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軍士官学校

 養成所は寮生活だ。軍士官学校なので学費が免除されるだけではなく宿泊費も食費も光熱費も出す必要も無く、衣服も支給される。経済的には有難い。俺も両親も困らない。


 しかし団体生活は想像以上に窮屈だ。教官や上級生達からは細部の不注意までも叱責の対象になる。肉体的な暴力は無かったが、何度も怒鳴られる。同じ班で少しでも遅刻した者がいれば全員が腕立て伏せや腹筋を百回もやらなければならない。


 一人の微細な油断で隊が全滅する場合がある。特に飛行機を扱う空軍では事故防止を徹底しなければならない。連帯責任も過度な叱責も理解できなくはない。しかし毎日毎日怒鳴られたり机を叩かれると頭が真っ白になってかえって混乱する。理路整然と再発防止策を語る教官には俺は好感が持てたけれど、罵声を浴びせる上級生達には好感が持てなかった。


 これでも昔よりマシになったらしい。俺達が入学する数年前までは殴る蹴る叩く暴力が日常茶飯事だったそうだ。教官から棒で叩かれ上級生達から蹴られ骨折した者もいたようだ。


 これこそが軍隊だと考える者が沢山いるけれど、俺はくだらないと思っている。自制も制御もされていない身内への暴力なんて害悪でしかない。理性と統率のとれた暴力こそが軍隊だろう。指揮系統と軍紀を糺す為に上官に服従するのは分かるけれど、暴力に翻弄された奴に服従する理由は無い。


 間違いを起こしたり軍規違反したりした時に最も辛いのは軍法会議だ。直接的な暴力を受けないが三日ほど軟禁状態になったり、納得してもらうまで再発防止策を自力で考えたりしなければならない。実際に軍隊に入ればずっと手足が拘束される場合もあるし、数年も牢獄に入ることもある。国を裏切ったり機密情報を漏らして大損害を与えた場合は死刑になることすらある。


 俺は整備の点検を怠って三日ほど軟禁状態に遭った。精密機械が沢山連結し合っている機体の整備を限られた時間で完璧にこなすのは簡単ではない。これで操縦士が命を落とす場合が有るのだからと強く咎められた。俺は罪悪感を覚えた。


 実際に操縦する前に俺達は整備と訓練と座学で精一杯だった。今まで学校で習ってきた知識では足りない。航空学や気象学だけではなく、機密情報の扱い方や戦術の建て方や国家戦略を習う。整備は細かく複雑で覚えることが多い。様々な圧力に耐えられるように器械体操みたいな複雑な動きをしながら身体を鍛えていく。宙返りをしながら上下左右に身体を捻る。俺はあまり運動神経が良くなかったので休憩時間も頑張った。


 同級生達は様々だった。経済的な理由で入学したので割り切れる者もいるし、愛国心が強い者もいるし、空や飛行機に憧れる者もいる。


 養成所には女は一人もいない。軍隊では筋力や体力を必要とされるからだろう。また、丈夫な女であっても戦場では執拗に狙われる。何人か女性志願者もいたようだが、養成所から拒絶されたそうだ。

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