男の存在理由
皇帝が微笑みながら質問する。宰相は困惑気味に訳す、
「男の存在価値は有るのだろうか。男とは何の為に存在するのだろうか」
荒唐無稽な質問に俺は息を飲んだ。父も目を泳がせながら黙っている。
皇帝は語る。宰相が訳す。父帝が即位した直後、現皇帝が二十歳頃の時に藍帝国で反乱が起きた。この時には疫病が流行り不作の地域が多く人々は困窮していた。医療と食糧を外国から支援を受けていたが国庫も危うい。帝国は富裕層に課税を重くした。反乱はそれに対する反発であった。
北半球では共和制が多い。特に海風列島五ヶ国はここ二百年のうちに王制から共和制に移行していた。まほろば帝国も帝政だが、地方行政は民選の伝統がある。反乱軍は革命を希望していた。
しかし民衆はこの動乱で更に困窮し難民も出た。反乱軍に追われて役人も亡命した。特に海風列島中央部の百合国は藍帝国からの女達を受け入れていた。百合国の領土からは人間の男を殺す毒霧が出ているが、女には無害だ。女しかいない百合国は昔から女権を国是にしている。男達は他の国に逃げて行った。
家族も国も分解される危機。父帝は反乱軍の鎮圧と民生安定を同時にこなさなければならなかった。当時、姫だった現皇帝は父帝に鎮圧の指揮を取らせて欲しいと願い出た。父帝は訝しんだが姫は失敗すれば皇籍を剥奪し、成功すれば皇太子にするように提案した。当時父帝は誰を皇太子にすべきか決めていなかった。姫は正妻である皇后の娘だが女。他に寵妃の生んだ皇子がいたが短気で頼りない。父帝は姫の覚悟を汲んで鎮圧に当たらせた。
姫は人を集めて組織化した。忠義に篤い者達を憲兵に、血気盛んな者達を戦闘員に、知力ある者を指揮官に、忍耐力有る者を兵站に、その他技術者達を説得して協力を仰いだ。性別も年齢も国籍も問わなかった。藍帝国国内にいる外国人も反乱軍に疑問を持つ者は少なくなかった。
組織をした後訓練を施しながら情報を集めていく。準備が整うと鎮圧に向かう。姫は後方から戦略を練っていたが、士気を高める為に最前線に出て自ら戦闘する場合もあった。
反乱が起きてから三年ほどで鎮圧に成功した。民間人を殺傷したり略奪したりした者は処刑され、そうでない者は牢獄に入れ、首謀者達は尋問で洗いざらい白状させられた。反乱軍の指揮者は自殺を図ったが、鎮圧軍に止められた。
姫は指導者を処刑するよりも生き恥を晒した方が抑止力になると考えた。姫を立太子すると決めていた父帝に姫は指導者を婿入りさせる事を提案した。革命の根源的な敗北になる。父帝も役人達も驚き反対したが、姫は鎮圧に成功した。その甲斐があって民生が安定し難民も帰国している。父帝は渋々承諾した。
姫は実際にその指導者と結婚した。現在は十歳の皇子と五歳の姫が育っている。二人が頼りないと判断すれば甥か姪を皇太子にさせる。
現皇帝は鎮圧に成功し結婚し子宝に恵まれている。女帝ならば皇配は一人で良いので後宮の人数は少なくて済むし財政負担も軽くなる。公務と政務をこなしながら妊娠・出産するのは困難だが、即位前に子宝に恵まれれば何とかなる。
鎮圧軍を編成して女も軍事に参加できると実感した。筋力が無くても知恵と忠誠心と胆力で敵を負かすことが出来る。平時でも女達は労働しながら家事も育児もする。何かのキッカケで人を殺傷し共同体や物を破壊する男達よりも女達を支援した方が国益になる。百合国の様に女だけで成り立っ国も存在している。
皇帝は男尊女卑の文化に疑問を持つようになった。
皇帝は再度尋ねる。宰相が訳す、
「男は何の為に存在しているのか」




