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__prologue~~ rabbit holeを通り抜けて2

__prologue~~ rabbit holeを通り抜けて2



 ありったけの絶望感を通り抜けて、浮遊感に支配される虚ろな身体。

 暗闇は思い出させる、……脳裏に浮かんだあのこと、そのこと。

 絡みつく冷気と走馬灯さながら、闇に跡引き、流されていく。

 学習塾のとある成果や……あそこは何人、どこそこはどうなの、

 返却済みの紙切れ吹雪……あちらは心底背筋が凍りついた。

 友達の席次と自分の席次も……今回ばかりはさもありなん、……こと。

 そしてあの日の帰り道に続く……水たまりの上に寂しく揺れた、あめ色少女の曇り傘。

 ……。

 寂しくも悲しい湿気の香り、近くて遠い潮騒の音色――


「――アマリ、見て……」


 抵抗する冷気の隙間を潜(くぐ)り、強引に指で掻き分け垣間(かいま)見た先――

 宙を舞い、傍らを過ぎ去る淡い光が、行く手を照らして先行する。

 

「シャル――――」


 暗闇落とした奈落の向こう、反響する光の影を追う――

 底から吹き出す灯の粒、銀糸に梳かれた雲母の華を見た……


 潮騒の音色――今は強くも頭をかき乱して、寄せては返す、波狭間に打ち据えられる。

 意識を揺らして――散り散りに砕けた音の欠片が、方向感覚を狂わせるよう。

 肌を射抜く冷気が激しさを増して、泡沫弾ける音の粒子―……、耳に手を当て眼をつぶり、ふと拍子に身体が解かれる。。 。 。

 

 優しく冷気が体を包み込んで、胸を押しつぶす圧力は何処(いずこ)へ……知らずに蹲っていたのか、力無くした肩肘が浮かびあがる。

 

「シャル……」


 いったいここは何処なのだろう。

 飛び降りる際の不安な気持ち……胸騒ぎは何時しか響音(おと)に掻き消え、地面に足つく感覚もない。

 耳元過ぎる掌を翳して……

 ほっと息吐(いきつ)く、……自分の手。

 まったくの暗闇というわけではないのだ。

「……いち、に……」

 数える。もみじに広げた五本の指。確かに五本。

 七本見えたのは目の錯覚。暗がりの下、振り手に重なる光の悪戯。

 

「井戸の底……」


 頭上を仰いだ……。

 光差す戸口は新月を倣(なら)い……、顔を隠して見せてはくれない。

 手向けるあちらに空があるのか、大声叫べば答えは返るのか……


「……アマリ」


 予期せぬ闇からか細(ぼそ)い返事(こえ)。シャルだ……。


「来たわね、アマリ。こっちよ、……きて」

 

 首だけ浮かんで、スゥと消える……俯く瞳、掛かる睫毛の端、振り乱した頭髪が影と重なり、跡引く実体をその場に残すよう。


「…………、……」


 暗闇落とした影を拾うように……道中残した輪郭(すがた)を見落とさぬように、……奈落へ導く闇路を歩く。

 ――不思議。

 おそらく……出口は向こうにある。背にするあちらを通り抜けてきたのだ……。

 首筋に絡む手、……冷気の残り香に感じ入る。帰り道はない……。


「アマリ……」


 白い、手首の抱擁。


「……、シャル……?」


 捕らわれる感覚……重く圧し掛かる闇に掴まれて。逃れられない。


「……重いよ」

「重い……私が?」

 可笑しな首の動き……かたかたかた、眼が合う。


「……そうね、一つお話しをしましょう」

 ……“お話し”?


「昔むかしのあるところに……、太陽の沈む夕暮れの国と言われているわ、……そこに、ひと時も眠らない、曇(くも)り眼(まなこ)の龍が住んでいたの。眠い眠いとあくびをかみ殺して、日夜……楽園を育む宝珠を護っていた……」


 澄ました闇……。


「……けれど、ある時うっかり居眠りをしてしまったようなの。消えた宝珠……“これは大変”、目覚めた龍は慌てていたのね、……消えた宝珠は口の中、それに気づかず飲み込んでしまう。訪れた不運……、宝珠にのどを詰まらせた龍は、それ以降、本当に眠れなくなってしまった……。のどが痒いのどが痒いって。けれどもそれで良かったのかしら……、おかげで、無事に勤めを果たせたようね」


 物語の収束、彼方に……十四の光が瞬いているのを目にする。


「お話しの半分はこれでお終い。もう半分は後のお楽しみね……けれど、私ばかり話すのもどうかと思うわ。そうね……もう半分はあなたの口から、……」


 渦を巻く星々の金糸、……胸にこみ上げる幾多の不満、不平。……言葉に出ない。


「……アマリ、あなたのこれからを教えてちょうだい……」


 ……理不尽だ。人形の姿は希薄さを増す。やがて、手のひらにか弱く息をつくようになり、掬いとる光が消えるのを待つと、力を無くして座り込んでしまった。他を制す風情の冴えは感じられない……今はただ見慣れた普通の人形。


「シャル……」


 俯く拍子、目を上げる、『――…………――ッ』、気付いた世界は広がりを帯びて、見知らぬ世界を顕わにしていた。


つ、続くのか

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