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家畜不在の文明

 藍帝国の首都に到着する前に俺達は簡単に礼儀作法を教わった。胸の前に片手で握り拳を作ってもう片方の手でそれを添える。その時に頭を下げる。拱手だ。俺達はこれから北半球の権威国家である藍帝国を統べる皇帝と謁見する。失礼が有ると処罰されてしまう。


 本来ならば跪いて床に頭を三回付けて起き上がりまた跪く。これを三回繰り返さなければならないが、俺達は南半球を代表した使節団なので省略されている。前回、俺達が神以外の存在には王の前であっても跪かないと主張したのでそれが聞き入れられたのだ。しかし、場合によっては片膝を付いて頭を下げなければならない時も有る様だ。


 皇帝はブラインダーみたいな御簾を隔てて俺達と会う。非常に高貴な存在だ。要人達は苦い顔をしたが従う他無い。事を荒立てれば北半球と南半球との戦争になりかねない。


 また、俺達は飛行機に備え付けていた牛乳を北半球の人達に飲ませたが、下痢の症状を訴えた。牛乳は北半球の人達の体質に合わないようだ。しかし豚肉や羊肉、チーズやヨーグルト等の乳製品は美味しそうに食べていった。下痢も体調不良も起こさない。北半球と交流するならば牛乳を避けるべきだと分かった。


 俺達が皇帝に献上する品物として今回は革製品と羊毛の衣類だ。北半球には馬・牛・豚・羊・象等の大型哺乳類がいない。北半球の人々は魚介類・鳥・鯨類から蛋白質を得ているようだ。衣類には綿や大麻といった植物由来以外にも蚕というの繭で作った絹が有る。


 やはり北と南では文明だけではなく生態系も違う。


 父は家畜に頼らずに文明を築いてきた北の人達に驚嘆し、熱心に質問していく。家畜は機械が発達するまでは食糧以外にも農耕でも軍事でも輸送でも欠かせなかった存在だ。北の人達は川の流れや水車、大型鳥類を飼い慣らして農耕に利用してきた。軍事では武器の開発や軍艦での戦いが発達した。


 今では北半球の人々は潜水艦で赤道を往来している。今頃、何隻もの潜水艦隊が俺達の国・嵐の国に来ているだろう。牛乳を勧められて腹痛にならなければ良いのだが。


 俺達は首都に入って一度休んだ。宮殿に入る前に皇帝や帝国の経歴を簡単に教わった。現在の皇帝は女帝だ。藍帝国以前の王朝では女帝は一人もいなかった。しかし二百年ほどの藍帝国の歴史では三人目である。名前は羅焼磐。黄帝の名前はみだりに呼んだり表記したりしてはならない。「陛下」と呼ばなければならない。


 前の王朝だった紅帝国は疫病によって統治が揺らぎ、貧富の格差が広まり政治腐敗も進んだ。捕鯨で名を馳せていた羅一族に攻められて皇帝は処刑されるのを嫌がり自害した。殉職した者達もいた。羅一族は生き残った旧支配者層をまとめながら新しい王朝を建てた。それが現在の藍帝国。


 父は興味津々でその話を聴いていた。いつも政治や戦争で真っ先に犠牲になるのは女達。父の持論だ。しかし藍帝国の皇帝は女である。

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