十八話
光に慣れると、そこは大型のホールのような場所だった。
天井からは何かの発行体の光が降り注ぎ、ホールの大きさを露わにしている。
そして一階しかないそこには、ソシアルの姿があった。
「コンタクト!」
抜け道から出た瞬間、向こうにはこちらの姿を既に視認されている。
敵は見えるだけでも五体、ここまでであった下級のソシアルとは違い特徴的な頭の突起物がある。
更に最後の一体には、それまでの上級ソシアルの特徴に加え、ぶよぶよの身体の上に鎧のような装甲が張り付いている。また命令のような鳴き声を上げ、他の上級ソシアルに指示を飛ばしているようにも見えた。
あれは、近衛ソシアル。上級ソシアルの一段階強化されているソシアルだ。
銃撃戦が始まるさなか、間抜けに身体全体をさらしている敵のソシアルはおらず。どいつも天井を支える円柱の裏に隠れ、巧みな射撃でこちらを狙い撃ってきた。
レーナのソシアルが散開する中、盾を持つソシアルをカバーにしている宗太郎の足元にも跳弾が飛んできていた。
「練度が全然違うわ。全然当たらない!」
レーナは拳銃型のアミダ兵器をカバーから腕だけを出して適当に撃つ。レーナのソシアル達も腰だめに上級ソシアルへ射撃しているせいか、銃撃は的確ではない。
その間にも、レーナのソシアルの一体がアミダ核を撃ち抜かれてもんどりうって倒れる。射撃の腕は、向こうの方が一枚上手だ。
「レーナ、ソシアルには円柱に隠れることだけ集中させろ。数は俺が減らす。盾持ちを二体借りるぞ」
宗太郎は二体の盾持ちのソシアルを重ね、その隙間からアミダ兵器のクーゲルを銃口だけ出す。
銃弾を受けても微動だにしない盾持ちのソシアルを支えにして、肩を固めて狙いを安定させる。
「アミダ核を直接狙えない。なら―――」
宗太郎は狙いを十分に絞って、撃った。
弾丸は一番先頭にいた上級ソシアルの頭部、赤外線センサーのある眼に当たる部位を完全に破壊した。
その上級ソシアルは突然視界を失ったことに混乱したのか、見当違いの方向に射撃し始めた。そして、その身体も円柱の陰からさらけ出した。
「もらい!」
宗太郎は舌なめずりして露出した胸元のアミダ核を狙いすましたかのように撃ち抜く。そうしてやっと上級ソシアルの一体は崩れ落ちた。
宗太郎が同じ方法で着々と撃破しているのに上級ソシアルは気づかない。しかし、近衛ソシアルの状況分析能力は違った。
近衛ソシアルは手にしていた銃型のアミダ兵器を捨てると、大ぶりな刃物を持ちだした。
「左から来るわ!」
レーナが忠告した通り、近衛ソシアルが円柱を壁にしてジグサグに迂回しながら接近してくる。傍で円柱に隠れていたレーナのソシアルを一閃して切り裂きつつ、宗太郎との距離を近づける。
接近戦で宗太郎を殺りに来たのだ。
宗太郎がクーゲルでの狙いを近衛ソシアルに変える暇もなく、斬撃が襲う。
「させません!」
横から、アミの左ハイキックが華麗に舞う。その華美な立ち振る舞いに反して、威力はすさまじい。蹴撃を食らった近衛ソシアルの片腕があっさりと、肘から先を刃物ごと食いちぎった。
近衛ソシアルはうろたえることなく、瞬時に残りの片腕でアミに反撃をした。
アミには防御態勢をとる暇もない
「させねえ!」
だが今度は宗太郎がクーゲルの銃口を近衛ソシアルの胸元に押し付ける。おおよそアミダ核がある部位に見当をつけ、アミダ弾頭が射出された。
近衛ソシアルは胸元の装甲に貫通したアミダ弾頭を受け、その動きが鈍った。
そこに、すかさずアミの掌底が突き刺さる。
ドンッ、と大砲の発射音が聞こえたかと思うと、近衛ソシアルはその身体が首の上と腹部から下に泣き別れしていた。あまりの威力に、胸の部分だったものは遥か彼方の天井の隅まで、肉塊となって衝突していた。
なまじ知能がある故か、他の上級ソシアルの動きは乱れ始めた。退却し始めたのである。
けれども退却にはいささか時期が遅れていた。
残りの数少ない上級ソシアルもホールから出ることも叶わず、宗太郎の狙撃とレーナのソシアルの制圧射撃を背面に受けて鎮圧された。
「仲間が呼ばれる前に倒せたのは幸運ね」
レーナはアミダ核に弾丸を受けた自分のソシアルの手当てをしていた。しかし、アミダ核は修復不可能なまでに破壊されていたらしく、レーナはどうにもならないと首を横に振っていた。
宗太郎はレーナに再び隊列を組むように要請した。
「アミ、指揮官ソシアルの居場所は?」
「右手に見える扉の方です」
そうやり取りしている間に、何やら左手の扉の方から物音が聞こえてきた。
「どうやら仲間を呼ぶ必要がないくらい、暴れすぎたようだな」
宗太郎は再度クーゲルを構え、アミもファイティングポーズを取ろうとしたところで、レーナが制した。
「待って、これ以上敵の足止めを受けたら時間がかかりすぎる。ここは私に任せて宗太郎とアミは先を急いで」
「… …正直、レーナの戦力もいないと指揮官ソシアルを狩れる気がしないけどな」
「わがまま言わない。退路を断たれたらそれこそ作戦が台無しでしょ!」
「分かってるよ」
宗太郎はアミの腕を掴むと、踵を返して右手の扉に急ぐ。
扉までたどり着きドアノブを手にした時、左手の扉から複数のソシアルがなだれ込む姿が見えた。
それでも構わず、宗太郎とアミは右の部屋へ入り、扉を閉めたのだった。
そこにはホールに負けじと広く、奥には玉座のようなものがある部屋だった。
玉座は二つあり、一つは空座でもう一つには誰かが鎮座していた。
その風貌は短い白髪の少年だった。衣類は年月によって風化してしまったかのようなボロを纏い。黒曜の瞳が宗太郎とアミに向けられていた。
「来客は、久しぶりだな」
喋ったのは宗太郎でもアミでもない。玉座にいる指揮官ソシアルだった。
「一人は人間、もう一人は私の対か。敵に篭絡されるとは愚かなことだ」
「待ってください。王よ」
その意見に反発したのは、アミだった。
「私は反逆などしに来たわけではありません。ソシアルにとって、そして人間たちにとっても重要なことを伝えに来たのです」
敵意に満ちようとしていた王と呼ばれる指揮官ソシアルは、今一度腰を落ち着かせた。
「なら話してみよ」
王に話を促され、アミは宗太郎よりも一歩先に出た。
「私たちのこのソシアル株は今、壊れようとしています。そのため、機能として元々あった自壊機能がまもなく発動しようとしています。止めるには私と王に備わっている命令回路、それに私たちと下位のソシアルの自爆停止命令を書き込めばソシアル株の崩壊を阻止できます。なにとぞ、お考え下さい」
「自爆とは、終末崩壊のことか」
「―――何故知っているのです!?」
「戯言を、本来なら知っていてもおかしくはない。どうやら人間に命令回路をいじくられたせいか忘れてしまっているようだな。本来、我らソシアルは敵に向かって自爆するために造られたアミダ生物だ。戦場では部下を率い、その勇猛さを振るって敵を微塵に吹き飛ばしていった。覚えていないのか」
「… …それは」
おそらく、アミは覚えていないのだろう。どうやら記憶として戻ったのはこのソシアル株から抜け出すところまでだったらしく、アミの歴史はもっと古いのだ。
「戦場に呼び出されては敵の塹壕を、基地を、街を、破壊しつくした。ここしばらく待機命令を出されてからは静かなものだったが、それももうすぐ終わりだ。新たな命令がまもなく下されようとしている」
「まさか、それが終末崩壊だなんてこと」
「何故疑問に思う? 我々は元々、兵器だ。やはり人間と接して目的を忘れようとしているな」
「そんな。それに、私たちの敵はラクナの街の住人なんかじゃないはずです。ご再考を!」
アミが声を荒げるのも寒風のようにむなしいだけだ。
「馬鹿な。我々は命令を与えられ、目標がなければ近くのものを標的にするのが当たり前だ。兵器が、兵器らしく立ち振るわねば存在意義がない。命令だ。兵器の意義を再確認しろ。王女よ」
アミは一瞬頭を押さえる。まるで攻撃を受けたかのように身じろぎし、その身体は膝から崩れ落ちる。
それでも、アミは正気を保っていた。
「私と王は同じ、指揮官ソシアル。命令回路に命じたところで拘束できません」
アミはまだ頭を抱えつつも、立ち上がった。
「貴方は、ずっとこの穴倉で兵器としての使命だけを感じて生きていたようですが、私は違います。私を家族と呼ぶ人と友達と呼んでくれる人に出会い。その意味と意義を知りました。私たちは人に造られた兵器だとしても、生き方は変えられることを証明できました。だから、貴方も」
「同じように、人と生きろと? 馬鹿馬鹿しい」
王はアミの願いを一笑に伏した。そして、玉座の傍らに置いてある金属製の槍を手に取った。
どうやら戦う意思のようだ。
「もうやめろ。アミ。向こうは聞く耳なんか持ち合わせてないようだぞ」
「分かってます。でも少しでも可能性があると思っていたんです」
アミはその拳を固く結んだ。そこにはきっと希望とか願いとか、落胆や失望が詰まっていたのだろう。
それを握りつぶして、アミは王の前に立ちふさがった。
「だから、そのわからず屋の命令回路を、私がぶっ潰してあげます」
アミはその優しい拳を、決意と共に振り上げた。




