人生の転換点
三十歳になった俺は少佐になった。なかなか帰省しない俺に父も母も兄も心配の手紙を寄越す。特に母は俺の休日を知ると基地の宿舎に電話をかける。機密情報を漏らさないように俺は返事を書くし電話越しで母の声を聴いて安堵する。
兄はラジオ局に働いており、頭角を現している。報道を集めて調べる記者達を指揮して受信者達の注目をどんどん浴びていく。情報が早くて正確で分かりやすい。それを兄は座右の銘にしていた。特に経済学を学んでいた兄は不況や好況を分析し、政府の経済政策を解説し、時には鋭く批判したりもした。受信者達だけではなく大企業の経営者達も兄に興味を持った。ラジオ局に広告を頼む見返りに莫大な料金を支払っている。ラジオ局は兄をどんどん昇格させていく。
母は嬉しさと不安を混ぜた口調で兄の近況を語る。兄自身も俺に自慢の手紙を寄越す。父は兄の手腕を認めつつも労働者達の身を案じている。兄は経営者や投資家には興味を持っているが、労働者や貧困層を敬遠している。
家族は相変わらずだと俺は思う。家族には俺の無事を何度も伝えている。
俺は上官達から時々心配されている。恋愛も結婚もしないで不満は無いのか。同期達も部下達も結婚して子どもに恵まれている。妬みも焦りも無いのだろうか。上官達は時折見合いを提案する。俺は良い夫になれるとは思えなかったし、命令一つで最前線に出て戦死する場合があるので丁重に断った。上官達は不思議がったり残念がったりした。
俺が結婚しなくても既に兄が結婚して甥と姪がいる。俺が生涯独身でも誰も困らない。それに今まで俺は誰かに恋慕したことはない。美人や優しい女には憧れるけれど、他の男と交際すれば興味が薄れる。
上官達からは同性愛者かと問われるが、俺は同性愛にも興味はない。女に暴力を振るわずに男同士で楽しむだけなら俺は否定するつもりはない。しかし、同性愛者同士の結婚はどの国においても認められていないし、厳しく罰する国もある。
皆に心配される中、俺は淡々と任務をこなしていく。休む時は休むし、働く時は働く。
そんな中、俺は大将に呼び出された。大きな失敗をした記憶はない。不思議に思ったが、基地の執務室に向かった。
俺が入ると上官達が何人も席に座っていた。俺が敬礼すると大将は俺を見つめながら解説し始めた。
北半球から時折来る潜水艦を調べる作戦だ。俺達のいる南半球の世界では未だ一度もその潜水艦を拿捕した試しがない。従来の飛行機や軍艦では限界である。潜水艦も開発しているが北の潜水艦には遠く及ばない。
しかし、雲の上を飛ぶ新しい飛行機が実践的に運用されている。この飛行機で荒れる赤道を越えて北半球に行くのだ。まずは燃料が尽きる前に戻って帰還する。何かを発見しなくてもかまわない。
俺は嬉しくなった。入隊した理由が正に北半球の人達との交流だからだ。俺は快く任務を引き受けるつもりだ。それが通じたのか大将は本当に俺にその作戦に参加するように命じた。
上官達と技術者達と学者達で慎重に作戦を練る。




