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なお本人は便利だと思っている

大人たちは真剣だった。


本人を除いて。

次の日。

勇者家系の屋敷は、朝から重苦しい空気に包まれていた。


なお、レクトは___

「収納便利すぎる!!!!

…見ての通り元気である。


「レクトォォォ!!屋敷の中で使うな!!」

「え?便利なのに……あっ」

レクトの後ろでは、

カーテンがゆっくり吸い込まれていた。

あほなのか。


「いい加減にしろ!」


次の瞬間、

レクトの身体に光の縄が巻きついた。


「うおっ!?」


父による拘束魔法である。

手慣れていた。

悲しいことである。


「えっ!? ずるくない!?」

「うるさい」

そのまま奥の部屋へ引きずられていった。


部屋の中には、既に母と神官の姿があった。

空気が重い。

レクト以外。


「離してくれよ父さん!」

「黙れ」

即答だった。


父は深くため息をつく。

「…改めて言う。お前の力は危険だ」

「えぇ〜?」

「"えぇ〜?"ではない!」


神官は青ざめた顔で頷いた。

「闇属性など、神書を読み漁っても記録すら見つかりません……」

「もし王家や教会に知られれば、最悪お前は消されかねん」

部屋の空気がさらに重くなる。


なお、レクトはまだ事の重大さを分かっていなかった。


「え?なんで?」

「勇者は国の象徴だからだ」

父は静かに言った。

「その勇者が闇属性だったなど知られれば…国中が、いや、世界が混乱する」

「え?そんなに大事?」

「大事だ」

父は即答した。


「……このことは隠す」

神官も母も静かに頷く。

「今後、外では絶対に闇魔法を使うな」

「なんでだよ!」

「さっき説明したばかりだろう!」

父の拳骨がレクトの頭に落ちた。

愛のある一撃である。


…多分。


「いてぇ!?!何すんだよ父さん!」

「……魔力測定の結果は偽装する」


神官が重々しく口を開いた。

「外部には、

“光属性として目覚めた”と発表します」


「そのようなこと、本当に可能なのでしょうか…?」

母が不安そうに尋ねる。


「……やるしかありません」

神官の顔は死んでいた。


「いやでも、俺黒くてかっけぇのしか出ないぞ?」

「出すな」


レクトには無茶を言っているように聞こえるかもしれない。

だが、大人たちも必死だった。


「しばらく魔法の訓練は屋敷内で行う」

「家庭教師も付ける予定だ」

「えぇ〜……」

レクトは露骨に嫌そうな顔をした。

「友だちとか作りたいんだけど」


一瞬、部屋の空気が止まる。

父は気まずそうに目を逸らした。

母はハンカチを握りしめている。

神官は神に祈っていた。


「え?何事?」

気づいていないのは本人だけだった。


「と、に、か、く!」

父は無理やり話を戻す。

「絶対に屋敷の中で暴走するな!」

「…わかったよ」

レクトは渋々頷いた。

次の瞬間。

部屋の椅子が一脚消えた。

沈黙が訪れた。


「レクトォォォ!!!」

「あ、やべ」


何も分かっていなかった。


「…問題は今後のことです」

神官は疲れきった顔で、重々しく口を開いた。


「幸い、レクト様の魔力保有量は非常に高い。

……さすが勇者家系ですね」

「魔力測定の結果だけなら、どうにか誤魔化せるでしょう」

「ですが、今後レクト様が成長すれば、人前で魔法を使う機会は必ず訪れます」

「勇者家系の子息が魔法を使えないなど、逆に不自然です」


「あぁ…」

父の顔が引きつった。


母は今にも倒れそうである。


レクトはまだよくわかっていなかった。

こいつ本当に大丈夫だろうか。


「いいかレクト」

父は真剣な顔で言った。


「今後お前は、“光属性らしく”振る舞え」

「光属性らしく?」

「そうだ」

「どうすればいい?」


部屋に沈黙が落ちた。

誰もわからなかった。

本当にどうすればいいのだろうか。


「……とりあえずキラキラしてればいいのかしら」

母が恐る恐る言った。


「雑すぎませんか!?」

神官のツッコミが響いた。


「ん〜まぁ任せて!」


レクトは得意げに手を掲げた。


次の瞬間、

黒い粒子がキラキラと宙に舞う。


不吉すぎる。

レクトは闇属性である。

光属性の光が出るはずなかった。


部屋が静まり返る。


「……無理では?」


神官が真顔で呟いた。


「諦めるな!!」


父は即座に否定した。

必死である。


「と、とにかく!

まずは魔法の制御を覚えさせるべきかと……!」

「……そうだな」

父は深く頷いた。


「……予定を早めよう」


父は疲れ切った声で言った。


「家庭教師には、

できるだけ早く来てもらおう」

「えっ、父さんまじかよ…」

「え〜…俺外で遊びたいんだけど」


レクトは不満そうだった。

当然だ。

10歳の子供には受け入れがたい現実だったのかもしれない。

一方、大人たちは本気だった。

なお、

一番の問題児は全く危機感がない。


前途多難である。

神官の胃痛は悪化するばかりです。


頑張れ神官。

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