

だが、今はいくら泣いても、軽減されている気がしなかった。


なぜこんなにも心が壊れてしまったのだろう。

浮気の現場を見たから。

答えは明白だった。

明白だからこそ、現実を受け止めるしかなくなり、心が砕ける思いをしたのだ。

自分の家へ戻ることも忘れ、ただひたすらに涙をこらえて歩き続けた。

どこへ行けばいいのかも分からず、何に頼ればいいのかも分からずに、ただ歩いた。

たった1人。

丘の上にいるかのように風を受けた。

風は自分に突き刺さるように感じられる。

痛みはなくとも、心のどこかに傷を負わされているかのようなのだ。

向かい風を永遠と受け、周りの人間などまるで見えない。

夜であったため、涙は人から見えることはなかった。


後ろから1人の男が走ってくる。

女に近ずき肩に手を置き、歩くのを止められた。

女はやっと現実に戻ってこれた。

夜のせいなのか、心の有り様なのか分からないが、深い闇に囚われてしまっていた。

光を探し求める気も起きないぐらいに疲弊してしまっていたらしい。

男は浮気現場を見せてくれた人だ。


出会ったのは、少し前だが、女の顔を見るなり、声をかけてきたことが出会いのきっかけ。

心配された。

表情だけから読み取られた。

女は初めは驚いて、言葉を発せずいにいたのを覚えている。

ナンパかと思ったからだ。

ナンパされることは人生で1度もなかった。

けれども、謳い文句はなんとなく知っている。

「今からお茶しない?」「お兄さんといいことしようよ」そんなありふれた言葉が浮かんでくるのだ。

しかし、男が自分に発した言葉は「大丈夫ですか?辛そうですけど」だった。

その言葉に驚き、興味を惹かれてしまったのだ。


男は女の悩みを真剣に聞いてくれた。

見ず知らずの、初対面の男がだ。

話終わった時、彼は調査をしてくれる事になった。

結果、浮気の現場を発見してしまうこととなる。

女はその事実を受け止めきれずに、走り出し、男にあとを追われた。

かなりの距離を歩いていたが、男は何とか追いついたのだ。

自分の家へと彼女を連れ込み、落ち着くまで居させることにした。


泣きながら、数分前の出来事が頭の中へと蘇る。

未だに、涙は止まることを知らない。

ベットシーツには水溜まりとも言えぬ、シミが広がっている。

絶えず、その場所には大粒の雨が降り続く。

大粒だが、雨ほど多くはない水滴が落ちていく。


ガチャ、という音が部屋の中に響いた。

ギィと扉が開き、玄関から足音がなる。

女は顔をさらに隠す。涙が1度引っ込む。

部屋の光が掛け布団を貫通していて、そこに男の影が現れる。

立ち止まり、こちらを見てから、袋を机の上に置いた。

そして、ドサッと女の横に座る。


「泣いてたんでしょ」


女は布団から顔を覗かせる。

男は女の方は向かずに、正面を向いていた。

女が男の方を見ていることも気にせずに話す。


「信じてたものに裏切られるって辛いよな。

自分はさ、君のこと、助けてあげたいんだ。

僕が裏切らないって、どうやったら証明できるかな?」


女は布団から完全に顔を出す。

男は女の顔をその時、やっと見る。

彼女の目は赤く、充血していた。

泣いていたという事実を確認できた。

男は彼女の肩にそっと手を回す。

もう片方の手にはカッターが握られている。

女は1度、反射的に身を退けるが男が自分を殺そうとしていないことに気がつく。

カッターの刃をカチカチと出し、彼女の手に握らせた。

1枚1枚の刃が少しずつ押し出され、部屋の明かりに照らされて光る。

女は困惑していた。


「切って」


自分の右手の手首を彼女に差し出しながら男が言った。

女は男の目を見る。

男の目は迷いが1つもないように見える。

当然の事ながら、状況を女は理解できていないようだった。


「君に切られるなら大丈夫だよ。

僕が君を裏切らないって証明になる。

死んでも、傷つけられても、君のことを愛するって違うから。

一目惚れ、なんだよ」


女は震える手で男の手首を優しく撫で、切った。

赤く、水とは違う美しさを放つ、血液が男の腕の中を流れ落ち、ベットのシーツに落ちる。

男はまるで痛みを感じていないようだった。

涙のシミができていた横に、今度は血のシミができたのだ。

彼女は何を思ったのか、彼の腕に流れる血が美しく思えてしまった。

彼の腕を掴んで口の方へと持っていく。

今度は、男の方が動揺しているようだった。


女は男の血を舐めた。


「…ッ」


舐められた時に少し電撃が走ったらしい。

男はようやく痛みを顕にしたようだった。


「私も、よく分からないけど、あなたが好き」


一目惚れに近い感情だった。

面白い。心が壊れていて、自分の恋愛なんて気にしてられないはずなのに。

彼の自分への思いを知った。

それだけの事だった。言葉だけではない。

死ぬ、傷つく覚悟を見せられた、それはあまりにも綺麗で美しく、信用できると思ってしまったのだ。

言葉だけだったのなら、彼女は男のことを認めたりはしなかっただろう。

男が買ってきてくれた水やら、少しの食料を口に含み、女は徐々に回復していった。

鼻はまだズビズビと音を立てている。


「これからどうするの?」


「…」


涙に濡れた目。

悲しみに暮れ、光を見いだせずにいる目。

その目は男によって光を取り戻したはずだった。

だが、再び光を失う。

また、違う目を女は顕にする。

光など要らぬとでも言いたげな闇を纏った目。


「殺してやりたい…」


ボソッとした声だった。

男はそれに返答しようとした。


「殺してやりたい!」


男の声を遮り、女は隣の部屋まで聞こえるのではないかと思えるほどの声で自分自身の願望を叫ぶ。

男は動揺を見せずに、彼女に寄り添う。


「分かった。

僕も手伝うよ。でも、まだ待って。

色々準備が必要でしょ?

それと…」


彼女の手の中にあったカッターを取り上げる。


「君も、僕のためにできる?」


女は何も言わず、何も躊躇わずに、自分の腕を差し出してきた。

男の方はニヤッと笑って、優しく彼女の手首を切った。

同じ血が流れ落ちる。

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