十四話
「許可が下りないって、どういうことよ!」
アミと仲直り押してから丸一日かけてラクナの街に戻ってくると、すぐに組合に状況を話し、組合の上層部に掛け合ってもらった。
しかし、話はうまくいかない。
「だから、許可しないとは言ってないっす。ただ会議にかけるには少なくともあと三日かかるって言ってるっす。もっと情報を集めて、慎重に正確にコトに当たると」
「それが街が吹き飛んだ後じゃ遅すぎるわよ!」
「レーナさん。声が大きすぎるっす」
レーナは珍しく口角から泡を飛ばすほどに声を荒げる。それも当然だ。アミが自身の人格を賭けてまで作戦に協力するという覚悟を見せてくれたのに、その作戦計画そのものが時間遅れになろうとしているのだ。
自分の声で組合にいる全員がザワリと揺れるのを感じ、レーナは声量を抑える。けれどもその身体からはまだ憤りが見てとれた。
代わりに宗太郎が会話を引き継いだ。
「組合の決定に時間がかかるのは分かった。だがかなり優先度の高い情報なんだ。何とか説得できないのか」
「無理っす。上の人は頭が固いから優先度は早くから来てた情報順になるっす。ソシアルの怪しい挙動は今週に入ってから何百件も入ってるからどうしても優先度は上げられないっす」
「ダメか… …」
宗太郎は頭を抱えた。
「こうなったらうちの顧客から頼まれているソシアルを盾に交渉しましょうか。顧客リストを見れば一人くらいは組合の上の人が当たるかもしれないし」
「そうなったら加工屋の信用問題になるだろ。二度と仕事を受注できなくなるぞ」
「そんなの全部解決してから気にすればいいわ。今、この問題が解決しなければ三日後生きてるかどうかって話よ」
「方法が性急すぎるって言ってるんだ。俺は、無理でもばあちゃんなら。―――ああ、分かんねえ。そんな口利きなんてしたこともしてもらったこともないぞ」
アミを除く、宗太郎とレーナは頭を並べて考えた。それでも、妙案が出てくるわけでもなく、その日の時間は刻一刻と流れていく。
受付に陣取り、半刻ほど話し合っていると、受付嬢が手を挙げた。
「あの… …。少しずるい手だけど狩りに行く方法はあるっすよ」
その言葉に宗太郎もレーナもピクリと動いた。
「聞かせてくれ」
受付嬢は声を押さえて話し始めた。
「通常は狩猟に際して狩猟許可証か討伐依頼があれば書類上の討伐は可能なんっす。それとは別に、宗太郎さんも経験があると思うっすけど、危険性の高いアミダ生物と偶然遭遇した場合の緊急討伐は事実上書類はなしで可能なんっす。緊急討伐は自己保安として組合が保証している個人の自由っすから、禁止することはできないんっす」
「しかし、それは権利を悪用した乱獲につながるんじゃ?」
「だから事後の書類は必要なんっす。悪質な場合はもちろん、狩猟許可証取得権永久剥奪もありえるから、今回の件で後々響くこともあるっすよ」
「別にいいじゃない。どうせ私たちには副業なわけだし。そうよね」
レーナはやる気満々だ。宗太郎はというと、少し不満そうだ。
「お前はいいだろうけど、俺のうちは小さな加工屋だぜ。経営に響くのなんのって」
「だらしないこと言わない! いざとなれば、アミに組合に入ってもらって養ってもらいなさいよ。ま、それはそれで女々しいけど」
ちらりとアミを見やると、彼女は彼女で。
「が、頑張ります」
と能無しヒモ男を養う気構えのようなものを見せていて、宗太郎としては額に手をやって見たくもない姿だった。
だが、こうして狩猟するための突破口は開けた。
「後はこのちんどん騒ぎに加わる有志達を集めるだけだな」
「あら、そんな楽しそうなこと私の相談なく始めるのかい」
大山加工店、つまり自分の家に戻った宗太郎はこれまでの経緯を話すと、まどねはそう言葉を返した。
大人しそうなイメージがあったのだろう。一緒についてきたアミも目を丸くして驚いていた。
「ばあちゃんも、もう歳なんだからそんなにはしゃがなくていいぞ」
「何言ってんだい。お祭り騒ぎにこのまどね、行かねば一生の恥ってもんさ」
「祭りってほどのことじゃなんだがな」
まどねは、そうと決まればとばかりにどこかへ電話をかけている。宗太郎が知る限り、まどねの知り合いには中堅や熟練のハンターが多く。まどね自身も宗太郎のようにアミダ兵器をひっさげて、加工屋の赤字補填に狩りに出向くこともあったそうだ。
今は歳になり、更に宗太郎という孫もいたことから加工屋を離れられないことが多くなり、快活さは息をひそめていたが、こうしてまた息を吹き返している。
「暇をしている馬鹿どもなら三十ほどは集まりそうだが、腕のいいのは忙しそうだねえ。人数足りるかい」
「多ければ多いほどいいけど、最悪俺たち三人だけでも潜り込むつもりだってのに。人数増えたら作戦も考え直さないと」
「大丈夫さ。いざとなったら馬鹿どもを囮にして指揮官ソシアル一体は宗太郎たちが何とかすればいいさ。問題ない。問題ない」
レーナも別口でハンターを集っているがこの様子なら、人数には困りそうにはない。逆に、大人数でどう動くか作戦をたてなければいけないと思うと、多くの命をまかされたようで重苦しい。
レーナから作戦の骨格は任せると言われている宗太郎は。腕を組んで考えていた。
それを、アミは横で心配そうに見つめていた。
「私も何か手伝えませんか」
「そうだな。アミ、指揮官ソシアルの片割れはほぼアミと同じスペックと考えてよかったんだったよな」
「はい、身長、体重、髪の色、髪質、とも同じです。名前はありませんでしたが、私は王女、彼は王子と呼び合っていました。王子が戦っているところは実際見たことありませんでしたが」
「不確定要素が多いな。まあ、アミがついていれば大丈夫だろ」
アミは自分が頼られていることに気付き、顔をやや上気させて小躍りした。
「基本的に、ソシアルは自分の株を侵入侵略されたと感じると、免疫機構。つまり防御態勢に入る。防御と言っても積極的排除に移るから、ほとんどが持ち場から離れる。そして―――」
宗太郎の言葉を、アミが受け取り繋げる。
「はい。私が株から抜け出した秘密のルート、抜け道を通れば王子のいる指令塔、つまり玉座はすぐそこです」
「ああ、手薄になっている間にそこから侵入するのは俺とアミ、そしてレーナだ。ケリは俺たちでつける」
「はい」
「とは言っても」
と、宗太郎がアミを真っすぐに見た。
「決行は明日だ。今日は準備を整えつつ。明日に備える。こう行進続きで身体が疲れてちゃ、アミダ生物を狩るなんてことはできないしな。アミも、休め」
「私は、私は大丈夫です」
宗太郎はアミの肩を二度優しく叩く。それは慈愛に満ちたものだった。
「疑わないさ。でも万が一もある。急いでも、アミの再インストールのこともある。それは十分時間をとれるし、慌てることじゃない」
これは、アミの最後の自分としての時間であることも含めて、宗太郎は言った。
「仮眠をとったらどこかに出かけよう。思い出は、あればあるほどいいだろ」
宗太郎は、そう言って自室に引きこもった。
一方、アミはと言うと壁に寄りかかり、ふと呟くのだった。
「思い出なんて、消えてしまうなら意味なんて、あるんですか?」




