父の返答
皇帝から男の存在理由を問われた。俺と父だけが呼ばれた理由が分かる気がする。他の者達ならば激昂したり取り乱したりするだろう。父は考古学者として女達を犠牲にしてきた男達の業を誰よりも知っている。
父は俯きながら黙っている。俺も答えられない。皇帝自身が女である上に男に頼らなくても統治してきた事を半ば証明している。反乱軍の鎮圧ですら沢山の女達を起用して成功させた。
黙っている俺達を宰相は睨んでいる。皇帝は微笑みながら答えを待っている。
父は暗い声で、
「男に存在価値は無いのかもしれません」
宰相は驚いた顔をして皇帝に訳す。皇帝が穏やかな声で喋る。宰相が訳す、
「本当にそう思うのか」
父は皇帝を真っ直ぐ見据えながら答えた、
「こちらに来て陛下とお会いして僕は我々南半球の文明は野蛮だと思わざるを得ません」
宰相が訝しそうに訳す。皇帝は執務室の隅に吊るしてあった羊毛の上着を見つめながら話した。俺達が献上した服だ。宰相が訳す、
「お前達は大きな獣を飼い慣らして文明を築き上げてきた。鉄道も飛行機もこちらの世界には無い。それをお前は自慢しないのか」
父も上着を見つめながら答えた、
「我々を今支える文明は数多の人を殺し国や共同体を滅ぼし古い物を壊して成り立った暴力です」
宰相が訳すと皇帝はじっと父を見つめる。視線に気付いた父は振り返り、
「男は妊娠も出産もしません。その上、折角の筋力を破壊と暴力と差別に利用してきました」
宰相が訳す。皇帝が不思議そうな顔をしながら話す。宰相が訳す、
「お前自身は男だろう」
父は肩を落とし、
「僕は強敵と戦って勝って国を富ませた英雄を尊敬していました。けれども考古学者として研究すると、その英雄は性暴力も振るった暴君だと分かったのです。陛下と同じく僕も心の何処かで男の存在理由を問うようになりました」
宰相が訳す。皇帝はじっと父を見つめる。普段の父は温厚だが、歴史を語る時はいつも暗い顔をする。今もそうだ。皇帝は穏やかに喋る。宰相が訳す、
「お前と話して男の深さを知ったよ、テオドール」
父は拱手した。皇帝は俺に振り向き何か言った。宰相が微笑みながら訳す、
「良い父親を持ったな、ウォルト」
皇帝が俺の名前を正確に覚えていたのだ。俺は驚きつつも、
「大変恐縮です」
皇帝は微笑むと合図した。宰相が話が終わった事を告げた。俺と父は拱手しながら頭を下げる。後ずさりして出入口まで向かう。扉が閉まる。
俺と父は溜息を吐いた。結論は男に存在価値がない。実に暗い話だった。しかし皇帝と話せて俺は光栄だと思った。皇帝には統治者としての責任と威厳が有る。どんな困難に襲われても立ち向かう姿が目に浮かぶ。
俺達は宿舎に戻る。




