十三話
アミは死ぬ。全員死ぬ。
その事実に至るには少しばかり長い話になる。
レーナは補足するように口を開いた。
「オットー博士から終末崩壊について聞いたことは?」
アミは首肯しなかった。
「終末崩壊は主にアーマネスに搭載された命令回路による安全装置よ」
レーナは言う。
アミダ核には命令回路によって自壊するプログラムを組むことができる。これは元々アーマネスのような旧時代の戦略兵器に組み込まれていることが多い。
戦略兵器が何らかの理由で手元を離れたり、操作不能になった場合。終末崩壊は管理不能な状況を続けない安全装置として作用しているのだ。
ただし安全装置というのは情報機密においてのみであり、自壊作用は凄惨なほどに破壊的だ。
小さなアーマネスでも一軒家ほどの範囲で、気化爆弾のような壊滅的なダメージを与える爆発を起こす。つまり情報隠滅だ。
この終末崩壊がプログラムされている期間は、数か月から数百年と短かったり長かったりするため旧大戦が終わってから長い年月を隔てた今でも見られるのだ。
「問題はこの終末崩壊が、ソシアルにも搭載できるってこと。俗称でアーマネスソシアルとも言いましょうか。それが、アミを襲ってきたソシアルの正体。かのソシアル達は終末崩壊を迎え壊れかけているのよ」
「壊れかけている?」
「そう、だから今までアミに近づこうともしなかったのに急に行動が変わったり、株を離れて街に出てきたり、街の中で爆発したりするのよ」
レーナは伏し目がちに語る。
「アミたちが来た時に起きたガス爆発。あれは原因が不明だったからそう呼んでいたのだけど、今わかったわ。あれはソシアルが終末崩壊を起こして廃墟街の地下を破壊していたのよ」
東から来るソシアルは地下の水道をたどり、西へ浸食している。今は廃墟街だけの被害で済んでいるものの、いずれ街の西側、人間たちの居住地が爆発に巻き込まれる。
それは、何としても阻止しなくてはならない。
「私は、もう、助からないんですか」
アミは怯えるように訊いてきた。無理もない。自分の命日が後数日などと言われたら、怖がらないほうがおかしい。
「というより、アミしかこの災害は止められない。指揮官ソシアルなら命令回路に下位のソシアル達に爆破停止命令を出せるはず。今すぐ、命令回路を書き換えるべきよ」
「レーナ、よせ!」
一度命令回路を書き換えられたことがあるとはいえ、命令回路はアミの人格の死も表している。そう簡単に承諾できることではない。
アミは死と、人格の死を目の前にして青ざめた顔をしていた。
「… …考えさせてください」
即答できるわけがない。アミはどこかへ行こうと、ふらふらと立ち上がろうとした。
だが、立つことはできない。アミは頭を押さえ苦しそうにすると、そのまま倒れてしまった。
「おい、アミ」
宗太郎が駆けつけた時にはアミは意識を失い、床にうずくまってしまっていた。
アミが目を覚ましたのは、それから二時間経ってからのことだった。
命令回路の再インストールを提案したレーナは今こそするべきだ。と強行しようとしたのを、宗太郎は頑なな説得によって止め。そのまま時間が経過してのことだった。
「アミ、目が覚めたか」
アミは上半身だけを起こして、少し虚ろな目をしていた。
「はい、私、思い出しました」
「思い出した?」
「オットー博士にアンインストールされる以前、私がまだ指揮官ソシアルとして自覚していた時の記憶です」
アミはすくっと立つと、宗太郎とレーナに向き直った。
「今私は記憶と共に自爆コードも思い出しました。もし、アンインストールを強要するようなら、ここで運命を共にしてもらいますよ」
レーナは名指しされたみたいにギクリとした。もちろん、宗太郎も無反応なわけではない。
「お前の気持ちは当然考慮している。他にも何か見落としていることがあるはずだ。少し時間をかければ… …」
「時間なんてありません。私は再インストールが唯一の方法だと思っています」
「うん?」
なら、話は簡単ではないか。と思った矢先。アミはしかし、と言葉を挟んだ。
「しかし、まだ私は再インストールされるべきではありません。それについては説明させてもらいます」
アミはいつもより、冷たく暗い口調で話し始めた。
「レーナさんが言う通り、私は人間によってプログラミングされたソシアルです。ソシアルですが、終末崩壊以外にも他のソシアルと違う点があります。それは指揮官ソシアルが私を含めて二体いることです。今まで下位のソシアルが取り返しに来なかったのは、そのせいでしょう」
「指揮官が二体? どういうことだ」
「それは終末崩壊と同じ安全装置です。普通のソシアルは一体の指揮官ソシアルを機能停止命令にすれば全体の活動が止まりますが、私たちの株はそうはなりません。一体の指揮官ソシアルを機能停止命令をさせても、もう一体が機能停止命令を妨害する。つまり任意停止防止のために私たちは二体いるのです」
「つまり、今アミに機能停止命令を出させても株全体としては止まらないってことか」
「そうです。もちろん、終末崩壊も止まりません。株としての私たちを止めるには、もう一体の指揮官を破壊するか、もしくは確保して同時に機能停止命令を出す他ありません」
アミははっきりと明言した。
「なら四日以内、いや再インストールも考えると三日以内にアーマネスソシアルの残りの指揮官ソシアルをどうにかしないといけないな。組合に応援を頼むか」
宗太郎がばつの悪そうなレーナに問いかける。レーナは声を掛けられたことに驚いたのか、素っ頓狂な声で応えた。
「え、ええ。緊急性が高いならいけるんじゃないかしら」
「なんだ? 意気消沈して、アミに再インストールを強要したのを申し訳なく思ってるなら、俺もお互い様だ。他の方法を思いつけずにいるからな。こういう時は、あれだ」
宗太郎はレーナに耳打ちする。レーナはそれを聞くと、泣き虫小僧みたいに黙って頷いた。
二人は並んで、揃って頭を下げた。
「すいませんでした」
「すまなかった」
アミは思いもよらない謝罪に慌てた。その姿はいつものアミ、そのものだった。
「そんな、謝らないでください。元々、私が元凶のようなものですから」
「それでもこれはケジメだ。どんな境遇であれ、強いたのは悪かった。許してくれとは虫のいい話だが、謝りたいんだ」
「わ、分かりました。頭を上げてください」
アミは二人に頭を下げるのを止めさせると、少し考えて代わりを提案した。
「それなら私、レーナさんの言う衣装を着てみたいです。色んな服を着てみて気に入ったのがあったら一着ください。そしたら、許してあげますよ」
レーナはそれを聞いて、パッと明るくなった。
「当然よ。一着どころか何着でもあげるわ。その前に採寸しなきゃ、特注品を作ってあげるわ」
「お、お店で飾っているのでも、いいですよ」
「それはダメ。ダメよ。私が作ってあげるんだから身体にぴったりのものじゃなきゃ。アミは足も長いのだし、スカートだけじゃなくてズボンもいいかもね。それに―――」
レーナもいつも通りの明るさを取り戻し、饒舌な語りでアミを困惑させた。宗太郎はその様子を見て苦笑していた。
そんな中、ふと宗太郎は研究室の机の上にある写真立てに目が向いた。
「これは… …」
宗太郎はちらりとアミとレーナの方を向いて、何か納得したように独りで頷いた。
そして、宗太郎は写真立てをそっと伏せるとレーナを落ち着かせるために二人に近づいていったのだった。




