なお、前途多難である
今回は魔界視点。
魔王側はかなり真面目です。
少なくとも、どこかの勇者よりは。
一方その頃、
魔界では静かな緊張が広がっていた。
魔王家系の跡取り、
ルキウス。
容姿端麗。
礼儀正しく、
魔力制御にも優れている。
剣術の才能にも恵まれ、
誰もが次代の魔王になると信じていた。
____あの日までは。
窓際には、黒い花が飾られていた。
魔界特有の植物だ。
だが、
その花はすでに色を失い、
静かに枯れ始めていた。
「父上、この花、もう枯れてしまっています」
ルキウスは窓際の花を見つめ、
少し悲しそうに呟く。
魔界に咲く植物もまた、闇属性。
だが、寿命を迎えることは必然である。
ルキウスはそっと花に触れた。
「回復魔法を使えば、助けられるかもしれません」
淡い光が、花を丁寧に包み込む。
魔力制御は完璧だった。
___次の瞬間。
花は塵になった。
部屋が静まり返る。
光属性。
それは魔界において、
忌避される力だった。
人間にとっては癒しの力。
だが、魔族にとっては最も相性が悪い。
癒しとは真逆。
つまり、毒であった。
魔界に存在する植物も、生きているものは全て闇属性。
当然の結果である。
「……え?」
ルキウスは固まった。
彼は優しすぎた。
魔王として、致命的なほどに。
「……申し訳、ありません」
ルキウスは小さく呟いた。
消えてしまった花の残骸を見つめ、
ぎゅっと拳を握る。
「…術式自体は成功しているはずなのですが」
「違います!!」
側近が即座に否定した。
「問題はそこではありません!!」
「ですが、実際に花は塵と化してしまいました」
ルキウスは真剣だった。
真剣すぎた。
「……属性の相性に問題があるのでしょうか」
「着眼点は正しいのですが……!」
側近は頭を抱えた。
話が進まない。
「ルキウス。光属性は、魔族にとって猛毒だ」
「猛毒……?」
ルキウスの顔が青ざめた。
「つまり私は今、無意識に毒を撒いていたのですね…」
ルキウスは消えてしまった花を見つめ、
小さく俯いた。
「弱い魔族であれば、触れただけで消滅する者もいます」
「……そんなつもりでは、なかったのです」
「もちろん、
ルキウス様が悪いわけではありません」
側近は慌てて補足した。
「ですが、
魔界で光属性はあまりにも危険なのです」
しかも厄介なことに、
ルキウス本人に悪気はない。
善意で猛毒を撒き散らしてしまうのだから。
優しすぎる。
ルキウスの一番いいところであり、一番の欠点だった。
魔王は静かに口を開いた。
「……この件は外部に漏らすな」
部屋の空気が張り詰める。
魔王家系に生まれた子供が、
光属性。
知られれば、魔界全体が混乱する。
「……承知しました」
ルキウスは真剣に頷いた。
レクトとは違い、危機感はちゃんとあるらしい。
…なんていい子なんだ。
一方、どこかの勇者は全く理解していない。
大違いである。
「まずは、闇魔法の訓練を行う」
「はい」
ルキウスは素直に頷いた。
「では、魔力を手に集中させてみろ」
「……こう、でしょうか」
柔らかな光が、ルキウスの手元に灯った。
とても安定している。
制御技術だけなら、
歴代でもトップクラスだろう。
部屋が静まり返る。
「……ルキウス様」
「ッ…申し訳ありません」
ルキウスは再び魔力を練る。
今度こそ、
闇属性を出そうと強く意識する。
だが、
やはり現れたのは淡い光だった。
教本に載せられるほど美しい。
…光属性の教本なら、だが。
「…おかしいですね。術式も魔力制御も完璧なはずなのに」
側近は顔を覆った。
魔王は深く息を吐いた。
なお、
闇属性は一向に出る気配がない。
光属性。
魔界では猛毒です。
なお、本人に悪気は一切ありません。
一番厄介です。




