十七話
人工物のじめじめとした陰湿さとは違う。無機質にペンキで塗りたくられた回廊が続き、代わり映えのしない光景に皆嫌気がさしていた。
それでも、ソシアル株の中のため敵のソシアルは出てくるもので、狭い回廊の中ではばったりと出くわしてしまうのだった。
だがそのソシアルを、まどねは軍事演習の所定の動きを忠実に遂行するかのように、出合頭に一撃で葬る。それは見事なカバーリングとピンポイント射撃で、ソシアルが何かしらアクションを取る前に沈んでいった。
おかげで広い所で負傷者が出てしまったのとは逆に、相対するのがまどね一人のためけが人が出ることもなく着々と経路を進めていた。
「この辺りだったかい?」
縦列隊形がその言葉で止まると、全員はばらけて退路の確保と向こう側の偵察に回る。残った宗太郎たち三人は、まどねと向き合った。
「はい、そうですね。通路はこの辺りです」
「でも、おかしいねえ。何も見当たらないのだけど」
「それは抜け道ですから、隠し通路は隠すものですよね」
アミはそう言うと右側の壁をペタペタと触る。赤子が這うような優しいタッチでしばらく壁を撫でていると、小さなくぼみを見つけ、それを押した。
それと共に、壁しかなかった場所に人一人通れる通路がせりあがってきた。
「隠し通路、なるほどな」
宗太郎は感心した。
「さて、それじゃあ作戦通り。そろそろ分かれて進むもうかい。危なくなるのはこれからだよ」
作戦通り、となると。部隊は三つに分かれる。一つは陽動、これはまどねが何人か選りすぐった仲間と共にこの場を離れてできるだけ多くのソシアルを引きつけることになる。
次は指揮官ソシアル強襲組、これは宗太郎とアミとレーナになり、異論は出なかった。そこは宗太郎にとって驚きだが、おそらくまどねへの信頼とレーナのちょっとしたコネのおかげだろう。
残りのハンターたちは強襲組の退路の確保、つまりここに残って指揮官ソシアルを倒した宗太郎たちの帰りを待つのだ。ある意味、一番ヤキモキする役割だ。
「じゃあ、動こうかね」
まどねの号令と共に、ハンターたちは再び動き出す。
そして、もちろん宗太郎もアミとレーナと共に抜け道の中に入っていった。
「思ったより広いんだな」
レーナのソシアル六体のうち、三体は銃型のアミダ兵器を装備し最前線に、残り三体はライオットシールドを持って宗太郎たちのカバーをして進んでいた。
抜け道の中は他の通路よりも暗く、ライトを照らして何とか足元が映し出される程度であった。
「いや、待って。これは通路なんて広さじゃないわ」
レーナが気付き、そう声を上げる。
ライトを左右に揺らし、上下に傾け周りを詳しく見ると、ここは大きな部屋であることを目視で確認することができた。
その部屋には謎の機械と大きな容器が鎮座していた。用途は分からないが、これは古代技術で作られていることは察せられた。
それは、レーナも同じだった。
「すごいわ。この規模の装置は個人所有のものじゃない。工場よ。元々、ここにあったのかしら。そうね。きっと、先に装置が置かれていてソシアル株が作られる際に飲み込まれたのよ」
レーナは作戦中なのも忘れて興奮気味だ。宗太郎には古代技術の価値などとんと知らないが、レーナの反応から見るにいいものなのだろう。
「アミは知らなかったのか? ここにこんなものがあることに」
「はい。私が来た時は手探りで進むのに夢中で、気づきませんでした」
例えその時発見したとしても、アミには大きな装置だなあ。以上の感想はないだろう。
「記憶はどこまで鮮明なんだ。再インストールで―――、記憶はあやふやなんだろ」
「記憶があやふや。と言うと、少し語弊があります。あくまでも消えてしまったのは体験した実感というか、記憶の色なんです。自分の体験が、映画を鑑賞しているかのように他人事で。自分が何を思って逃げ出したのか分からないんです」
アミはそう声のトーンを落として話す。まるで大切なものを落としてきたような、どこか寂しげな言い方だった。
そんな彼女に、再インストールで更なる記憶の体験の欠如を強いるのは、心苦しく感じた。
きっと、それはレーナも同じだ。
「ここが電源かしら… …。ツマミとコックはおそらく… …。キーボードみたいね。番号は虚数と対応してるのかしら… …。興味深い、興味深いわ」
そのレーナは、宗太郎に去来する想いとは裏腹に、大型機械に張り付いて夢中だ。加工屋の中でも専門家な彼女はオタクというか科学者根性というか、周りの空気を読まずに熱心になってしまう探求心がおありのようだ。
「レーナあ?」
宗太郎は半ば強制的にレーナを引きはがそうとした。
「ちょっと待って、もう少し。先っちょ、先っちょだけでいいから。中を見ていいでしょ」
「ダメだ。これは他のハンターたちが猶予を作ってくれているタイムリミットありの作戦だ。悠長している時間なんてあるわけないだろ」
「なによいけず! 女の子がこうして手をついてお願いしているってのに、待てないの? 乙女心を理解している? 私は今、この機械の中をずぶずぶにかき乱して、おっぴろげにしたいだけなの。加工屋なら探求心の一つや二つ」
「レーナ!」
宗太郎は暗闇でも把握できるほど真剣なまなざしをレーナに向ける。レーナは、今までにない本気の宗太郎の迫力に気圧され、口ごもってしまった。
「… …別に、今関係ないとは言い切れないから触っていただけなのに」
レーナは不満を口にしつつも、機械から離れた。
「アミ、出口はどちらだ」
「こっちです」
アミは暗闇の中ライトで道先を案内する。わざわざアミにライトを持たせなくともソシアル特有の赤外線目視で道は見えている。ライトを持たせたのはあくまで、誘導のためだ。
ライトに導かれ、宗太郎とレーナは六体のソシアルを引き連れて後を追った。
「ここです。窪みを押せばいつでも開きます」
抜け道の出口もやはり閉じていて、からくり機構で動く算段になっていた。
「よし、じゃあ。隊列はさっきの通り。出たらソシアルに遭遇なんて可能性もあるからな。レーナもちゃんと集中しろ」
「はーい」
レーナはまだ大型機械に後ろ髪引かれる思いだが、気にしている状況ではない。ここは、敵地なのだ。
「装備確認」
宗太郎の指示のもと、ソシアルも、レーナも手持ちの武器を確認する。アミは確認の代わりに、いつでも動けるように軽い準備体操のようなことをしていた。
「アミ、頼む」
「了解しました。開きます」
アミが窪みを押すと、石のような壁がせりあがり、赫奕たる閃光のような光の筋が三人の眼に飛び込んできた。




