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地道な意思疎通

 俺は三十四歳になり、中佐になった。これまでに何度も赤道を越えては北半球の色々な所にパラシュートを括り付けた箱を放った。箱の中には図鑑や辞書や工芸品を入れてある。北の人達がそれらを研究して解読し、俺達に悪意が無い事を理解してもらうのだ。


 考古学者である父から論文を何冊か貰って俺達の数千年の歴史についても知ってもらおうとした。戦争と内乱と暴力の物語が多いので、上官達も政府の役人達も苦い顔をしたが、偽善者面をすべきではないと俺は思う。既に俺達の世界は執拗に北半球からの潜水艦を拿捕しようとしていたのだから、北の人達も俺達が純真無垢ではないと分かっているだろう。


 また、ラジオ局で辣腕を振るっている兄からもレコードや録音機やカセットテープを貰って箱に詰めていた。再生の仕方を図解した説明書を同封している。兄は俺達の世界が実に豊かであるかを強調したがっていた。鉄道も馬車も自動車も存在しており、それによって流通が盛んで商業や金融が成り立っている。兄は巨万の富を得た者達の声と主張を勧めた。俺はその他にも音楽を集めた。


 俺達がそうしているうちに北半球からも反応があった。俺達南半球の難破船の救助をしながら俺達の放った飛行機や資料について俺達の言語で言及している。彼等彼女達は俺達を見下すどころか讃えている。特に飛行機以外にも鉄道と大型哺乳類の家畜化を評価しているようだ。


 また、俺達のいる大陸沿岸部には浮き輪の付いた資料が漂着していた。網にかかって漁師が見つけたり、砂浜で転がっているのを住民が見つけたりしていた。北岸だけではなく東岸にも西岸にも発見されている。それらを各国が分析していく。俺達の国・嵐の国は覇権国なだけあって他国が得たそれらの資料を交渉を通じて研究させてもらっている。


 情報が蓄積されていく。


 俺達は赤道を越えて探索する以外にもその研究成果を学んだり撮影した写真やそれらの資料を分析したりもした。雨天や台風の時には航行出来ないので学者達と議論を重ねていく。


 北半球でも数千年の歴史があり、その間に飢饉・疫病・内政の腐敗が何度も各地であったようだ。特に菱形の大陸では大地が揺れたり、山が爆発したり、全てを壊す強力で高い波が襲ったりする大災害が時折起きている。地震と噴火と津波。俺達の世界では寒波や酷暑が襲ってはくるが、大地や大海原による暴力は受けていない。北半球の一部は凄まじい自然なのだと俺達は驚嘆した。


 また、北半球では戦争は起きているがどうやら俺達の世界よりも頻度は少なく被害も限定的なようだ。確かに建物が壊れ多くの人々が殺傷され、略奪も起きているのだが、勝者は統治の為に略奪と破壊と女子どもへの殺傷を厳しく処罰している。勇将であっても見境ない者は降格される。


 俺達は最初、嘘臭いと感じた。為政者の綺麗事で実際はあらゆる暴力が繰り広げられたはずだ。しかし、資料を解析し続けると、北半球では女の社会的地位が高い事が分かってきた。特にここ三百年では北半球がまとまり始めながら女が俺達の世界への交流を進めてきたようだ。確かに潜水艦の乗組員の三割ほどは女だという救助された者の証言が沢山報告されている。


 北の資料では三つの候補地を挙げている。うぶすな大陸と呼ばれる菱形の大陸の南端、海風列島と呼ばれる列島の南側の大島、盤古大陸と呼ばれる円形の大陸の南側。そのどれかに俺達の編隊が着陸するように指示している。俺は素直に応じるべきだと主張した。上官達は罠ではないかと心配した。しかし、俺達を騙して攻撃するならば最初から潜水艦で攻撃を仕掛けてきたはずだ。


 俺達は北半球の着陸の作戦を練り始めた。

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