なお本人たちは元気である
勇者と魔王の話である。
なお、
少し様子がおかしい。
____世界には2つの象徴がある。
勇者。
そして魔王。
火は激情に応え、
水は命を潤す。
風は自由を愛し、
土は大地を支える。
光は勇者に選ばれ、
闇は魔王に寄り添う。
何も知らない子供でも知っているこの世界の常識だった。
少なくとも、今日までは。
「うおおおお!黒い!かっけぇ!!」
勇者家系に生まれた少年、レクトは大興奮だった。
ちなみに周囲は凍りついている。
十歳になると行われる魔力測定。
将来を決める大切な儀式であり、勇者家系に生まれた子供は例外なく光属性を宿す____はずだった。
神官は震える手で水晶を見つめていた。
漆黒。
どこまでも黒く、禍々しく煌めいている。
「いや〜!めっちゃかっこよくないです!?ね、父さん!」
「レクト様!!水晶から離れてください!!!」
神官は半泣きで叫ぶ。
無理もない。
レクトはきょとんとした。
「え?なんで?」
なんでではない。
「こ、こんなことありえない……!」
「父さん! これ攻撃とかできるかな!?」
「レクト! 落ち着きなさい!!」
全くその通りである。
「水晶!俺の力を教えてくれ!!」
レクトが水晶に触れた瞬間、
目の前に黒く、先が見えない禍々しい穴が現れた。
「うおおおおおお!!!!
なんだこれ!!かっけぇえ!!!!」
正体はブラックホールであった。
かっこいいで済ませていいものではない。
「レクト!!やめるんだ!!」
「レクト様!力をお治めください!」
その瞬間、
神官が手にしていた杖がブラックホールに吸い込まれた。
一瞬、
誰も動かなかった。
神官は自分の手を見る。
何もない。
ゆっくりと、
ブラックホールへ視線を向けた。
神官は瞬きをする。
もう一度確認した。
やはり、
杖はなかった。
神官の顔から血の気が引いた。
「私の杖ぇ!?!?」
「レ、レクト!戻せ!!今すぐ戻しなさい!」
「えっ?…えっと」
レクトは慌てて手をブンブンと振る。
ボンッ、と軽い爆発音を立てて闇が消える。
次の瞬間。
天井から神官の杖が落ちてきた。
「ぎゃあっ!?」
神官の頭に直撃した。
痛そうである。
レクトは目を輝かせて、
「すげぇ!収納魔法みたいだ!荷物いっぱい持てるじゃん!俺ってもしかしてすごいんじゃ…!!!」
「全然違います!」
神官は叫んだ。
半泣きで。
むしろ泣いていたのかもしれない。
父は天を仰いで、母は今にも倒れそうだった。
そりゃそうである。
誰も言葉を発することができなかった。
勇者家系に生まれた一人息子が、闇属性。
しかもブラックホールを出している。
世界の常識がたった今、音を立てて崩れていた。
なお本人は、とても楽しそうである。
同じ頃。
魔王城でもまた、世界の常識が崩れようとしていた。
「ルキウス様ならば、
歴代でも類を見ない闇属性の才能をお持ちになるでしょう」
側近の魔族は誇らしげに言った。
魔王家系に生まれた子供は、強大な闇属性を受け継ぐ。
それは魔界にとって"当たり前"であった。
少なくとも、
今日までは。
ルキウスが水晶に手をかざした瞬間、水晶が眩く輝いた。
「うわっ!眩しい!!!」
部屋が沈黙した。
そして魔族たちは顔を引きつらせた。
もちろん父である魔王も。
光属性。
それは魔族にとって、
最も相性の悪い力だった。
顔を引きつらせるのも無理はない。
しかし、当の本人は目を輝かせていた。
「父上、見てください。水晶が輝いています」
「……」
魔王は静かに頭を抱えた。
そりゃそうなる。
「どうしたんですか…?何かありましたか?」
そう言いながらルキウスが、
側近に手を伸ばした瞬間。
淡い光が、ふわりと溢れた。
「…綺麗ですね」
ルキウスは小さく微笑んだ。
「…暖かい力です」
ルキウスは、
不思議そうにその光を見つめた。
その横で。
「熱っっっ!?!?!?」
側近が苦しそうに床を転がり回っている。
一目見ても、大丈夫ではなさそうだった。
ルキウスの回復魔法が自然と発動したのである。
光は闇と相反する属性。
魔族にとっては毒であった。
本人は気づいていない。
気づけ。
誰も、どう説明すればいいのか分からなかった。
魔王は何も言わなかった。
いや、
言えなかったのである。
そりゃそうだ。
魔王は静かに途方にくれていた。
勇者家系に生まれた少年は闇属性。
魔王家系に生まれた少年は光属性。
この日、
世界の常識は終わった。
なお本人たちは元気である。
これからどうなるのやら。
世界は大混乱ですが、
本人たちは元気です。
なお作者も、
ブラックホール収納は欲しいと思っています。




