なお、神書に載っていない
更新が遅れました。
金曜どころか火曜も過ぎました。
時の流れは速いですね。
4話です。
____夜も更けた頃。
勇者用の屋敷、
その一室だけが未だ灯りを落としていなかった。
神官は机に積まれた教本へ視線を落とし、
小さくため息を吐く。
勇者に選ばれた者は、
教会の管理下で保護・育成される。
そのため、
担当神官である彼もまた、
屋敷で寝泊まりしていた。
「やはり……前例なんて見当たらない……」
神官は教会から持参した神書を読みながら呟いた。
机の上には、
読み終えた古びた神書が積み上がっている。
「……そもそも、なぜ勇者が闇属性なのですか」
長年神官を務めてきたが、
こんな事例は見たことがない。
神官は頭を抱えながら、
再び神書へ視線を落とした。
その頃。
レクトは自室で暇を持て余していた。
外出は禁止。
寝る気にもなれない。
勉強する気もない。
本は……もっと読む気がない。
「暇だなぁ……」
指先に闇の魔力を集める。
ブラックホールは怒られた。
「父さんも母さんも魔力探知がすげぇからなぁ…」
だから今回は、
もっと小さく。
もっと安全に。
「こんな感じか?」
指先に集めた闇を指先から離す。
ボトッ。
影が床に落ちた。
闇がゆらりと揺れ、
少しずつ不自然に膨らんでいく。
「おお?」
やがてそれは、
小さな獣の姿を形作った。
子狼に似ていた。
ただし、
全身が影でできている。
黒い瞳だけが、
ぼんやりと光を宿していた。
「狼か?」
レクトは目を輝かせた。
興味深そうに指を差し出す。
影の子狼はレクトへ近づき、
その指先へ鼻先を押し付けた。
敵意が無いことが分かり、
レクトはそっと抱きしめる。
全身は影のはずなのに、
不思議ともふもふした感触だった。
「可愛いな……」
レクトは影の子狼を抱きしめたまま、
その感触を堪能していた。
___ぞくり。
背筋を冷たい感覚が走る。
神官は弾かれたように立ち上がった。
「まさか……ブラックホールでは!?」
最悪の事態が頭をよぎる。
「レクト様!!!!!」
頭で考えるより先に、
足が動いていた。
バンッ!!
勢いよく扉が開かれた。
そこにあったのは、
ブラックホールでも暴走した魔法でもなかった。
レクトが影の子狼を抱きしめている光景である。
「これは一体…!?」
「おー、神官サマ。
何か出てきた」
神官は固まった。
「……レクト様」
「ん?」
「それは何ですか」
「知らん」
神官は頭を抱えた。
額を押えながらさらに問いかける。
「いつからいたんですか」
「今」
「どうやって?」
「なんか出てきた」
「なんか、とは」
「俺も分からないんだよ」
神官は静かに天井を見上げた。
「少なくとも、神書には載っていません」
「へぇ」
「レクト様」
「ん?」
「もう増やさないでください」
「善処する」
神官は大きく息を吐いた。
「……少し触ってもよろしいですか」
「いいぞ」
神官はゆっくりと手を伸ばした。
近づくにつれ、
濃密な闇の魔力が肌にまとわりつくような感覚がする。
それは決して暴力的なものではない。
だが、
聖職者である神官には強く異質に感じられた。
グルル…
影は低く唸った。
「……嫌われていますね」
「そうか?」
レクトは愛おしそうに影を撫でた。
レクトにはとても懐いているようだ。
神官は影の子狼を見つめた。
勇者が闇属性だっただけでも前例がない。
その上、
正体不明の影の獣まで生み出した。
また調べるべきことが増えたのである。
なお、神官の胃痛も増えた。
頑張れ、神官。
影から狼が生えました。
たけのこニョッキッキならぬ、
狼ニョッキッキですね。
なお、
神官の胃痛もニョッキッキしています。




