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平和条約

 やっと俺達は宮殿に案内された。大広間は俺達三百人が全員が入っても余裕が有る。既に北の人達が着席している。俺達は敬礼すると席を勧められた。奥の御簾に振り返ると人の気配はしない。まだ皇帝は来ていないようだ。


 俺達は資料や書簡を北の人達に渡す。北の人達はそれを受け取り確認していく。皇帝の謁見は具体的な交渉の後になるのだろう。


 南半球の飛行機技術を非公開にする代わりに北半球の潜水艦技術習得も諦める。南半球では全ての国が北半球を攻撃しないと国際会議で議決された。北半球も攻撃を禁止するならば正式に南北で条約を締結する。平和条約の後には交易をするかどうかを話し合う。


 北の人達は俺達を観察しながら署名したり修正案を出したりした。俺達南半球の人間達は皆、髪が黄色いが瞳の色は様々だ。赤・紺・黒の三色の髪をしている北半球の人間達は皆、焦茶色の瞳だ。俺達を珍しそうに見ている。高官・要人らしき人々が通訳と俺達を見比べながら話している。


 北半球の人々は平和条約には積極的だが、相互不可侵よりも文化交流や貿易を望んでいる。通訳を通して俺達の言葉で話している。人類滅亡の危機になるので互いに攻撃しない事を厳守する。潜水艦の技術も飛行機の技術も互いに非公開にする。けれども何をどのくらいどれだけの価値で売買するのかを慎重に決めた上で交易を始める。人の往来も条件付きで認める。


 北の人達は好奇心旺盛だ。俺達に害意が無い。しかし南の要人達は警戒しているのか苦い顔をしている。人的交流が活発になると技術が流出する。関税や価格を間違えると大損する。


 北の人達は幾らか妥協案を出していく。最初は取引する商品を限定して関税を高めに設定し合う。社会や生態系に配慮しながら試験的に取引を開始する。最初から庶民を交流させずに守秘義務を徹底した外交官や軍人だけが交流する。心が読める北の人達は技術者や軍人を避ける。互いに密偵を送るのを禁止する。密偵を見つけたら遠慮なく処罰する。


 南の人達は苦い顔をしながらも署名していく。録音機に宣誓を吹き込む。しかし今頃、南半球でも南北の交渉をしているのでその結果しだいによってはこの交渉が無効になり得る。


 とにかくこちらでは平和条約が締結された。俺達は胸をなで下ろす。書簡と資料を回収すると、北の人達が合図をした。俺達は立ち上がり、御簾に向かって頭を下げて拱手した。


 根気強く交渉していた北の人達が跪いたり片膝を床につけたりしている。藍帝国の皇帝は本当に高貴な存在なのだろう。


 御簾の奥から足音がする。皇帝が入って来たのだ。皇帝は玉座に座る。皇帝が藍帝国の言葉で挨拶した。凛とした女の声だ。俺達の近くにいた北の人が訳す。遠路はるばるようこそ。


 北の人達の合図で俺達は顔を上げ、また着席する。

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