__prologue~~ rabbit holeを通り抜けて
大変遅筆です。
__prologue~~ rabbit holeを通り抜けて
柔らかな日差しに顔を背けて……
--暗闇だ。
底深く……真っ暗な常闇が続いている。
--いったいどこまで続く闇なのだろう。
薄闇はやがて奈落の深みに陥り、
果ては常夜の泉満たす闇となる……
常夜の泉の湧き水を汲み出して……天にも昇る味わいを得るのか。
手汗が滲む一繋ぎの蜘蛛糸……託す身の不憫--天地の半ばで一人残される。
--進む、戻る、足竦み嘆願--哀願さえも許されない……
指先の冷たさ、痛みまでも凍りつき……
是非もない、
取っ掛かりを掴めず落ちていく自分……。
それはいっそ潔くも思えて。
三途の川へとたどり着くか、否か……
--暗転……
--海の音
潮騒の弱音が聞こえてくる。
波立つ血潮の幻聴ではない。
今日日耳にした噂は本当だったのだ。
今宵は引き潮ということだろうか……
満月の齎すひと時の神秘、枯れ井戸の底から潮騒が聞こえる……
そんな噂が脳裏を掠めて……
刹那の間−−、吊り下がる人形が視界を遮った。
「いくじなしね――」
人形は語る……。
「飛んでいらっしゃいって言ったじゃない」
口を開くと、拗ねたような声色をつくって。
……微かに、淡く光っているところを見ると、呪い憑かれた人形に見えなくもない。
心臓が飛び出す思いだ。
「アマリ……あなた、失礼なことを考えたでしょ、いま」
勃然と浮かぶ呪い人形。いっそう表情を険しくさせる。少しも目を合わせていられない。存在感際立つその瞳。執拗に静かで、縁取る陰と……呪念居篭る瞳の空虚……日の光がいたく恋しい。
首を振る。
視線の攻防に白旗あげて。
「まったく……慎みのないお子様だこと」
身体を宙に遊ばせる人形。
据え付く手足が短いのか……思うような姿勢をとれないでいる。
「あなた……だれ」
押し黙る人形。
ややもあって、耳元で講釈、落ち着かなくしている。
「……アマリ、あなたが心配でこうしているのに、まったくそれは何たる言いぐさなの……」
項垂れる頭の先、だらりと滴る前髪が跳ねる。
力ある瞳も影が差して、ただ……身に纏う妖の気は衰えることを知らない。
「私よ、シャーリー。シャーリーよ」
……そうだ、彼女はシャーリー。シャーリー人形。
どういう理由か宙を舞う人形。
おかげで身体は自由自在。あちらこちらを飛び回れるのだ。
「下を見て……」
下を見る。
視界は、よくてつま先止まり。
首を捻れば、闇が横たえる。
あまりに深く、底が知れない――闇。
「……怖い」
身を捩るアマリ。
「間違いないわ……、ここはRabbit Hole……」
「ラビット……ホール? やっぱりうさ子……ここにいる?」
……うさ子メス四歳、理由合って蒸発……捜索中、けれど手がかりは得られず。
「いいえアマリ、うさ子はいないわ……。居ても結局見つからずじまいでしょうけど……」
人形は言う。
「どうやら海へ繋がっているみたいね……」
「音……潮騒の?」
「おそらく……。継ぎ目を次第に……僅かに削る音。そうね……アマリ、行ってみましょう」
「……行くの?」
「ええ、そうね……このまま下へ。飛び降りればすぐだわ……いってみましょう」
「行く、の……?」
横たわる闇の袖下を見計らう。
ぐわんぐわんと闇間が蠢いて、漠然とした恐怖が視界を席巻。
――、――――
冷たくて暗い質量の溜り場。
肌身を圧する冷気の渦を抜けて……
Rabbit Holeの暗闇に落ちいる――
続くのか?




