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北への準備

 北半球から赤道を渡ってきた潜水艦は何度もこちらの世界の難破船を救助して安全な海域まで送っている。証言者は少なくない。新聞もラジオもその証言を参考に報道している。しかし読者や聴者の耳目を引くために誇張したり虚構を混ぜたりしている。証言者達からの又聞きが噂として広まっており、時折話題になる。戦争と災害と疫病が無ければ北からの浪漫で人類は熱中するところだろう。


 俺は子供の頃から北からの潜水艦に興味を持っていたし、北の人達と交流する為に空軍に入隊した。今、雲の上を飛ぶ新しい飛行機で赤道を越えて北に行く作戦を練っている。


 俺達は学者達から気象学や航空学を学び、技術者達から航空の安全性を確かめ、証言者達による一次資料を読み解く。


 俺達は皆黄色い髪をしているが北の人達の髪の色は赤・紺・黒。逆に北の人達は皆焦茶色の瞳をしているが俺達の瞳の色は様々だ。北の人達から救助された者達の証言集や手記や航海日誌を読むとそれは一致している。


 また、北の人達の中には女性が一割から三割の比率でこちらの世界に来ている。男達と一緒に潜水艦を操作しこちらの難破船を助けているのだ。声の高さや体型で女だと判別出来る。


 北の人達はこちらを攻撃したりも侵略したりもせず、貿易と交流を試みている。言語が全く通じないので難破船を救助した後に辞書や図鑑みたいな書物を渡している。時間があればどんどん話しかけてこちらの言語を習得しようとしている。


 潜水艦を開発しただけあって無線も録音機も充実している。こちらの世界の人達に何か喋らせている。文字を書かせて音読させて後で解読するのだろう。


 安全な海域に曳航すると潜水艦はすぐさま潜って行方をくらませる。俺達の国々の軍が捕まえようとしている事を知っているようだ。俺達の世界が友好的な態度を取らなければ避けたり逃げたりする。


 言語学者をはじめとする学者達がその図鑑と辞書の解読を進めている。語彙も文法もこちらのどの世界とも異なっており、苦戦している。全く違った文明と哲学が発達しているようだ。


 新型戦闘機に武器を搭載して威嚇射撃を試みようと提案する上官がいたが、俺は強く反対した。高性能な潜水艦を製造する文明から報復攻撃を受けるのはあまりにも危険だ。また、北の人達は何度もこちらに進出しているが、友好を求めている。結果的に攻撃の気配を察知したら逃げ、攻撃を受けたら反撃をすることになった。


 こちらに飛行機が来ていないので北の人達は潜水艦に特化しているのだと分かる。仮に北の人達とこちらが戦争になれば内陸に逃げれば避けられるはずだ。しかし俺達の世界は未だに戦争を繰り返しているので一枚岩ではない。大混乱が予想される。


 やはり北の人達とはなるべく友好的な関係を築くべきだと俺は主張する。新しい飛行機を見せつけて自慢するのも良いが、逆に警戒されても困る。


 俺達は侃々諤々とした議論を展開した。

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