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__chapter1 蓮霧

__chapter1 蓮霧


 人形への意識が暗闇へと交代して、広がる世界を肌に感じるようになる。

 十四の光が瞬いている――

 重く、支えを無くした黒檀の夜天を、落とし捕えた暗色の世界。


「あそこの光を目指せばいいの? シャル……」


 返事はない。微笑み浮かんだ人形(はりぼて)を見る。

 励ます身に『どうして』蘇る不安……覚えた喉の渇きに声を無くす。

 歩く、溺れる闇路に藁をも縋って――暗夜の灯を見た――十四の瞬き……、抑えた裾の端から染み入る……

 ――潮含んだ、ゆきさきない不安……

 ――隙間を漏れ出て足浸す前に、冷たい予感に凍りつく前に……

 ――踏み出す潮路の、一寸先へ…… 

 ――歩く……


 ――踠(もが)いているというのが本当?


 頬を伝わる水の粒――尾を引き流れて跡を残す。

 涙ではなく。湿気の香りが発露を生じ、表情を隠して訴えているのだ。


 ――十四の灯が瞬きを潜める……


 ――近づいてくる……

 ……棚引く光紗――

 ――朧の闇に裾元開かせて……

 ……覗いている――

 ――途切れては重なる朱錦の綾模様……

 ……陰翳暈かした蜃気楼を笠にして――


 ――闇溜りに俯く紅蓮の立木(たちぎ)……啜り泣く光景を目の当たりにしていた。


     ※*※


 十四の枝が虚空に伸びている――。

 綾織る幹に上品な装い、憂いの表情を忍ばせているよう。

 仄かな灯を辺りに振り撒き、紗に服す情景は天女の身こなし……

 “――……――”

 すすり泣く細音(おと)が聞こえてくる――

 ――泣いているの……?

 “ぴとん”、枯枝が揺らいで滴る夜露(よつゆ)。生じる波紋――

 

 気付くとその場で立ち竦んでいた。本当に……いつの間に辿りついたのだろう――。手を伸ばせば触れ合える間隔…――…樹木にかえす手のひらを見て。

 振り返った先――…

 淡い、暈(ぼ)かした闇澹(やみあわい)に浮かんで、知らない誰かの人影があった。

 最初は一つ、次に二つ……間(あいだ)を狭(せば)めて三つ、四つ…五つと……。続く人影は闇模様に呑まれる。

 霞んで……、ぼやけて、重なる輪郭――。見知らぬ姿、……本当に――? 

 ――人影は自分だった……。道中、落とした自分の影。まるでその場に息づくように、瞬間(せつな)に刻んだ自分の姿。佇む自分と、踏み出す自分、つま先着こうと足浸す自分――


「……可笑しな恰好...。」


 よろめいた、人影――。

 ――違う……よろめく矢先に消えてしまった。

 声音(こえおと)したのは背後の幹から……。

 ぽつりと零れた夜露より儚い――。

 

「誰なの――…?」

 

 十四の枝々(しし)がほそ腕を伸ばしている――

 

 軋みを上げる。冷たい空気波がとおる――。

 ……息吸う冷気が喉元を突き抜け、辛(つら)い――。辛い胸内を下す。

 強張る視界、しな垂れる一本のほそ枝をみとめ、くらりと夜闇に棚引くのを目にする。


 ――女、のひと……


 十四の枝々にひっそりと紛れる、夜闇を引かせた少女の姿――。胸元寄せて……姿をみせる。

 

「私はヨウカ...。瑶花というの……」


 瑶花と名乗る、ゆかしい少女。

 夢見るように、呟く声を落とした……。

続くのか...

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