なお、調査は後退した
「わかりません!!」
今回はそんなお話です。
次の日の朝。
屋敷は騒然としていた。
「これはどうなっているのでしょうか……」
母は青ざめながら言った。
「私にも分かりません」
神官は力なく首を振った。
「ただ一つ分かることは、
前代未聞ということだけです」
神官は机の上に積まれた沢山の神書を指刺した。
「こんなものどこにも書いてないのです!
イレギュラーにも程があります!」
神官は絶望していた。
「…外では絶対に闇魔法を使うなと言っただろう!」
父の愛(多分)ある拳骨がまたもやレクトの頭に落ちた。
とても痛そうである。
「痛ぇ!
外はダメだって父さんが言ってたからちゃんと家の中で使ったんだからいいだろ!」
「屁理屈を言うな!」
もうハチャメチャである。
「……問題はこの子ですよ、貴方」
母の視線は影の子狼へ向けられていた。
「ああ……そうだったな」
父は神官に向き合って問いかけた。
「神官。
改めて聞くが、この影の記述はどこにもなかったのだろうか?」
「ええ、なかったですよ!!
一晩中本と睨みあいしてたんですからね!!!」
神官の目元には、
くっきりとした隈ができていた。
「念の為聞くが……危険性は?」
「わかりません」
「能力は?」
「わかりません」
「これは何なんだ?」
「わかりません!」
皆して頭を悩ませた。
「ん〜!相変わらず触り心地がいいなぁお前は!」
…一人を除いて
「レクト離れなさい!
どのような獣か分からない以上近づくのは危険だ!」
「え〜なんで?こんなにもふもふして可愛いのに…」
グルゥ…
「ほら、
こんなにつぶらな瞳してるぞ」
なでなでなでなで。
レクトはすっかり影の子狼を気に入っていた。
「そういう問題ではない!」
「です!!」
「でも確かにふわふわで触り心地は良さそうね…」
母は少し羨ましそうに見つめた。
「だろ!母さんはよく分かってるな〜!」
「妻!?」
「ああ…もうダメだ…神よ…」
父は混乱し、
神官は神に祈った。
少なくとも神官は、
この世の終わりだと思っていた。
「まぁまぁ、父さんも神官サマも落ち着いて__」
「これで落ち着いてられるか!」
「落ち着けるわけありません!」
レクトはあまりにも能天気であった。
「それにしてもレクトには相当懐いているのね」
「俺の可愛い狼だからな!」
レクトは子狼を抱き上げながら言った。
「……少なくとも普通の狼ではありません」
神官は影の子狼を見つめた。
「闇の魔力そのものです」
神官が呟く。
「狼だぞ?」
「影でできた狼が普通なわけないでしょう!!」
神官の悲鳴のような声が響いた。
神官の叫びを横目に、
レクトは子狼を床へ降ろした。
子狼はとことこと歩き出す。
そして__
トプンッ…
カーテンの影へ沈んだ。
「……は?」
父が固まる。
「え?」
母も目を点にして固まった。
神官は項垂れていた。
「あれ?どこ行った?」
レクトが周りを見渡して声をかけた。
次の瞬間。
椅子の影から子狼の耳がぴょこんと覗く。
と思えば、
今度はテーブルの影。
次はタンスの影。
まるでかくれんぼをするように、
子狼は次々と影を移動していた。
そして__
ワフッ
レクトの背後の影から、
ひょこりと子狼が顔を出した。
「おお!そこに居たのか!すげぇな!」
レクトは嬉しそうに子狼を抱き上げた。
「なんっっっにもすごくありません!!」
神官は即座に否定した。
「いや、すごかったぞ?」
「どこがですか!!」
「影から出てきた」
「そこです!!」
「え?」
神官は大きなため息をついた。
「また増えましたね……」
「何がだ?」
「調べることです」
「ああ……」
なお、
調査は振り出しどころか後退していた。
神官の隈は、
いつになったら消えるのだろうか。
____
この時はまだ、
誰も知らなかった。
その影が何であるのかを。
レクトは狼が増えて喜んでいます。
神官は調べることが増えて泣いています。
余談ですが、
読んでくださる方も少しずつ増えてきました。
とても励みになっています。
いつもありがとうございます!




