十六話
イエロー山脈を左に眺め、反対側からは天頂へ登ろうとしている太陽を見やり、草原を一台のトラックが走る。
運転席には宗太郎が、他の席にはアミとレーナが、緊張した面持ちで座っていた。
「手伝ってくれる方はどのくらい集まるでしょうか」
アミがエンジン音にかき消されそうな声で心配そうにつぶやく。
「どうかしら、まどねさんが集めてくれているかもしれないわよ」
レーナが少しムスッとした顔で応える。何故かと言えば、レーナ自身が顧客に声をかけた際にはあまり色よい返事はもらえず。せいぜい二、三人しか来そうにないからだ。
「ま、まあ。あまり大勢に声をかけすぎると組合の上層部に気取られるかもしれないし。情報保全のためには仕方なかったのよ」
「… …レーナの人徳が思ったより少なかったのは良いとして」
「止めなさい!」
それでもまどねが最低保証した三十人が本当なら、人数自体は問題ないはずだ。
今は組合に動きを悟られないために、別々に現地集合をしている最中だ。人数は、まだ未確定なのである。
「それも、もうすぐわかることだ」
組合を使って調べた際、原因のソシアル株は思ったより近く。東の廃墟街を抜け、草原を走り抜け、東の森に入ってすぐの場所にあることが分かった。
なので、時間通りなら皆はもう東の森の出入り口で待っているはずだ。
「あ、あれです」
アミが指さす先には確かに、人だかりと車の輪が作られていた。それは約五十人、想定したよりもずっと多いハンターが参加してくれたようであった。
「荷物、装備、ソシアルの状況確認しな」
集まったハンターたちにそう号令をかけたのは意外にもまどねだった。
まどねはまどねで、軽装に防弾性のありそうなタクティカルベストをかけて、いつも加工屋の留守番をしているおばあさんとは思えない、勇敢ないでたちであった。
それには宗太郎だけではなく、アミもレーナも驚いていた。
「作戦を確認するよ」
大まかな作戦は宗太郎からまどねに直接説明は言っている。とはいえ、作戦自体には精密さを欠け、それは現場の力量に任す意味合いも強かった。
だから、後は作戦をどう動かすかはまどね次第だ。
宗太郎は固唾を飲んでまどねを見守った。
「そうさね。バーッと攻め込んで、ある程度クリアして、配達品を所定の場所まで届けたら、返送を待ってサーッと帰る。以上」
なので往年の天才プレイヤーのような大雑把な言いように、宗太郎は肩からがくりと崩れ落ちる勢いであった。
「おい、作戦が簡潔過ぎないか」
「いいのよこんなもの。ニュアンスさえ伝えれば、後はハンターの感で動けばいいのよ」
まどねの言葉は多くのハンターに同感を得たらしく、皆相槌を打っている。理詰めや合理性の方が得意な宗太郎には、如何せんその動物的なセンスは把握しかねた。
ともあれ、ベテランたちの意見だ。従うのがベストであろう。
「そうさね。縦に並んでそろそろ行くさね」
まどねがそう言うと、ハンターたちは子飼いのソシアルも含め、すぐさま見事な縦列隊形を敷いた。あたかも、事前に取り合わせしていたかのようだった。
状況に追い付いていない宗太郎とアミとレーナも、置いていかれそうになっていることにはたと気づくと、レーナのお馴染みのソシアル六体も後に続く。
今回、ソシアルとの屋内戦を考えているため、皆現代的な防弾、ならぬ防アミダ弾頭性のジャケットやベストを着ている者が多く。装備も銃器型のアミダ兵器が多い。
また、ソシアルも屋内戦を考えて銃器型のアミダ兵器を持たせるか、大きな防弾性の盾、ライオットシールドを持たせている。
このライオットシールドはソシアルが通常の人間よりもでかい利点を生かし、負傷した人間の文字通り盾になったり、障害物のない場所でのカバーに変わる何かと便利な騎士たちだ。非常に役に立つであろう。
そうこう頭に人員とソシアルの配置を叩きこんでいると、いよいよ、ソシアル株の住処が見えてきた。
ソシアル株の住処は古代人類のように、洞穴を掘って作った造りになっている。ぱっと見た目はトラック数台が横並びに入れる天然洞窟に見えるが、中に入れば違うことが一目瞭然となる。
内装は外観と打って変わって今度は現代的な間取り、まるでホテルか公共施設を思わせるトリミングがされている。
しかし人間の作るそれらの構造とは違い、部屋は多すぎ、通路は多すぎ、招かれざる客を迷わせるような複雑で入り組んだ建物となっている。
そのため、ベテランのハンターでも指揮官ソシアルがいる王室にたどり着けることはめったにない。
そしてそれは何よりも、迷いやすさだけではない。
「死角に注意、どんどんライトを点けて索敵しな」
まどねの指示に従い、銃器に取り付けたライトを点灯させ明かりひとつないソシアルの住居がライトアップされる。
初めに到着した場所は、いやに縦も横も高さも広い空間であった。
まるでそこはホテルのエントランスである。
「ところでアミ、抜け道っていうのはもっと先なのか」
宗太郎がアミに問う。
「はい、まだまだ先です。迷うほど奥ではありませんが、まどねさんにも事前に伝えていた通りまだ先です」
宗太郎は取り出すのも煩わしいが、念のためアミに聴き取った屋内の地図を再確認する。その地図の絵は精巧に描かれており、ソシアル株の内部の複雑さをありありと伝えてくれている。
今、エントランス部分に来たとするなら抜け道までは更に奥だ。
一同はエントランスの中を通過しながら、シャンデリアのように釣り下がった大きな卵型の何かを見上げていた。
その時、小さい破裂音と誰かが崩れ落ちる音がエントランスの虚空に響いた。
「コンタクト!」
銃弾を受けて誰かが負傷した。それを合図にするように、皆警戒態勢をとる。あるものは連れ立ったソシアルに盾を展開させて隠れたり、身近な遮蔽物にカバーしたり、様様な態勢をとる。
まどねは太い円柱の柱の裏に隠れて声を張り上げた。
「被害報告!」
「一名負傷! バイタルあり!」
けが人は出たものの、まだ死亡していない。その報告に、皆が安堵した。
次は、反撃の時間だ。
「向こうは生体から出る微弱な赤外線で視認してくるさね。ライトをありったけ焚いて撃ちまくりな。近い奴は負傷者の手当てを。他は、合図で撃ちまくるのよ」
皆が各々、自分の獲物の状態を確認し、号令を待った。
「制圧射撃!」
火薬兵器よりも軽く、それでいて空砲のような発砲音がエントランス一階から、エントランス二階と一階の奥に向けて放たれる。
その間に、負傷した誰かさんは盾を持ったソシアルに庇われ、他のハンターに傷の手当てを受けているようだった。
こちらが発砲するとなれば、もちろん相手側も撃ち返してくる。
「二階、左から三本目の柱の裏!」
煌々と照らされるライトに、体長二メートルののっぺりとした白い巨体が映る。
そして撃ち返された弾が椅子のような造形物の端をえぐり、柱の曲面をなぞるように飛来する。
その反攻も、更に冷静に撃ち返したハンターのアミダ弾頭の一発で静かになった。
「撃ち方、止め!」
まどねの命令と共に、銃撃は止み、サーチライトのように周囲を光で探索する。
「クリア!」
どうやら潜伏していた敵のソシアルは一体だけだったらしい。緊張の糸は緩んだせいか、一部からは聞き取れない程度の話声が聞こえてきた。
まどねは隊の先頭から負傷者の方に駆け寄り、体調を聞いている。負傷者は具合は良さそうだが、脚を撃ち抜かれたため、ここで離脱するようだった。
まどねは頷いて、感謝とねぎらいの言葉を伝えてから、改めて隊の先頭に戻った。
「さあ、まだ先は長いよ。私についてきな」
まどねの言う通り、ここはソシアル株の喉元にも達していないのだ。
先は更に続く。




